6月特集は「隣人ディスタンス」。ドアの開閉音や洗濯機の運転音…生活で発生するさまざまな音は隣近所との距離が近い、集合住宅だと特に悩ましい問題だ。

こうした音の伝わり方には、2つの種類があるのをご存じだろうか。「空気伝播音」(空気音)「固体伝播音」(固体音)に分けられ、対策のしやすさも変わってくるという。

そこにはどんな違いががあるのだろうか。防音対策の専門企業「ピアリビング」(福岡県宗像市)に、音の違いや手軽にできる防音対策などを伺った。

力や振動が伝わる「固体音」は問題になりやすい

ーー日常生活での主な騒音を教えて。

日常生活で聞こえる音の大きさは、夜間の静かな状態で30~40db(デシベル)、昼間で40db~50dbです。これ以上は騒音と感じることが多く、実際だと、お子様の走る音(約50~65dB)、楽器の演奏(約80~100dB)、自動車のエンジン音(約70~80dB)に悩む人が多いです。

話し声(約50dB~60dB)、ドアの開閉音(約60dB)、テレビの音量(約60dB)、ペットの鳴き声(約90dB)、ステレオの音(約80dB~100dB)も騒音となります。※数値は目安

主な音の騒音レベル(提供:ピアリビング)
主な音の騒音レベル(提供:ピアリビング)
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ーー空気音と固体音はどう違う?

空気音は振動が空気を伝わり、聞こえる音のことです。話し声、赤ちゃんの泣き声、テレビ・ステレオの音、ペットの鳴き声、楽器の音などが該当します。建物の開口部や窓、薄い壁や床など遮音性が低いところで伝わりやすいですが、空気の振動を遮ったりすることで軽減できます。

固体音は力や振動が壁や床などの固体を伝わり、聞こえる音のことです。足音、床にものを落とす音、椅子を引く音、扉を閉める音、掃除機や洗濯機の音などが該当します。こちらは建物にいったん伝わると軽減させるのが難しく、離れた住戸の空間まで聞こえてしまいます。
※集合住宅では、建物の躯体がつながっているのでより注意が必要

空気音と固体音の違い(提供:ピアリビング)
空気音と固体音の違い(提供:ピアリビング)

ーー空気音と固体音は聞き分けられるの?

どちらにも当てはまる場合が多いです。例えば、エレベーターや換気扇、トイレやシャワーの音は壁や配管を通して振動が伝わるので、固体音となりますが、振動を伝えるだけでなく、室内へも音を発生させています。これは空気音として伝わります。

また、楽器の音やテレビ・ステレオの音は空気音ですが、ピアノやドラムなどの床に設置する楽器、スピーカーから床に伝わる音などは、固体音としても伝わります。ただ、空気音は壁や床で遮られ、隣の住戸まで届きにくいため、固体音として伝わる音のほうが問題になります。

スピーカーなどで床に伝わった振動は固体音にもなる(画像はイメージ)
スピーカーなどで床に伝わった振動は固体音にもなる(画像はイメージ)

気軽にできることも!対処法はいろいろ

ーー騒音の発生源とならないためのポイントは?

空気音には「遮音・吸音」が有効です。遮音は音を遮り、部屋の音を外に出さない・外の音を部屋に入れないこと。吸音は音を吸収し、音が響くのを抑えることです。例えば、遮音性が低い場所を遮音材や吸音材でふさぐことで軽減できます。

固体音には「防振」が有効です。これは振動の伝達を少なくすることで、音が発生する部分に振動を吸収・緩和できる素材をつける方法があります。例えば、クッション性のある軟らかいマットやカーペットを敷いたりすることで軽減できます。

防音マットなどでも対処できる(提供:ピアリビング)
防音マットなどでも対処できる(提供:ピアリビング)

ーー手軽にできる対策方法はある?

空気音だと、まずはテレビなどの音漏れです。スピーカーの位置が隣の部屋に近いと伝わる可能性が高いので、壁と面していない場所に置いたり、音が漏れやすい窓からは離すようにしましょう。手元で聞けるスピーカーに変えるのもよいです。

隣の壁に近いときは離してみよう(画像はイメージ)
隣の壁に近いときは離してみよう(画像はイメージ)

床や窓にも注目です。フローリングのままだと部屋内の音が反響して伝わりやすいので、厚手のカーペットやラグを敷いたり、窓に厚手のカーテンを設置することで軽減できます。空気音は窓やドアの隙間から伝わりやすいので、こうした隙間をふさぐのも効果的でしょう。

厚手のカーテンで隙間をふさいでもいい(画像はイメージ)
厚手のカーテンで隙間をふさいでもいい(画像はイメージ)

固体音の対策だと、椅子を引きずったりする音は下階に伝わりやすいので、脚部分にカバーを付けるだけでも効果があります。ドアや引き戸、キッチンや洗面台の扉を閉めるときも音が発生しやすいですが、扉が当たる部分にクッション性のあるテープを貼ると軽減できます。

椅子などの脚にカバーを付けてもいい(画像はイメージ)
椅子などの脚にカバーを付けてもいい(画像はイメージ)

ーー周囲から聞こえる騒音はどうすればいい?

集合住宅でもできる対策としては、このような方法があります。ただ、建物を伝わった固体音は部屋の全体から聞こえてくるので、効果を感じられないこともあるかもしれません。

(1)窓に防音カーテンを設置→外からの話し声などを軽減できる
(2)窓に防音ボードを設置したり、二重窓に施工→外からの自動車や電車の音を軽減できる
(3)壁に防音パネルを設置→隣接する壁から伝わる音を軽減できる

固体音は遠くの部屋にまで伝わる(提供:ピアリビング)
固体音は遠くの部屋にまで伝わる(提供:ピアリビング)

ーーこの対策として簡単にできるものはある?

隣に隣接する壁際に本棚や背の高い家具を配置すると、緩衝の役割をして聞こえる音を軽減できます。その際、背面に厚手のクッションを挟むと吸音材の役割をしてくれるので、さらに効果が高まるでしょう。また、家具が少ない状態だと音が反響して大きく聞こえるので、ソファーやラグを敷いたり、カーテンを付けることも軽減につながります。

本棚などは音を緩衝してくれる(画像はイメージ)
本棚などは音を緩衝してくれる(画像はイメージ)

住む場所でも工夫はできる

ーー住居を選ぶときの注意点はある?

建物の構造は大きく、(1)戸建て住宅に多い「木造」、(2)小さなアパートに多い「鉄骨造・軽量鉄骨造」、(3)マンションに多い「鉄筋コンクリート造」に分けられます。この中で最も防音性が高いのは鉄筋コンクリート造ですが、集合住宅だとコンクリートが音を伝える媒体となり、足音などの固体音が伝わりやすいので注意も必要です。上下階でのトラブルも多いので、問題を避けたいのであれば、1階の角部屋を選ぶのがお勧めです。


ーー騒音に悩む人にアドバイスを。

防音対策では工事をイメージされる人がいるかと思いますが、防音の知識を身につけておくことでトラブルを避けられるケースはあります。日頃から騒音を出さない意識だったり、手軽にできる対策から始めることをおすすめします。トラブルに発展させないため、隣や上下階に対して思いやりを持ち、信頼関係を築くことも大切でしょう。


集合住宅では特に、壁や床を介した固体音に注意する必要がありそうだ。音の発生源にカバーやクッションを付けるだけでも改善できることがあるそうなので、心当たりがある人は部屋の環境を見直してみてもいいかもしれない。

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プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

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