かき氷といえば、削った氷にシロップをかけるだけ。そんな「常識」が、鹿児島で静かに、しかし確実に塗り替えられつつある。
氷そのものに味を閉じ込める特許技術、そしてトマトやコーンを堂々と乗せた「食事系かき氷」——。夏の定番おやつだったはずの一皿が、食体験そのものを書き換えようとしている。鹿児島県内の2店舗を訪ねた。
特許を取得した「味のついた氷」が鹿児島初上陸
南さつま市加世田の「氷や祐」は、2025年夏季限定でオープンしたかき氷専門店だ。
ただし、その素性は少し変わっている。普段は「Innovative Pizzeria YUU」として、ランチにピザやパスタ、ディナーにフレンチを提供する洋食店。かき氷を提供するのは、その合間の時間帯だけだ。
オーナーシェフの立石哲也さんがかき氷に魅せられたきっかけは、福岡・糸島の「村上や」との出会いだった。「初めて食べた時に、ものすごく感動して」と立石さんは振り返る。その後、実際に店舗へ足を運び、削り方や氷の保管方法を直接学んだという。
「氷や祐」で使用する氷は、村上やが特許を取得した独自のもの。氷自体に味が溶け込んでいる点が最大の特徴だ。抹茶入りの氷を使った「最高な抹茶」(1750円)は、福岡県八女産の香り豊かな抹茶をかけ、生クリームのエスプーマ、きな粉、抹茶ソースで仕上げた一品。その口溶けのなめらかさは、食べた人を驚かせる。
もう一種類、見た目で正体がわかりにくいのが「プリンアラモード」(1500円)だ。ほんのり黄みがかった氷の正体は、プリン味。スポンジケーキのような食感と、プリンならではのやさしい甘さが重なり合う。「鹿児島県内ではここだけ」という希少性も、来店者の足を遠くから引きつけている。
「食事系かき氷」という革命――霧島市のカフェが放つ驚き
霧島市隼人町の「カフェ&雑貨 フルール」は、木の温もりを感じるおしゃれな空間で、年間を通じてかき氷を提供している。
ここで目を引くのが、いわゆる「食事系かき氷」と呼ばれるジャンルだ。使用するのは福岡から仕入れた氷。その特長は72時間かけてゆっくり凍らせることで柔らかな口溶けを実現。その上に乗るのは、トマト、クリームチーズ、ベビーリーフ、玉ねぎと生ハムのマリネ。バジルとミルクを掛け合わせた自家製シロップと合わさり、「バジルトマト」(1500円)というかき氷が完成する。
さらに驚くのが「とうもろこし」(1300円)だ。炙りトウモロコシ、フライドオニオン、チーズが氷の上にのり、中にはベーコンとコーンのバター醤油炒めが隠されている。「冷たいコーンスープのような味わいに、醤油のコクが加わる」という組み合わせは、一見奇想天外でありながら、食べると納得感がある。
オーナーの鈴木真由美さんは「素材が良ければ何でも美味しくなる」と語り、砂糖を極力使わず、自然素材の旨みを引き出すことにこだわっている。
スイーツ系では「チョコミント」(1200円)や「プラムとチェリー」(1500円)も人気を集めている。プラムの甘酸っぱさとマスカルポーネのまろやかさが溶け合う後者は、夏の暑さを忘れさせるような一皿だ。
鈴木さんが食事系かき氷に踏み切ったのは、娘の那緒さんとともに県外へ足を運び、かき氷の進化を肌で感じたことがきっかけだという。「かき氷がこういう風に進化してるのを、鹿児島のみなさんに食べてもらいたい」。その思いが、霧島のカフェに新しい風を吹き込んでいる。
「常識」の先にある、次のかき氷へ
かき氷は今、かつての「シロップがけ」という枠を大きく超えようとしている。
特許氷、食事系、エスプーマ、地元素材へのこだわり。それぞれのアプローチは異なるが、共通しているのは「驚きと感動を届けたい」という作り手の熱量だ。
「氷や祐」では土日の混雑を避け、平日の訪問が狙い目。新メニューの登場も予告されており、詳細はInstagramで随時確認できる。「カフェ&雑貨 フルール」は年間を通じて営業しており、季節ごとにメニューが変わるため、繰り返し訪れる楽しさがある。
鹿児島のかき氷新時代は、まだ始まったばかりだ。

