東日本大震災から10年。岡山・津山市の中学校に、震災を考える授業を続ける教師の男性がいる。男性が教え子たちに伝えてきたのは、被災地でつながった2人の野球少年との絆だった。

槙原淳幹さん:
被災地の人がずっとどれだけ時間が経っても、どれだけ場所が離れていても、自分のことを忘れてほしくないと言っていたのでテーマにしている

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津山市の中学校教師、槙原淳幹さん(31)。教師になって9年、自らの体験を語る特別な授業を続けている。

槙原淳幹さん:
きょうの話は、2人の野球少年の話になります

被災地で出会った野球少年たち

槙原さんは東日本大震災当時、教師を目指す岡山大学の学生だった。いてもたってもいられず、車で12時間かけて被災地、宮城・南三陸町にボランティア活動へ。ここでの出会いがすべての始まりだった。

槙原淳幹さん(当時22):
片手1本、左手1本で拾えるものは少ない。力仕事は出来ないが、気持ちはある

槙原さんは、生後10カ月の事故で、右手が動かない。それでも小学生の時に野球を始めると、そこからは野球一筋、高校生の時には全国優勝を経験し、障害者野球チームのキャプテンも務めた。

そんな槙原さんは、被災地で偶然出会った2人の少年に声をかけた。当時12歳の佐々木悠くんと当時13歳の佐藤真生くん。当時2人は中学1年の野球部員で、槙原さんは日が暮れるまで、2人と野球を楽しんだ。

佐々木悠くん:
津波で辛いことがあったんですけど、野球しか楽しみがないので楽しい気持ちでやっていました

槙原淳幹さん:
運動場の半分くらいを仮設住宅といって、家を流された人の家をグラウンドに作っていた。だから部活、野球を一生懸命できないと先生は聞いた。岡山に呼んであげて、岡山で思いっきり野球させてあげたら、彼らが喜ぶんかなと思って

岡山で思い切り野球をさせてあげたい。槙原さんの思いがまわりを動かした。

「岡山で野球を」…思いが人を動かす

募金を呼びかける岡山大学の学生:
宮城・南三陸町の子供たちが岡山にやってきます。募金お願いします

思いを知った仲間たちが、地元企業に協力を求めたり、募金活動をして、2人が通う中学校の野球部員20人の招待費用を集めてくれた。
そして2011年の暮れ、佐々木くんと佐藤くんが岡山にやってきた。

ーー久々だけどどう?

佐藤真生くん:
変わってない。(槙原さんと会えて)うれしい

岡山では、地元の中学生と交流試合をした。槙原さんは、被災地チームの監督を務めた。

槙原淳幹さん:
走るところ、声!この2つは気を抜くな、1点取るぞ

被災地は、まだ復興には程遠い状況だった。遠い岡山に子どもたちを送り出すことに、ためらう声もあった。
そんな親たちを説得したのは、佐々木くんの父・洋志さん。槙原さんが野球に打ち込む姿を、子どもたちに見せたいと考えた。

佐々木くんの父・洋志さん:
素晴らしい、人間的にも見習ってほしいですね。諦めない気持ち(子どもたちにも)持ってほしい

被災地の子供たちとの交流は、今でも岡山大学で受け継がれている。
2012年4月、槙原さんは、念願の教師になった。

槙原淳幹さん:
副担任の槙原淳幹と申します。年齢は22歳、先月まで岡山大学の学生をしてました。みんなと同じ1年生です。よろしくお願いします

教師になった今も、生徒たちに野球を教えている。
教師になって2年目の春。

槙原淳幹さん:
図書館でたまたまくつろいでいたら、佐々木悠くんの作文が本になっていたのにたまたま出会いまして

以来槙原さんは、偶然見つけた佐々木くんの作文を授業の中で紹介している。

佐々木くんの作文:
悲しいことがたくさんありましたが、貴重な経験をしたと思っています。僕はこのことを一生忘れてはいけないと思うし、震災と大津波で亡くなった人の分も生きなければと思います

「先生は忘れずに伝えていく」

2019年3月に行われた、槙原さんの結婚式。そこに20歳になった2人の姿があった。

佐藤真生さん(当時20歳):
野球通じて、色んな繋がりができるって素晴らしい

佐々木悠さん(当時20歳):
(槙原さんは)見習わないといけない人ですし、すごい人

震災から10年。彼らが出会った宮城・南三陸町は復興が進んでいる。

佐藤真生さん:
岡山に招待されて野球ができたことは、いい経験

佐々木悠さん:
今でも自分たちは同じチームで野球やっています。これからも野球に携わっていくと思うので、野球を楽しんで頑張っていきたい

槙原淳幹さん:
2021年は10年のひとつの区切りだが、東北の人たちにとっては関係ない1日かなと思う。これまでもこれからも、先生は忘れずに伝えていこうと思う。共感してくれた人はぜひ、年に1回でも思い出してもらいたい

生徒:
自分たちも次の人たちに伝える

生徒:
伝えていけるかではなく、いく!だと思う

生徒:
自分にとって大切な授業だったと思う

偶然が導いた被災地との絆…。
野球を通じて育まれたそのあたたかいつながりは、10年を経た今も決して色あせることはない。

(岡山放送)

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