「自分が求めていたのはこれ」25年間続いた性加害
「子供にわいせつな行為をし始めたのは12,3歳くらいの時でした。4歳くらいの女の子に着衣のまま排尿を命じたこともあります。」
撮影用の照明を浴びながら男性は訥々と話し始めた。
私の前で、椅子に腰かけ居心地悪そうに大きな背中を丸めてしゃべっているのは、かつて小児わいせつで有罪となったタケシさん(仮名)、58歳だ。タケシさんの小児へのわいせつ行為は38歳になるまで25年間続いた。
「話すのが苦手なので少したどたどしくなるかもしれません」
そう詫びたタケシさんは、私の質問に注意深く耳を傾け、質問を自分の腹に落とし込んでから返答する。これまでこういった取材で誤解を受けたことがあったのかもしれない、そう思った。暗くした部屋でライトを当てられているためか、時折、眼鏡のレンズに挟まれた眉間にしわが入り厳しい表情になった。
タケシさんは12、13歳の時の初めての行為以降、小学生の複数の子供へわいせつな行為を繰り返した。長じてからは中学生にも手を出した。ただ、この頃はまだ自分の性の対象が子供だとは自覚していなかったのだと言う。はっきりそのことに気づいたのは、大学生の頃のことだった。
「あるとき、本屋でポルノコミックを手に取ったんです。男の子に対する性加害のストーリーのものでした。自分はこれに強烈に魅力を感じ『自分が求めていたものは、これだ』と確信を持ったんです。」
「僕にとっての性的な在り方というのはこれだ、という風にアイデンティティにしてしまっていた」
彼はこう表現した。この時以降、小児への嗜好を手放してしまうと自分ではなくなってしまうと思うまでになっていた。
繰り返される"小児性犯罪"
小児性犯罪は再犯の恐れが高いと言われる。
平成27年度の犯罪白書によると、(1年間に)小児わいせつで有罪が確定した前科2犯以上の者のうち、8割以上が過去にも小児わいせつ事件を起こしていたことが分かった。(サンプル数は13と少ないものの、後述するが被害者が泣き寝入りするなど表出しない被害も多い)
一体なぜなのか。生まれついてのものなのか、それとも何か原因があるのか。なぜ子供を性的対象だと思うのか。なぜそういった嗜好が生まれるのか。そして、その加害行動は「治る」のか。
これまで「子供を性犯罪から守ろう」というテーマで被害者から話を聞いたり、性を子供に教える必要性などの取材をしてきたりしたが、「加害」のところを知らずにいるままでは、何か重要な部品が抜けたまま機械を動かしているような感覚があった。
「加害」を理解し、対策しない限りは子供を標的にする犯罪はなくならないのではないか。幾度かの慎重なメールのやりとりをして、私たちはタケシさんに話を聞くことにした。
加害者対策をしないと被害はなくならない
タケシさんの取材と並行して専門の医師にも取材を試みる。調べてみるとこの分野、特に子どもへの性加害者の治療をする専門の医療機関はかなり少ないことがわかった。
NPO法人 性犯罪加害者の処遇制度を考える会・性障害専門医療センター『SOMEC』代表で精神科医の、福井裕輝さんが取材を受けてくださることになり、タケシさんの取材日とは別の日に、フジテレビに足を運んでくれた。
この日は他県の地裁で意見を述べてきたと言う。
「ええ、かなり忙しいです。もともと私は、被害に遭った人を一生懸命診ていた。性的虐待を受けていた女の子などはPTSDや精神病になったり、トラウマを負った人がなる解離性障害になったりしてしまう。いわゆる多重人格というものです。こちらとしては懸命に診て治そうとしているんですが、裏で、家庭内で性虐待が続いていたりするとよくならないですよね。そういった例をずっとたくさん見ているうちに、これは加害者に対策をしないと根本的には変わらない、そう思うようになってきたんです。2,3件の罪で起訴されている加害者でも、その裏には数百人くらいの被害者がいるということがよくあります。私の患者でもいました。被害者が被害届を出さず泣き寝入りしていることが非常に多いんです。」
福井医師のクリニックでは実際に子どもに対して性的犯罪を行った人のほか、実行には移していなくてもそうした欲望をどうにかしたいという人たちを受け入れ、治療を行っている。強制ではなくすべて患者自ら希望する形で受診している。
人口の5%と言われる"先天的"な小児性愛
「小児性愛は大きく2つに分けられます。1つは『純粋型』と呼ばれるもので、子供にしか興味がないタイプ。もう1つが『非純粋型』と呼ばれ、本当は成人女性に興味があるんだけれどうまくコミュニケーションが取れないとか、結婚して子供もいるんだけど夫婦仲が悪くてだんだん幼い子供に関心が向いていくというようなタイプです。」
子供にしか興味がないタイプ=純粋型は、生まれついてのものなのだろうか、私の疑問に福井医師はこのような表現をした。
「性的嗜好を変えることは一生不可能、ということで、先天的なものと考えてもらっています。
一生付き合っていくしかないという性質のものです。これは統計の取り方によってもだいぶ変わりますが、人口の5%くらいいると言われています。」
問題なのは「行動に起こしてしまうこと」
ここで誤解してはならないのは嗜好の問題と行動の問題とは分ける必要があるということだと福井医師は念押しした。
わいせつ行為の願望があると言っても、実際に行動せずに終える人もたくさんいる。そういった嗜好を持っていること自体が何か批判されるということでは決してない。問題となるのは実際に行動を起こしてしまうことなのだ。
福井医師によれば加害までのプロセス、「社会的機能が壊れ」「実質的に依存のような状態になる」には段階があるという。
「最初はわいせつ行為をしようとまで考えていなくても、普通に声をかけたらついて来たとか、お菓子をあげたらついて来たとかなんです。そこからトイレに誘ったらついて来た、というように、段々エスカレートしてきます。そのようにして1回わいせつな行為をしたら、意外と抵抗されなくて、むしろ何だか喜んでいるように見えたと、いうようなところから、余り罪悪感を持たないまま次々と罪を重ねていくのです。」
タケシさんは幼児や小学生の子にわいせつ行為を繰り返していたと言っていた。いずれの被害者も幼かったため、自分がされていることの意味を分からなかったのかもしれない。それらの罪が発覚することはなかった。
行為がエスカレートしたきっかけは・・・
「海水浴をしているときに親戚の男の子にたわむれる感じで水着の上から性器を触ったり、その子が寝ているときにパジャマや下着を脱がして触ろうとしたりしました。」
このような行為を複数人に繰り返しているが、本人は、「この段階ではそれ以上のエスカレートというのはありませんでした。」と言っている。
ではタケシさん自身がエスカレートしていったと認識したのはいつだったのか。
それは大学生の時に自分の性的嗜好に気付いた後からだと振り返った。
「思春期の頃と比べて、“認知の歪み”がだんだん酷くなっていった、っていうのはありますね。
子どもに対する性加害を正当化していて、それが酷くなっていった。それにつれて自分が耽溺していく度合いが非常に濃くなっていきました。」
自身の性的嗜好をはっきりと自覚してからは、児童ポルノを購入したり見たりしながら、海外へ子供買春に行ったこともあった。また自分が家庭教師をしていた中学生に対してわいせつな行為をしたこともあったとタケシさんは語る。
子供に手を出すとき、加害者は一体何を思うのか。あなたは子供に対して悪いとか、酷いことをしているとは思わなかったのか―――行為の光景を想像し、思わずこみ上げる不快感をのみ込みながら、私はタケシさんに単刀直入に聞いた。
(→後編につづく)
※一部原稿を修正しました(2021年3月8日)
【執筆:フジテレビアナウンサー 島田彩夏】
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