2027年5月を目処に閉院し、大学病院に機能を集約すると発表した北九州市若松区の産業医科大学若松病院。一体、何があったのか? 取材を進めると追い詰められる地域医療の実態がみえてきた。
閉院の背景 今後の地域医療体制は
北九州市の若松区と戸畑区を繋ぐ若戸大橋のすぐ傍に佇む大きな建物。JR若松駅から徒歩15分ほどの場所にある産業医科大学若松病院だ。取材したこの日も朝から多くの患者が訪れていた。

若松病院の閉院が発表されたのは2026年5月27日。これを受け6月12日、若松区選出の市議らが地域の医療体制の維持を求める要望書を北九州市に提出した。

更に6月17日には、市と産業医科大学が閉院発表後、初めて直接対話し、市民の不安をどう解消するのか、意見交換を行った。

産業医科大学若松病院は、もともとは市立病院だったが、経営難や常勤医の不足を受けて2011年から八幡西区の産業医科大学が運営を引き継いだ。

16の診療科と150の病床を備え、若松区で唯一、手術や入院が必要な重症患者を受け入れる2次救急医療機関に指定。

スポーツ整形外科の分野では、全国からトップアスリートが治療に訪れ、プロスポーツのチームドクターも派遣していた。

しかし、経営状況の悪化を理由に2027年5月を目処に閉院すると発表。10キロほど離れた八幡西区の産業医科大学病院に機能を集約し300人ほどのスタッフも移ることになっている。

若松病院には、取材したこの日も朝から多くの患者が訪れていた。
「(八幡西区の)大学病院は、遠いです。交通の問題があります。車も運転できないし、困っています。次の病院が来てくれたらいいんですけどね」(女性患者)。

「普通の小さい病院だけじゃなくて、いざとなったら入院ができる病院だと思っていたんですけどね…」(女性患者)。

「(八幡西区の)大学病院は、朝から患者が多い。私も何度か行ったことありますけど、やっぱり半日ほどかかる。ここがなくなるということは非常に残念」(男性患者)と通院患者は、一様に困惑の表情を浮かべていた。

またこの日は、右膝前十字靱帯断裂で再建手術をしてもらい、退院後はリハビリに通っている男性患者もいた。

「若松病院を選んだ理由は、内視鏡手術は有名で、腕がいいって聞いたので…。ここに今いる先生がどこにいくか…、大学病院の方に移るのであれば、何かあったら、そっちに行こうかなと思います」
15年間の累積赤字は55億円
産業医科大学と市が、閉院発表後、初めて意見交換した6月17日、生田正之理事長が若松病院閉院の背景について記者会見。そこで若松病院の厳しい実態が明らかになった。

▼『産業医科大学』生田正之・理事長「今は3~4億円の赤字が毎年、出る。このままだと大学病院と若松病院が、共倒れになってしまうという危険すらあるので、そういう状態は絶対、避けなければならない」

若松病院は、市立病院最終年の2010年度の赤字額が12億5700万円。運営が大学に移ってからの15年間も黒字はコロナ補助金が入った2021年度のみで、年平均3億6000万円の赤字となっていて、累積赤字は、55億円に上っている。

これまで赤字分を補填してきた大学病院も近年の物価、人件費高騰を受けて赤字となり、共倒れの危機が迫っていたという。
夜間救急に対応できず 医師不足の問題も
▼『産業医科大学』生田正之・理事長「若松病院は、夜間救急だとか全然、最初からできてなかったんです。休日もできてなかったんです。(医師不足で?)そうですね。体制が十分できてなかったっていうことだと思います。2か所で、こう分散してるとやっぱり非常に運営が難しくございまして」

若松病院は、2次救急医療機関に指定されながらも夜間や休日の救急が受け入れられず、大学病院でも頻繁に受け入れを断る状況だったという。

今後、1カ所に集約することで24時間スムーズな受け入れが可能になり、地域の救急医療体制の強化に繋がると話す。
若松区内の同規模病院が移転し引継ぎ
▼『産業医科大学』生田正之・理事長「若松地域での医療提供体制を継続するというために、若松病院の建物、土地につきましては芳野病院(現・若松区本町)に引き継いで、引っ越して頂く。40床程度の病床を増やして、回復期のリハビリテーションや高齢者救急をはじめとする地域のニーズに合った診療機能をとにかく長く提供頂けるように調整を進めております」

車で数分の距離にある同じ規模の芳野病院が移転し、引き継ぐ方向で調整しているという。今後は患者や関係機関に説明を行い、芳野病院の移転については2026年9月の理事会での最終決定を目指し、調整を進めることになっている。

更に大学病院に通院する場合も既に電子カルテを共有しているため、診療がスムーズに行え、循環バスを運行させることも検討しているという。

北九州市の武内和久市長は「漠然とした不安をひとつひとつ解決しようと産業医科大学が、さまざまな方策を検討し進めていくという、市としてもそれをサポートしていく。点というひとつの病院だけではなく、面で、地域全体でこの医療の機能を守っていく、ここが大切だと考えています」(6月18日 定例会見)と閉院について述べた。

西日本新聞編集局の坂本信博・上席専門委員は「2040年には日本の高齢化率がピークに達する。そうなると全国で医療関係の人出が約96万人不足するという試算がある。少子高齢化を見据えて、在宅医療や介護分野なども含めた、包括的な地域医療の見直しを国が主導して進めて行く必要がある」と話す。

危機的な状況に陥っている日本の病院経営。地域医療の維持、立てなおしに対しては、抜本的な改革が求められている。
(テレビ西日本)

