在宅時間が増えたことで子どもたちが自宅、近所で遊ぶ機会が増えた。換気のため窓を開けていることも多く、にぎやかな声が聞こえやすくなったという人も多いだろう。

こうした「声」にストレスを感じる人もいる一方で、近隣に聞こえるほどの泣き声だと心配になることも。連日激しい泣き声が聞こえるようだと、虐待の可能性も疑ってしまう。

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ただ、聞こえているのは声や音だけ。本当に虐待か確認することができないため、児童相談所や警察に連絡するのはためらわれる。

そこでNPO法人児童虐待防止全国ネットワークで理事を務める子育てアドバイザーの高祖常子さんに、子どもの泣き声などが聞こえてきた時の対応について聞いた。

「壁を叩きつける音」「罵声」が連日聞こえる場合は要注意

高祖さん曰く、「近年『近所の子が虐待されているかも』という通告は、増えているように感じる」とのこと。

「年々、出生率が下がり、日本の中で子どもがマイノリティな存在になりつつあります。その事実と比例して、日常的に子どもの声を聞く機会が減っているために、不意に聞こえた子どもの声に敏感になる人が増えているのかもしれません」

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近所の子どものSOSに気づけるのであれば、いいことだといえるだろう。ただ、機嫌を損ねて泣いているのか、虐待されているのか、その判断は難しい。通告する目安はないだろうか。

「子どもの泣き声だけで判断するのは、とても難しいこと。例えば、夜通し泣いていたとしても、『夜泣きが激しい』というその子の個性かもしれないからです。ただ、壁を叩きつける音やものを壊す音、大人の罵声や怒声とともに、『ギャー』という悲鳴のような泣き声が聞こえたら要注意。子どもが心配でたまらなくなるくらいの音がしたら、児童相談所への通告を考えましょう」

また、声や音以外にも、注目すべき点があるそう。

「聞こえてくる声や音が気になるようであれば、その家庭の親とすれ違った時に、挨拶をしてみましょう。一般的に虐待が起きている家庭は、外部とのつながりが希薄という傾向があります。人とすれ違っても挨拶をしない、子どもに『さっさと歩け!』などと怒鳴る場面を何度も見かけるようであれば、その家庭の親子関係が心配です」

虐待と同様に、DV(家庭内暴力)も近隣の通告から発覚するケースがあるという。

「大人同士のDVの場合、泣き声が聞こえるケースは稀でしょう。虐待と同じように壁を叩きつける音やものを壊す音、極端に相手をバカにしたような罵声が頻繁に聞こえるようであれば、DVの可能性があると考えられます。その家庭の人を見かけた時に、ケガやアザがあるようであれば、通告した方がいいかもしれません」

「通告」が悩みを抱えた親子の救いになる

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聞こえてくる声や音、家庭の雰囲気から、虐待やDVの可能性を感じたとしても、「大ごとになりそうだから…」「実際は問題がなかったら、通告した自分が責められるのでは?」と通告を避ける人もいるだろう。

「虐待やDVは一般の人が判断できるものではないからこそ、『虐待かな?』という疑いがある時点で通告していいものとされています。虐待かどうかは、児童相談所が判断するものです。また、基本的には匿名で話せるので、後々責任を問われるようなことはありません。近隣の家庭に対して違和感を覚えたら、通告してほしいです」

通告の窓口として、全国共通の電話番号が用意されている。

●児童相談所虐待対応ダイヤル「189(いちはやく)」
(24時間365日体制、通話料は無料)
※一部のIP電話からはつながらない
●DV相談ナビ「#8008(はれれば)」
※一部のIP電話、PHS等からはつながらない
●DV相談+「0120-279(つなぐ)-889(はやく)」(24時間)
※メール(24時間受付)・チャット(12時~22時)もあり、10カ国語対応

虐待の実態がなかったとしても、児童相談所への通告が、その家庭の親や子どもを救うことにつながるケースがあるとのこと。

「児童相談所は虐待の相談窓口という役割だけでなく、障がい児の支援や子育てのサポートなども行っています。通告があった家庭に伺う際も、『子育てで困ってないですか?』などのように話を聞くところから始まると聞きます。日々のストレスから子どもに手を上げていた親が、児童相談所のサポートを受けて、子どもと良好な関係を築けるようになったというケースもたくさんあります」

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中には、先の見えないワンオペ育児に疲れ切ってしまっていたお母さんの元を、通告を受けた児童相談所の職員が訪れた事例もあるという。お母さんは、自治体が提供する一時保育や子育て講座の情報を提供してもらったり、職員や支援者と話したりすることで、他者とのつながりが増え、子どもと向き合えるようになっていった。

「通告されたことで『虐待って疑われた』と憤慨する人もいますが、児童相談所は子育ての専門機関なので、通告がその家庭を助ける可能性も大いにあります。虐待に限らず、子育てに悩んでいるような人を見かけたら、児童相談所に相談するという道を示すことも、解決策の1つだと思います」

「ご近所さん」だからできる子育て世帯へのフォロー

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虐待まではいかなくとも、日常的に親が子どもを叱る声や、子どもの激しい泣き声が聞こえて心配な場合は、「ご近所さんとしてできることがある」と、高祖さん。

「すれ違ったら挨拶をする、子どもが一緒なら『大きくなったね』と声をかける、そういうことの積み重ねで顔見知りになることが大切です。子育て中のお母さんやお父さんは、閉塞感や孤独感からストレスを抱いてしまうことがありますが、“周りの人が見守ってくれている”と思うだけでも、心にゆとりが生まれるものです。虐待やDVは、イライラの爆発が原因で起こることも多いので、防止につながるともいえます」

近隣の人との仲が深まれば、夫婦関係や子育てに関する悩みを相談できる間柄になれるかもしれない。

「お互いに打ち解けた関係になれたら、子育てが大変そうな時に、『うちで子どもを遊ばせている間に、買い物に行ってきたら?』と助け合えるかもしれません。身近な人に相談できたら、もっと子育てしやすくなると思います」

顔見知りになれば、泣き声が聞こえた翌日に「昨日泣いてたみたいだけど、大変だったね」と、声をかけることもできるだろう。コミュニケーションを取ることが、近隣の家庭の異変に気づく第一歩といえそうだ。

高祖常子
子育てアドバイザー、キャリアコンサルタント。保育士、幼稚園教諭、社会教育主事、ぴあカウンセラーの資格を持ち、過去14年間「育児情報誌miku」の編集長として活躍。現在は虐待防止と家族の笑顔を増やすための講演、執筆、ボランティア活動を行う。著書に『こんなときどうしたらいいの? 感情的にならない子育て』(かんき出版)、『男の子に「厳しいしつけ」は必要ありません! どならない、たたかない!で才能はぐんぐん伸びる』(KADOKAWA)など。

取材・文=有竹亮介(verb)