大相撲を引退後、故郷の坂井市でちゃんこ鍋店を開いた元幕下力士がいる。30年近くにわたる現役生活で「ちゃんこ長」も務め、部屋直伝のスープを武器に「相撲を好きになってもらえれば自分としても恩返しになる」と“第二の取組”が始まっている。
30年の現役生活で積み上げたもの
坂井市春江町に、5月にオープンした「季節料理 ちゃんこ越ノ龍」。2024年に大相撲を引退した元幕下・越ノ龍こと佐々木敏彦さん(47)が和食の料理人と共に立ち上げた。
佐々木さんは、中学時代に出場した相撲の全国大会でスカウトを受け、中学卒業後に入門。1995年に初土俵を踏み、最高位は幕下34枚目。1200以上の取り組みを重ね45歳まで現役を続けた。
数少ない県内出身の力士として長く相撲界を支えてきた。
「初めて付いた関取が武蔵丸関だったんですよ。びっくりしました。もう大きすぎて」現役時代の思い出を語る佐々木さんの言葉には、いまも当時の興奮がにじむ。
「当時は若貴がすごかったので、同部屋の武蔵丸が勝ったときは、やっぱり嬉しかったですよね」と誇らしげに振り返る。
長年所属した藤島部屋では、食事当番・ちゃんこ番のまとめ役である「ちゃんこ長」を務めるほどの腕前だった。部屋の力士たちの食事を支えるちゃんこ長は、体を作る“要”となる存在だ。現役生活を通じて培ったその経験こそが、引退後の道を切りひらいたことになる。
部屋直伝の鶏ガラスープが店の“売り”
店の看板メニューはもちろん、元ちゃんこ長自慢のちゃんこ鍋。最大の特徴は、部屋直伝の鶏ガラスープ。
鶏10匹分のガラを使い、約3時間かけて丁寧に出汁を取る。手間を惜しまないその工程こそが、本場の味を生み出す源泉だ。
スープのベースは塩。「一番それがさっぱりしておいしいので。アレンジしてもいいんですけど、自分はやっぱりシンプルが一番いいと思うんで」と語る。
店一押しの「横綱コース」には、鶏肉や鶏団子のほか、ダイコンやキャベツなど野菜がふんだんに入る。塩味ベースでシンプルながら奥行きがあり、鶏のうまみや野菜のうまみが優しく体に染みわたる。
「絶対地元に帰ろうって決めていた」
45歳まで現役を続けた佐々木さんは「ちゃんこ長として長年やっていたことを生かせる仕事をやりたいと思った。絶対に地元に帰ろうと決めてたので」と店を開いた理由を語る。
御前やコース料理には相撲甚句の一節を記した短冊が添えられるなど、角界出身者ならではのセンスが随所に光る。
鍋以外の料理を担当する共同経営者も、佐々木さんの人柄に引き寄せられた一人だ。「食べるのが大好きなんでね。人間性で寄ってくるお客さんはかなり多いと思うので、笑顔あふれる店になるんじゃないですか」と語る。
「いろいろお話をして相撲が好きになってもらえれば、自分としても恩返しになると思う」と角界への思いも口にする佐々木さん。「頭でガツンと行って前に出る相撲だったので、真っ向勝負で行きたい」と意気込む。

30年近くにわたる大相撲の経験と、元ちゃんこ長だからこそ生み出せる“本場”の味。その二つを武器に、佐々木さんは経営者として「序の口」に戻り初場所に臨んでいる。

