冬の深夜に発生した地震

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2025年12月8日午後11時15分ごろ、青森県東方沖を震源とする地震が発生し、最大震度6強を青森県八戸市で観測。

宮城県にも津波注意報が出され、石巻市の日和山などでは避難する人の姿がみられた。

日和山に避難した人:
万が一のことを考えて、高台一番近い所がここだったので。こういう時こそ最悪な事態を考えなきゃいけない。こういう行動をとらなきゃ駄目と思った。

冬に発生する地震においては、地震による倒壊や津波のような直接的な被害のほかに、命を守るために逃げた避難先でもリスクが存在する。

8日の地震を受けて気象庁は「北海道・三陸沖後発地震注意情報」を初めて発表した。
今後、別の巨大地震が発生する可能性が高まっている状況を踏まえて、2024年の能登半島地震後に掲載した記事を再掲載する。

低体温症による死亡リスク

2021年12月、政府は日本海溝と千島海溝沿いの巨大地震の被害想定として、「冬の深夜」に発生した場合、日本海溝型で最大約4万2000人、千島海溝型で約2万2000人が低体温症による死亡リスクにさらされるとの試算を公表した。

避難した後でも寒さで命を落とす可能性がある低体温症は、東日本大震災でも多くの人が亡くなる原因となった。

震災遺構・中浜小学校が伝える “津波と寒さ”の記憶

震災遺構 中浜小学校
震災遺構 中浜小学校

海から約400メートルの場所にある山元町の「中浜小学校」。震災の津波で屋上近くまで浸水した校舎は、震災遺構として保存されている。

やまもと語りべの会・井上剛さん:
あそこに浸水深を示すプレートがあるが、約10メートル。このプレートの上に90人が逃げた。ほんとうにギリギリのところまで津波が来た。

当時の校長で やまもと語り部の会の井上剛さん
当時の校長で やまもと語り部の会の井上剛さん

震災当時、中浜小学校の校長を務めていて、今は語り部として活動している井上剛さん。

あの日、井上さんは学校に避難していた児童や住民など90人を連れ、屋上への避難を決断した。津波は4度にわたり校舎を襲ったが、いずれも屋上には達しなかった。

津波の脅威が去りホッとしたのも束の間、井上さんたちを待ち受けていたのは「寒さとの闘い」であった。

屋上での一夜 “寒さとの闘い”の実際

避難した屋上の部屋
避難した屋上の部屋

当時、避難した屋上の部屋では、段ボールや行事で使った小道具などをコンクリートの床に敷き詰め、寒さに耐えながら一夜を過ごした。

やまもと語りべの会・井上剛さん:
学芸会で使った発泡スチロール製のサカナ。これを抱っこして、少し温かかったなんて感想を言う子もいる。命の危険が迫るような災害を乗り越えても続く困難というのがあって、そのうち、寒さというのは生き延びるためには大敵。

研究で明らかになった震災時の低体温症の危険性

東北大学災害科学国際研究所 門廻充侍助教(当時)
東北大学災害科学国際研究所 門廻充侍助教(当時)

低体温症のリスクを研究している専門家は…

東北大学災害科学国際研究所 門廻充侍助教(当時):
東日本大震災では溺死に限らず、さまざまな死因が報告されている。低体温症の事例も当時の報道を見ていると報告されていた。

門廻助教の研究グループでは、宮城県警から提供された9527人の震災の犠牲者の情報をもとに、亡くなるまでの過程や死因などを研究した。
それによると、最も多い死因は溺死で8208人、低体温症による死亡は0.25パーセントの23人だった。

東北大学災害科学国際研究所 門廻充侍助教(当時):
23人と聞くとリスクが小さく、大丈夫と思ってしまうかもしれないが、実は数字として出ていないだけで、低体温症のリスクにさらされていた方はもっとたくさんいる。

門廻助教は、震災発生当時の医療関係者の尽力によって「23人に抑えられた」と考えている。
また、研究によって、23人のうち最大3人が避難した先で命を落とした可能性があることもわかった。

東北大学災害科学国際研究所 門廻充侍助教(当時):
避難先で低体温症を踏まえてどのような対策を取るのか。東日本大震災の事例からも重要性が示唆されている。想像しているより、低体温症のリスクは大きい。

低体温症から命を守るために必要な備え

日本赤十字北海道看護大学 根本正宏教授
日本赤十字北海道看護大学 根本正宏教授

低体温症からいかに身を守るか。
冬の避難対策に詳しい、日本赤十字北海道看護大学の根本昌宏教授は、普段の備えから工夫が必要だと話す。

日本赤十字北海道看護大学 根本昌宏教授:
避難リュック自体は必ず防水性を持ったものを使う、もしくは避難リュックの中身を、大きなビニール袋の中に全部入れる。着替えやタオルが濡れないようにすることが、低体温症対策になる。

根本教授は、着替えや防寒着が濡れないようにするほか、熱を生み出すカロリー源として、極寒の中でも食べやすいようかんやチョコレートも避難時に持ち出すリュックに入れておくと良いとしている。

一方で、急激な温度変化などは症状を悪化させる可能性があるとして、間違った対応をしないよう理解を深めてほしいと呼びかける。

日本赤十字北海道看護大学 根本昌宏教授:
体を温めればいい、と考えてしまうが、例えばシャワーやお風呂で温めてはいけない。これは低体温症治療の基本。中等症、重症化して命を落とすことがある。
訓練や講習などを受けるということをしていただきたい。

根本教授によると、一番のリスク要因は「服が濡れること」だという。
そのため、避難先での最優先事項は、すぐに乾いた衣服に着替えること。

また、体温の拡散を防ぐために

・床との間に敷物を敷く
・毛布で身体を包む
・温かい飲み物を飲む

など、基本的な対処法を心がけてほしいと訴えた。

寒さは“見過ごされがちな脅威” 

巨大地震では津波や建物倒壊が大きく注目されるが、避難後の寒さによる低体温症もまた、命を奪う重大な危険である。

災害はいつどこで起こるかわからない。日常の備えと正しい知識、そして避難先での適切な対応が、被害を最小限に抑える手段だ。

仙台放送
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