わいせつ教員を二度と教壇に立たせないため、自民党と公明党は「与党わいせつ教員根絶立法検討ワーキングチーム(以下WT)」をスタートした。文科省はわいせつ教員に教員免許を再交付しない法改正を目指したものの、昨年末今国会への提出を見送っている。

WTの共同座長を務める元文科相の自民党馳浩議員と元文科副大臣の公明党浮島智子議員に立法化に向けた課題と展望を聞いた。

性犯罪で懲役刑を受けても教壇に立てる

平成30年度わいせつ行為等により懲戒処分を受けた教職員は282人と過去最悪を記録。令和元年度も273人と高止まりだが、現行の教員免許法ではわいせつ行為で懲戒免職を受けても3年後には再び教壇に立つことができる。

また暴力的性犯罪で懲役刑を受けた教員でも10年後には刑が消滅し、同じく再び教壇に立つことができる。

こうした状況を浮島氏はこう語る。

「2019年12月、教え子7人に性的暴行、わいせつ行為を行った元小学校の教諭に千葉地裁は懲役14年の判決を言い渡しました。しかしこの男はいま36歳なので、刑期を終え10年が経過した60歳で再び教師として教壇に立つことができます」

共同座長を務める公明党浮島智子議員
共同座長を務める公明党浮島智子議員
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他人事のように答弁する官僚の不作為

浮島氏はわいせつ教師排除の急先鋒としてこれまでも国会で教員免許法改正について質問してきた。(関連記事:多様な人材を教育界に呼び込むためにも「わいせつ教師を教壇に立たせない」法改正が必要だ

これに対して当時の文科省の担当局長は、今国会に提出する方向で調整していると明言していたが、結局文科省は提出を見送った。

改正見送りを浮島氏は「きわめて遺憾」としたうえで、このWTを立ち上げた経緯をこう語る。

「今年2月の予算委員会では、教員免許法改正案の提出を断念させた内閣法制局の第二部長がこの問題についておよそ他人事と考えているような答弁をしていて、怒りすら覚えました。そしてこれは議員立法で穴を開けていくしかないと思って、馳さんに『子どもたちをしっかり守るのが私たちの責務なのだから立法を目指してチームでやりたい』といってWTを立ち上げたのです」

「まずは扉を開ける」WTは今国会への法案提出を目指す
「まずは扉を開ける」WTは今国会への法案提出を目指す

「まずは扉を開ける」与党が立法化開始

このWTでは毎週月曜日に定例会を開いてヒヤリングを重ね、4月下旬にとりまとめて5月に成案、今国会への提出を目指す。

「まずは扉を開けることです。子どもに対するわいせつ行為の問題は確かに学校だけでなく保育所やベビーシッター、学童や学習塾まですべてがかかわりますが、それだと数年かかってしまいます。今回は教員免許所持者にターゲットをしぼり、絶対に二度と教壇に立たせないという強い意思を持ってやっていきます」

浮島氏のわいせつ教師を二度と教壇に立たせないという意思は固い。

「子どもたちは何かあったら先生に相談しようとか、先生を信用し信頼しています。その先生からわいせつ行為を受けたら一生傷つくし、人を信じられなくなると思います。他の職業との関係で二度と教壇に立たせなくするのは難しいという見解がありますが、ほかの職業と違って義務教育の先生は子どもや親が自由に選ぶことができません。この大きな違いを踏まえる必要があります」

「わいせつ行為を禁ずる」法律がない

共同座長の馳氏も「わいせつ教師を二度と教壇に立たせない」想いは浮島氏と同じだ。

「教師と児童生徒が信頼関係を構築するという根本を裏切るのですから、わいせつ教師は二度と教壇には立ってほしくない。立法府とすれば、都道府県をまたいで就職できたり、私学では依願退職したらそれを認めざるを得ないという制度上の問題を放置してきた責任は重い。だからこそ法案を今国会に提出します」

では今回の法律案はどのようなものになるのか?馳氏はいう。

「いま『児童生徒に対してわいせつな行為を禁ずる』と明示された法律はありません。いじめにはいじめ防止対策推進法に『いじめを行ってはならない』という禁止規定があり、虐待も児童虐待防止法に禁止規定があります。であれば教師の児童生徒に対するわいせつ行為に禁止規定を設けることはできるはずです」

馳浩議員「児童生徒へのわいせつ行為を禁ずると明示された法律がない」
馳浩議員「児童生徒へのわいせつ行為を禁ずると明示された法律がない」

刑の消滅と職業選択の自由が阻む

これまで教員免許法の改正には大きく2つの壁が立ちふさがってきた。その1つが刑法における消滅規定。殺人罪であっても10年経てば刑が消滅し、更生の機会が与えられる。そしてもう1つが憲法の職業選択の自由だ。内閣法制局はこれを根拠に、教員免許法改正を拒んできた。

馳氏は「これはWTで議論をしますが、なかなかハードルが高い」としたうえでこう語る。

「なので私たちは理念法であったとしても、少なくとも禁止規定を入れることに意味があると思います。禁止規定があれば学校の人事担当者は、わいせつ教師がたとえ教員免許を持ってきても禁止規定を根拠に『お引き取りください』と言えますよね。そこで『なぜ採用しないんだ、訴えてやる』と最高裁までいく可能性は確かにあります。しかし社会的利益を考えたら多くの国民は理解してもらえるんじゃないかなと思います」

子どもを守るのは当たり前と思うはず

最後に共同座長の2人に立法への覚悟を聞いた。

浮島氏は「子どもを守り、学校が安心安全な場でなければいけないのは、国民の誰もが当たり前だと思うはずです」と強調する。

「なぜ教師だけが職業選択の自由を奪われる?とおっしゃる方もいますので、教師だからこそ必要なのだとしっかりお伝えさせて頂こうと思います。基本的な人権は無制限、無制約なものではありません。人権が衝突する場合はどちらを優先するか、私たちは常識に基づいて判断するべきです。わいせつ教師の職業選択の自由と子どもたちの身体や精神の自由のどちらを優先するかが問われているのであり、その答えは明らかです。今回の立法と同時に教員免許法の改正も急務です」

馳氏は「この問題は与党も野党もないと思っている」と語る。

「児童虐待防止法では立ち入り調査を強化する改正の際、憲法学者は人権問題だと大反対でした。わいせつ教員を二度と教壇に立たせないのも、公益上どちらを優先するか答えが見えていると思います。刑の消滅、職業選択の自由とハードルが厳しいですが、この法をもとに採用者がわいせつ教師に『やはり採用できません』と言えるものにしたいですし、隣接職種、たとえば学童や学習塾、保育園やベビーシッターなどについても援用できる根拠法になればと思います。また教員免許法を改正するのが王道であることは間違いありませんからその議論も引き続きやっていきます」

この立法を後押しするのは国民の声だ。現実をみようとしない学者や官僚の不作為によってわいせつ教師が再び教壇に立ち、子どもたちの人権がないがしろにされることは断じてあってはならない。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。