新型コロナウイルスの影響で自粛期間が続き、在宅勤務やステイホームが推奨されたことで、普段いなかった平日の在宅時間も増加した。

これまで平日の昼間に自宅で過ごすことが少なかったことで、今まで気付かなかった「音」や「ニオイ」を初めて感じ、それが毎日続いたりすることでストレスに思っている人も多いだろう。

今回は、『不動産大異変「在宅時代」の住まいと生き方』(ポプラ新書)の著者であり、賃貸トラブル解決のパイオニアの司法書士・太田垣章子さんにコロナ禍で増えている近隣トラブル、家賃滞納トラブルについて聞いた。

コロナ禍で起きたたばこやごみ問題

司法書士・太田垣章子さん
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 「突出して多いのは騒音に関する相談で、次にたばこのニオイとごみ問題。毎日、管理会社からどう対応したらいいのかと相談の連絡が来ます」

これまで2500件以上の不動産トラブルに立ち会った経験から、管理会社や家主から頼られる存在の太田垣さん。賃貸物件では入居者が管理会社や家主に“クレーム”を行うが、コロナ禍で騒音などのクレームが増えたことで、その対応策について相談されることが増えているという。

著書では、たばこのトラブルにより引っ越しを検討しているという2人の子どもを持つ女性のエピソードを紹介している。

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隣人が吸うたばこのニオイが洗濯物につくため、浴室乾燥機で乾かすようになり、光熱費がアップして困っているとのこと。たばこのクレームで隣人とは顔を合わせにくく、引っ越しを検討しているが、「どうして被害者の私たちが、引っ越しを考えないといけないのか」と憤っていたそうだ。

しばらくして季節的に寒くなり、窓を閉めるようになったことで、この問題は沈静化した。

2020年4月の緊急事態宣言では、ごみの問題も増え、物件を管理する管理会社や家主が頭を抱えていたと太田垣さんは話す。

「ステイホーム中に家の中の荷物の片付けを始めたり、宅配サービスなどで料理を入れる容器のごみが増えたりしているようです。ごみの量が増えてもしっかり分別されていればいいのですが、分別されていないのが現状」

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入居者が分別をしなければ、ごみ捨て場には回収されないごみが残ってしまうこともある。著書でもごみ捨て場に捨てられた、大量の分別されていないごみが回収されないことを懸念して、代わりに分別をした家主に入居者がクレームを入れるというエピソードがあった。

太田垣さんは、ごみはプライバシーの侵害行為にもあたってしまうため、家主には入居者に対して書面などで警告を行った上で、ごみ袋を開封するのが望ましいとした。

また、分別の仕方が分からないために起きている問題もあるようだ。

「コンビニのごみ箱に捨てる感覚で通り道のマンションのごみ捨て場に捨てていく人もいるようです。入居者が多い物件だと出るごみも多く、誰のごみかは分かりません。道路に面していて扉などがないごみ捨て場は、入居者以外でも捨てやすく、違う物件の入居者が捨てていることもあるようです。

分別で悩んだごみを自分の住んでいるところで捨てたら回収されない可能性もあるので。これは家主が防犯カメラを設置して知り得たようです。(回収されないごみを捨てている人が)住人だと思っていたら、近所の人だったと驚いていました」

なぜトラブルを起こす人に退去命じられない?

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トラブルを生み出すような人が近所にいる場合、誰もが一度は引っ越しを検討するだろう。

内心は「あっちが出て行ってくれたら」と思ったとしても、実際はトラブルを生み出すような人に退去を命じることはハードルが高いと太田垣さんは言う。

例えば、賃貸物件に暮らすAさんがトラブルを起こしたとする。家主がAさんに「退去」を促し、Aさんが引っ越しをすれば問題ないが、出て行かない場合は裁判となることも少なくない。

民法上、家主側から家賃を払う入居者(この場合はAさん)に退去してもらうためには、信頼関係が完全に破綻したと裁判で証明しなければならないというのだ。

だが、信頼関係の破綻を証明することは難しい。「今度やったら出ていってもらう」と家主が警告し、納得したAさんが何度も同じことを繰り返したり、Aさんが原因で上下両隣が退去した、Aさんが家賃を払わないなどの理由が必要になる。

特に、「Aさんが原因で上下両隣が退去した」ことを証明する場合、退去した上下両隣の元住人が本当にAさんが理由なのかを確認し、そうであれば「Aさんが理由で退去」と一筆書いてもらわなければならないという。

家主が裁判を起こしても判決が出るまでには数カ月かかり、その間Aさんは住み続けることができる。裁判をしても勝訴するとは限らないそうで、いかにトラブルを起こす住人を退去させることが難しいかが分かるだろう。

「家主が入居者に対して裁判を起こすのはとても大変。今後の関係にひびが入る可能性もあり、ナイーブな問題です。逆恨みされて物件に何か危害を加えられたらと不安に思う家主もいます」

一方で、トラブルの被害を受けた近隣住民も「注意すると何をされるかわからない」と引っ越しを選ぶ人が増えているという。

退去させることが難しいのであれば、トラブルに発展する前に、未然に防ぐことが重要となる。では、どのような対応があるのだろうか?

近隣トラブルの主な原因は、コロナ禍だからというわけではなく、ご近所さまとの「コミュニケーション不足」だと太田垣さんは指摘する。

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「例えば、小さい子どもがいる家庭は、『保育園や外に行けなくて、家の中で過ごしているため、子どもの足音でうるさかったらごめんなさい』と先に下の階の人に謝っておくことで、下の人も理解し、納得してくれると思います。“言わないこと”がトラブルに発展するのです」

ここで言うコミュニケーションは日頃から積み上げていく関係性のこと。すれ違えば挨拶をしたり、立ち話をする。ご近所さまと顔を合わせておけば、気になる騒音やニオイなどもトラブルに発展させず、解決できるかもしれない。

もし、トラブルの被害を受け退去し、新しい住居で暮らしたとしても、「次のところも同じことが起きるかもしれません。例えば、騒音やたばこのニオイが原因で引っ越しを選んだとして、転居後は何も起こらなくても、隣が引っ越しなどをしてたばこを吸う人が入ってくるかもしれない。それは賃貸でも分譲でもあり得ること」と、退去を選んだとしても、自分が望む環境になるとは限らないという。

家賃を払えない人の救済措置

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一方、家主側の“住人”トラブルとしてはコロナの影響で職を失ったり、収入が減ったりしたことによる家賃滞納が増えたようだ。

今、家賃を払えないなどの問題を抱えている人は「住居確保給付金」があることを知ってほしいと太田垣さんは訴える。

「住居確保給付金」とは、離職や廃業、休業等で給与などを得る機会が減った人に対して、全国の市区町村が窓口になり、最大9カ月間自治体から家主に家賃相当額(上限あり)を支払う制度。

原則は3カ月で延長は2回まで可能で最大9カ月となっていたが、2021年1月1日以降は12カ月まで(2021年度に新規申請して受給開始した人)に延びた。

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コロナ禍で収入が一定額まで減少していることと、外国籍であっても「主たる生計維持者」であれば対象になる可能性があるが、学生は対象とはならない。

「主たる生計維持者」が離職・廃業後2年以内、もしくは、個人の責任・都合によらず給与等を得る機会が離職・廃業と同程度まで減少している状況であることが対象の要件となる。2020年4月20日からは休業者も対象に。

加えて、直近の月の世帯収入合計額や預貯金合計額にも「基準額」があり、これを超えていないことや、求職活動の要件も必要になる。2020年4月からは特例により求職活動の要件は不要だったが、現在はハローワークでの求職活動が復活している。

支給額は自治体、世帯の人数で異なるが、上限は住んでいる自治体が生活保護制度の住宅扶助額として定められている額となり、対象は家賃のみ。

「住居確保給付金」はさまざまな要件があるため、まずは住んでいる地域の生活困窮者自立相談支援機関に相談することから始めて欲しい。

家主も管理会社でもこの制度の認知度は低いため、太田垣さんは「家主や管理会社に『住居確保給付金』のチラシを物件のポストに入れてもらうようにしています。家賃は1カ月で出ていく中で一番大きいお金です。家賃をサポートすれば助かる人もいるので、この制度をより多くの人に知って欲しい」と話した。

騒音、たばこなどの近隣トラブルから、家賃滞納などコロナ禍で発生するさまざまなトラブル。隣人であっても頻繁にコミュニケーションを取ることは難しいが、隣人も家主もそうした姿勢を見せることがトラブルを減らす一歩になるのかもしれない。

『不動産大異変「在宅時代」の住まいと生き方』(ポプラ新書)

太田垣章子
OAG司法書士法人代表、司法書士。株式会社OAGライフサポート代表取締役。登記以外に家主側の訴訟代理人として、のべ2500件以上の家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた家賃トラブル解決のパイオニア的存在。著書には『家賃滞納という貧困』『老後に住める家がない!』(どちらもポプラ新書)などがある。