“令和の米騒動”ともいわれたコメ不足から一転、コメ余りが進む中、福井市内では今シーズンの稲刈りが始まった。肥料代や燃料代が膨らみ、売値は生産原価を大幅に下回る見通しとなっている中「今年で農家をやめる」という声も上がっている。
コメを買い取る業者のトラック…今年はゼロ
福井市では8月4日、早生の品種「ハナエチゼン」の収穫が始まった。コメ農家の白井清志さんは、約50ヘクタールの田んぼで5品種のコメを育てている。
コンバインが黄金色のイネを次々と刈り取りタンクへと運ばれる。「去年と同じくらい…出来はまずまず」だという。
しかし、去年とは全く違っていることが…
「去年はね、コメの買い出し業者が『うちに来い、うちに来い』と言って、6台ぐらいトラックが並んどったんや。今年は1台も来ない。コメを売ってくれ1社も言うてこない」
去年は「令和の米騒動」とも呼ばれるほどコメが不足し、多くの集荷業者が農家に殺到し買いに走った。それからわずか1年で、状況は正反対となっている。
さらに今年は、農家の収入の目安となる、JAが収穫前後に農家へ前払いするコメの価格「概算金」が示されていない。農家は、民間の買い手の動きもJAが示す価格も見えないまま、収穫を進めている。
肥料代は去年の2倍、売値は生産原価を大幅に下回る
問題は、売り先が見えないことだけではない。
生産にかかるコストはすでに確定している。白井さんが今年仕入れた肥料の総額は900万円。これは去年の2倍にあたる金額だ。農機具を動かすための燃料代も上昇している。
一方で、白井さんは今年のコメ買い取り価格について「1俵(60キログラム)あたり1万6000円程度」と見込む。これは去年の半分程度にすぎない。
対して「生産原価は大体2万2000円~3000円」だという。「とんでもない赤字なんで、もう今年で農家をやめるという人が、ぼちぼち出てきた」白井さんはそう語る。
保証もなく生産コストだけが上がる現実に「政府には何の期待もできない。高市総理は何を考えているのかな。分からん。もう愛想尽かした」と語気を強める。
なぜコメが余るのか——JA福井県が明かす現状
去年は不足していたコメが、なぜ今年は余り始めているのか。JA福井県によると、去年収穫したコメの約3分の1が、卸売業者に引き渡されないまま倉庫に残っているという。
多くは販売先が決まっているものの、コメの値上がりなどが要因で消費が落ち込み、卸売業者への引き渡しが遅れているという。需要と供給のバランスが急速に変化した結果、流通の現場で在庫が積み上がっているのだ。
こうした状況の中で、JA福井県も今年の概算金を決めかねている。7月の会見で宮田幸一JA福井県五連会長は「コメが余っていて価格が決められないような状況。ギリギリの線まで待って価格を決めていかざるを得ない」とし8月13日の臨時理事会で、審議するとした。
少しでも安く買いたい消費者がいる一方で、採算がとれる価格を求める農家。JAはその中間に立ち、今年の概算金を決めなければならない。
JAが示す概算金は、新米の店頭価格に直結するだけでなく、コメどころ福井の農業の将来に影響する。

