児童生徒に対するわいせつ行為で懲戒免職になった教職員数は過去最高を更新している。しかし現行の教育職員免許法(以下教免法)では、わいせつ教員は3年たてば再び免許取得が可能だ。

「ポストコロナの学びのニューノーマル」第5回は、性犯罪の再犯率と依存性について取り上げる。

子どもを守るべき教員の性暴力は卑劣な犯罪

子どもをわいせつ教員から守るため、再取得を認めない法改正を望む声が高まっている。しかし文科省には再取得制限の延長案を検討する動きもある。

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果たしてわいせつ教員の再犯の可能性は。
『痴漢外来―性犯罪と闘う科学』などの著書をもち、10年以上に渡って性犯罪者の治療に携わっている筑波大学の原田隆之教授に聞いた。

筑波大学原田教授は10年以上性犯罪の治療に携わっている

――まず、教員による児童生徒への性暴力をどうお考えですか?

原田氏:
あらゆる犯罪の中で性暴力が被害者に与えるダメージは特に深刻です。中でも教員による性暴力は、人との信頼を育む教育の場で子どもを守るべき立場の教員が、その関係性につけこみ悪用して暴力におよぶという二重三重に卑劣な犯罪だと思います。

わいせつ教員の再犯防止には治療が必要

――こうしたわいせつ教員を二度と教壇に立たせないために、教免法を改正して免許の再取得が出来ないようにすることについてどう思いますか?

原田氏:
最も重要なことは感情に流されず冷静にその是非を議論することだと思います。子どもを守ることが最重要ですが相手にも人権があります。その一方、犯罪心理学的な観点からは2つの点で再取得させるべきではないと思います。1つは、性犯罪を起こした人はまた起こすリスクが高いことがわかっています。もう1つは、再犯を防ぐための治療上からも望ましくないことだからです。

――治療のために教壇に再び立たせるべきでは無いと。

原田氏:
治療で一番重要なのは、犯罪を誘発する「引き金」に近寄らせないことです。子どもがそばにいるだけで引き金が引かれてしまうことがあります。再取得をさせて学校に戻すということは、本人がどれだけ反省していようが、理性の力がおよばないところでまた引き金が引かれてしまい、再犯リスクが高まってしまうことになります。

治療で重要なのは「引き金」に近寄らせないこと

――教免法改正では、3年から5年に延期するという案も出ています。

原田氏:
科学的な根拠にかなり疑問がありますね。5年を経過したら大丈夫というデータがあるなら検討する余地もありますが、この問題は5年でどうにかなるというものではありません。

小児わいせつ前科2回以上の再犯率は8割超

――性犯罪の再犯率は、どの程度あるのですか?

原田氏:
法務省は平成27年度の犯罪白書で、性犯罪者の類型別再犯率を公表しています。これによると5年間の同種犯罪再犯率が最も高かったのは痴漢で約40%、盗撮は約30%、小児わいせつは約10%でした。また小児わいせつの前科が2回以上ある者の再犯率は80%を超えています。さらに、犯罪統計では明るみに出ない「暗数」があります。被害者が泣き寝入りするケースがあるので、実態はもっと大きいというのが自然な見方だと思います。

――小児性愛は「病気」と考えてよろしいですか?

原田氏:
WHO=世界保健機関やアメリカの精神医学会によると、子どもに対して性的欲求を抱くことは、ペドフィリア=小児性愛として精神障害の1つと分類されています。

小児性愛の依存性の研究が進んでいる

――小児性愛に依存性はありますか?

原田氏:
かつて依存症はアルコールや薬物依存症だけを含む概念でしたが、数年前からギャンブル障害やゲーム障害も依存症として認められました。性の依存症はいまのところ正式な疾病分類の中にはありません。これはまだ研究が足りていないからです。ただ私を含めた研究者の中では、性的な依存症はあるという前提で研究がすすんでいます。

――小児性愛には軽い症状、重い症状があるのですか?

原田氏:
重要な論点です。小児性愛が実際に行動を起こすかというと、それは一部です。たとえば児童ポルノの愛好者であっても子どもに性的な加害行為をしない人もいる。一方で重症の人は、自分の頭の中だけに留めておけず加害行為を行います。

性的欲望をコントロールする再犯防止の治療

――原田さんが行っている治療について教えて下さい。

原田氏:
私は10数年前から刑務所で、「性犯罪再犯防止プログラム」の開発に携わり、再犯防止のための治療を行ってきました。きっかけは2004年の奈良小1女児殺害事件です。この事件の犯人は、女児への強制わいせつ致傷などで懲役刑を受け、出所したばかりで再度子どもに対する性犯罪を起こしたのです。この事件をきっかけに再犯防止プログラムの必要性が叫ばれたることとなりました。現在私は民間の病院で、治療を週1回担当しています。

――具体的な治療法はどのようなものでしょうか?

原田氏:
他の依存症の治療をモデルにした「認知行動療法」という治療を行っています。この治療の中核は、まず再犯に結び付く引き金を徹底して避けるということです。痴漢であれば満員電車には乗らない、小児性愛であれば学校や公園などを避けたルートで通勤したり、児童生徒の通学時間帯を避けて電車に乗るなどの方法を徹底します。また、認知の歪みというものもあります。「子どもも喜んでいた」、「子どもが誘っていた」など歪んだ考え方をしていても、本人は指摘されるまで歪んでいると気づきません。その歪みを見つけて修正することも治療です。

性依存の治療期間には最低2年は必要

――性への依存の治療には、どのくらいの期間がかかりますか?

原田氏:
薬物依存の場合は、脳の過敏性が消え始めるまで2年かかるといわれています。小児性愛はまだ研究が進んでいませんが、私は患者に対して『最低2年は治療してください』といいます。2年が経過した時点でリスクの査定を行いますが、その後治療の頻度を下げても、患者には『まだ危ないと認識を持ちながら生活を送って下さい』と伝えます。

――再犯リスクの大きさはわかるのでしょうか?

原田氏:
私たちの研究グループが開発した「スタティック99」という質問紙があります。わずか10項目の質問で再犯リスクの大きさが判定でき、80%弱の精度で再犯率がわかります。刑務所でも使っています。

――ありがとうございました。わいせつ教員は小児性愛の重症な患者であり、治療は継続的に続ける必要があることが分かりました。再犯リスクを避けるため、こうした教員は子どものそばにいさせてはいけないのですね。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】