わいせつ教員根絶を目指す与党のワーキングチームは、事実上わいせつ教員を学校から排除できるようにする新法の骨子案を明らかにした。

新法では各教育委員会に“裁量的拒絶権”を認めて教員免許を再交付しないことも可能とし、事実上わいせつ教員を二度と教壇に立たせないようにする。

「わいせつ教員根絶に反対意見はなかった」

「WTは3月から始め本日で7回目になりました。(出席した)どの団体からも誰からもわいせつ教員の根絶に反対意見はありませんでした。出すからには今国会成立を目指します」

WT後、共同座長を務める元文科副大臣の公明党・浮島智子議員はこう語った。

同じく共同座長である元文科相の自民党・馳浩議員もこう続けた。

「早速明日以降、骨子案をもとに野党の皆さんにも理解を頂けるべくご説明にまわりたいと思います」

共同座長の浮島智子議員(左)と馳浩議員(右)
共同座長の浮島智子議員(左)と馳浩議員(右)
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新法案は教員による児童生徒への性暴力の防止や根絶を目的とする。

13歳を性的同意年齢とする刑法とは異なり、13歳以上であったとしても、生徒であればたとえ本人の同意があっても性暴力であると規定した。

”裁量的拒絶権”で事実上学校から排除

また焦点となっていた教員免許の再交付について新法案では、免許授与権者である各教育委員会に対して“裁量的拒絶権”を与え、「再び免許を与えるのが適当であると認められる場合に限り免許を再交付する」と規定した。

その際教育委員会には、第三者委員会の意見を聴くよう義務付けられるが、事実上教育委員会がわいせつ教員を学校から排除できるようにした。

これについて浮島氏はこういう。

「医師法などの規定では、免許の再交付には免許授与権者に裁量的拒絶権が与えられています。そのような規定のない教員免許法はかなり特異であることが、WTの調査で判明しました。これは無期限に教員免許を与えないことを構想した文科省案とは異なるところです」

浮島氏「裁量的拒絶権の規定がない教員免許法はかなり特異」
浮島氏「裁量的拒絶権の規定がない教員免許法はかなり特異」

新法案成立と教員免許法改正が同時に

また新法案が成立すれば、この規定を踏まえた教員免許法の改正が同時に行われることになる。現行の教員免許法ではわいせつ行為で懲戒免職を受けても、3年後には再び教壇に立つことができる。また暴力的性犯罪で懲役刑を受けた教員でも10年後には刑が消滅し再び教壇に立つことができる。

これを変えるべく文科省は教員免許法の改正に向けて取り組んできたが、憲法の「職業選択の自由」、刑法の「刑の消滅」や「更生の機会」の壁に阻まれ今国会の改正案提出を断念した。

さらに新法案では国や自治体に対して、わいせつ教員の氏名や懲戒処分を受けた具体的な事実などの情報を、各教育委員会や学校側が正確に把握できるようにデータベースを構築する責務があると規定した。現在文科省が整備している「官報検索システム」とは別のものとなる。これについて馳氏はこう語る。

「一言で言うと刑が消滅しても事実は消えないということです。残った事実を踏まえて、教育倫理的判断としてどうか、裁量権の範囲内で採用するかどうかということです」

子どもへの性犯罪は学校だけでない

一方新法案にはいくつかの課題も残る。

その1つが今回は教員の性暴力に対象を絞ったことだ。

以前浮島氏はFNNのインタビューに対して「子どもに対するわいせつ行為の問題は確かに学校だけでなく保育所やベビーシッター、学童や学習塾まですべてがかかわりますが、それだと数年かかってしまいます」と語った。

(関連記事:日本には『児童生徒へわいせつな行為を禁ずる』と明示された法律がない

わいせつ教員を一刻も早く二度と教壇に立たせないようにするためには、教員免許所持者にターゲットをしぼることはやむを得ない。しかし子どもたちが性犯罪に巻き込まれるのは学校だけではないのだ。

これについて馳氏は以前のインタビューで「隣接職種、たとえば学童や学習塾、保育園やベビーシッターなどについても援用できる根拠法になればと思います」と語っていた。

次に新法案ではDBS=犯罪歴証明交付制度について、性暴力根絶の重要な仕組みと認識しつつも「幅広い府省にまたがる施策であり、その調整に要する時間を考えると直ちに法制化できる状況にない」のを理由に盛り込むことができなかった。

医学界はこれを機に小児性愛の研究を

最後に「小児性愛」の定義づけだ。WHO=世界保健機関やアメリカの精神医学会では、子どもに対して性的欲求を抱くことはペドフィリア=小児性愛として精神障害の1つと分類されている。

(関連記事:わいせつ教員に再び免許を与えてはいけない 専門家が語る再発防止治療の難しさ

一方日本では小児性愛について研究が進んでいない現状がある。これについて馳氏はこう語った。

「日本では科学的・医学的エビデンスやデータで小児性愛について定義づけするのは難しい。逆にこの立法をテコに医療や学術の世界に対して小児性愛について研究を深めてほしい」

自民・公明両党は超党派の議員立法でこの国会への提出、成立を目指す。

新法案によってわいせつ教員根絶に大きく一歩近づいた。

しかし子どもたちを守るための立法化には、さらなる政治の動き、そして国民の支持が必要だ。

(関連記事:「私は12、3歳で子供へのわいせつ行為を始めた。そして段々・・・」ある小児性犯罪者の“加害”の告白

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。