「浜の方に歩いてみたらホタルイカが!多分50から100」
SNSにこんな投稿が上がっていた。場所は富山ではなく、福井・越前町の海岸。ホタルイカといえば富山が有名だが、実は福井も全国有数の水揚げ量を誇る。越前町の海で何が起きているのか。ホタルイカを巡る漁の現場を追った。

水揚げ量は全国3位“ホタルイカ王国”を目指す福井

体長およそ5センチほど、全身を青白く発光させるのが特徴のホタルイカ。

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日本海全域と太平洋の一部の深海に生息し、春になると産卵のために沿岸へ押し寄せる。数十万匹の大群が押し寄せる富山湾では、ホタルイカすくいが春の風物詩として知られている。

富山湾でのホタルイカすくい
富山湾でのホタルイカすくい

一方の福井も、兵庫や富山に次いでホタルイカの水揚げ量が全国3位という、知られざる産地でもある。富山では定置網漁なのに対し、福井は沖合での底引き網漁で水揚げする。

同じホタルイカ漁でも種類が違う
同じホタルイカ漁でも種類が違う

まずはホタルイカの生態を知るために富山・滑川市にある「ほたるいかミュージアム」へ。生きたホタルイカに触れることができる世界で唯一のホタルイカ専門博物館で、学芸員の小林昌樹さんに生態を詳しく聞いた。

ホタルイカミュージアムの小林昌樹さん
ホタルイカミュージアムの小林昌樹さん

ホタルイカのお腹側には発光器が約1000個あるとされ「身を守るために威嚇したり、浮上した際に太陽を浴びた海面の光と同化させる保護色の役割もある」という。深海に生息するため、光を取り込みやすいよう目玉が非常に大きいのも特徴だ。

富山が特に有名な理由は地形にある。滑川付近は海が急激に深くなるため、産卵のため浅瀬に近づく必要がある雌のホタルイカにとっては移動距離が短くなるため、富山湾には産卵期の春先に大量のホタルイカがおしよせる。それを定置網で水揚げするのだ。

ホタルイカが浮上しやすい地形
ホタルイカが浮上しやすい地形

また、産卵を終えたホタルイカが「海岸に近寄りすぎてしまい波打ち際に残されてしまう」こともあるといい、あたかも陸に身を投げたようなことから“ホタルイカの身投げ”とも言われる。新月の前後に起こりやすいとされ「月明かりや星などを感知できなくなってしまうと目印を見失う」ため起きる現象だという。

移動距離が短く産卵で浮上しやすい
移動距離が短く産卵で浮上しやすい

ただし、これは富山湾独特の地形と月の条件が重なって起きる現象であり小林さんは「富山以外でホタルイカが海岸に近づくというのは、あまり記憶がない」と越前町での現象については首を傾げる。

“身投げ”は富山以外では聞いたことがない…
“身投げ”は富山以外では聞いたことがない…

潮流などの影響で流されてきた可能性や、大型魚に追われた可能性も考えられるとしながらも「原因が分からない、非常にまれな現象ではないか」と語った。

船の大きさにより漁獲量が定まっている越前町

4月末、取材班はホタルイカ漁に密着した。午前3時30分、越前漁港に集まった漁船が次々と出港していく。取材班が乗り込んだのは「第三昭栄丸」。

午前3時半に越前漁港を出港
午前3時半に越前漁港を出港

漁場までは約1時間半。午前5時40分過ぎに若狭湾沖の漁場へ到着した。富山のような幻想的な発光シーンを期待していた取材班だったが、福井の底引き網漁では日中に深海のホタルイカを底引き網で引き上げるため、青白く光るホタルイカを目にすることはできない。

1回目の水揚げはまずまず
1回目の水揚げはまずまず

カニなどの底引き網と同様、魚群探知機で見つけた群れに、230メートル前後で1時間ほど網を引く。午前7時にクレーンで網を上げると、漁師たちに笑顔が。1回目としては上々の水揚げだった。

漁獲枠を守るため船上で計量する
漁獲枠を守るため船上で計量する

次の漁場に向かう途中、計量作業が始まった。資源保護のため船のサイズに応じて1日に水揚げできる上限が決まっており、1杯5キロのかごで計っていくのだ。小型船で200箱(1トン)、中型船で250箱(1.25トン)、大型船で350箱(1.75トン)まで。規定に達すると漁を切り上げて港へ戻る。「1回でも200箱分とれたら帰る。みんなニコニコや」と船長。

1度の網揚げで1トン獲れることもある
1度の網揚げで1トン獲れることもある

2回目の網はほとんど入らなかったが、午後1時過ぎの3回目は揚げるのに苦労するほどの大漁。それでも1トンには届かず、結局この日は4度の網揚げで200箱1トンの“満船”を達成して帰港した。

「小魚1匹でもルール違反」資源保護へ徹底した取り組み

寄港する途中、まさかの光景が。漁師が魚を海へ返していたのだ。

ホタルイカ以外の魚は海に返す
ホタルイカ以外の魚は海に返す

実はホタルイカ漁では、資源保護の観点からホタルイカ以外を一切水揚げしてはいけないというルールがある。小魚1匹でも混入するとルール違反になるため、網の中を細かくチェックしながら作業を進める。重油高・原料高と戦いながらの漁だが、資源の未来を守るための取り組みが現場に根付いている。

去年までは水深250メートルの“春ライン”までしか網を入れなかった
去年までは水深250メートルの“春ライン”までしか網を入れなかった

資源保護の観点でいえば、これまで越前町の漁師たちはカニ漁が終わった時期に、水深250メートルを“春ライン”と呼び、それより深くは網を入れないというルールを守ってきた。この長年の努力である程度の資源回復が見込めるようになったため、今年からは船の大きさにより規定を決めるなどしたうえで水深280メートルまで網を入れることを可能にした。

網を入れる水深を30メートル引き下げた
網を入れる水深を30メートル引き下げた

「さっそく280メートルの深いところでホタルイカが入っている。ゴールデンウィーク前までの値段がすごくいいので、助かっています」と漁師。

漁港から徒歩0分に漁師直営店

漁港から徒歩0分、越前町小樟の海鮮レストラン「えちぜん」では、水揚げされたばかりのホタルイカ料理を提供している。漁師直営店ならではの新鮮さが売りの刺身や天ぷらは漁のシーズンに合わせて5月末まで、沖漬けはその後もしばらく販売されている。

漁期にだけ食べられる“限定”の味
漁期にだけ食べられる“限定”の味

獲れたての新鮮なホタルイカを代々受け継いだしょうゆベースの秘伝だれに2日ほど漬け込む沖漬け。白いご飯やお酒に合うやや濃いめの味付けが特徴で「新鮮な状態で漬けるのが1番」とスタッフは語る。越前町のホタルイカは大きすぎず小さすぎず食べやすいサイズで、形がきれいなため刺身にも沖漬けにも映えるという。

秘伝のたれに…ホタルイカの沖漬け
秘伝のたれに…ホタルイカの沖漬け

SNSに投稿された1枚の写真から見えてきたのは、福井のホタルイカを巡る漁師たちの営みだった。福井・越前町が「ホタルイカ王国」を名乗る日は、そう遠くないかもしれない。

福井テレビ
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