茨城県が新たに導入した「通報で1万円」の不法就労対策が、現場で波紋を広げている。人手不足に悩む農業現場では制度への理解がある一方、通報によるトラブルへの懸念も根強い。なぜ通報が進まないのか、その背景には地域社会の事情があった。現場の本音と制度の課題に迫る。

茨城県の新制度「不法就労」通報で1万円

気になる疑問やニュースの「ナゼ」を解き明かす「どうなの?」。
21日は、「不法就労の問題」について注目する。

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安宅晃樹キャスター:
茨城県は、不法就労の外国人の数が4年連続で全国最多となっていて、5月11日から、報奨金が「1万円」の独自の通報制度を始めました。

山﨑夕貴キャスター:
(場所別の不法就労者数を表した)図を見てみると、2位の千葉と比べてもやはり1位の茨城が突出しているということが分かりますね。

安宅キャスター:
そうですよね。制度が始まった後、イット!が現地を取材したところ、この制度をめぐる問題点や農家の知られざる“ホンネ”が見えてきました。そこで21日の「どうなの?」は、「通報者に1万円も…『通報しない』理由」について見ていきます。

そもそも不法就労とは、外国人が本来、日本で働く資格がない人が働くことで、出入国在留管理庁によりますと、例えば、在留期限の切れた人が働くことや、観光客や留学生などが許可を受けずに働くこと、そして、認められた仕事内容や時間の範囲を超えて働くことなどなどが該当します。

今回この独自の制度を導入した茨城県では、不法就労の約7割が農業に関わっているという。では、実際にどんな制度なのか見ていきたいと思います。

まず、県のホームページで通報を受け付ける制度なのですが、対象となるのは不法就労で働く人を雇う事業者や、人材紹介のブローカーです。また、通報者は住所や氏名などが分かる本人確認の書類などの提出が求められる。この情報をもとに実際に摘発につながると、通報者に1万円の報奨金が渡されるという制度だという。

榎並大二郎キャスター:
違法に働いている外国人本人ではなくて、その働かせている側を取り締まるための通報制度ということなんですね。

安宅キャスター:
そうなんです。県はこの悪質な事業者の取り締まりを強化したいというところが狙いです。では、この新たな通報制度はどれぐらい効果があるのか、イット!はきちんとルールに従って外国人労働者を雇っている県内の農家を取材しました。

取材したのは、正規の在留資格を持つインドネシア人を10人雇用している農園。
外国人と一緒に働く中で大変なのは、言語の違い。指示を出すにも言葉がすぐ出ないという。

フジタファーム・藤田和宣 代表取締役:
ある程度(言葉を)覚えた方がお互い良いなと思って、ちょっとずつ(勉強)…。
ただ、なかなか覚えられるものじゃないので…。

そうまでしても外国人を雇う背景にあるのは、深刻な人手不足だ。

フジタファーム・藤田和宣 代表取締役:
(Q.外国人の方がいないと回らない?)うちの場合、全然回らなくなってしまいます。人力の仕事もありますし、機械だけでできない仕事があるんですよね。「今日(人手)大丈夫かな?」という時はありますね。

 2025年、県内の農家の数は5年前と比べて1万4000人以上減り、平均年齢は67.3歳になっている。人手不足と高齢化に歯止めが効かない中、この県の通報制度について当事者たちはどのように感じているのだろうか。

フジタファーム・藤田和宣 代表取締役:
今うちにいる子は、みんな正規のルートで入ってきて、正規の在留資格もありますので、誰かが調査に来ても、そういう通報制度で訴えられても、特に困ることはないので、特に反対はない。

一方、ここで働く外国人からは「(Q.通報制度に関しては?)私の気持ちは悪いです。悪かった。(この制度)好きじゃないです。私たちみんなルール守るから。 ただ、不法の人、それは全然守らないですね」という声が聞かれた。

安宅キャスター:
遠藤さん、今回の取材でこのような本音が聞かれましたが…。

遠藤玲子キャスター:
適法で就労している外国の方からすると、何も悪いことしてないのに、なんとなく周りから疑いの目を向けられている。それは気分良くないですよね。

「自分なら通報はしない」その“ホンネ”とは?

安宅キャスター:
そうですよね。ただ、これちょっと気になるのが、一方で、県内でルールに従ってちゃんと農業を営んでいる関係者を取材したところ、不法就労の実態を知りつつも、「自分なら通報はしない」との答えがあったんです。なぜなんでしょうか?

その理由としては、昔からこの不法就労の外国人が多い地域もあるそうなんです。お金を不法に自国に送金したり、アパートに住まわせるなどのシステムのある場所もあるというんです。実際に狭いコミュニティの中ですので、実際に通報してしまうと、身元がバレてトラブルや不利益を被る可能性もあるので「自分だったら通報しない」といった声もあるわけなんです。

三宅正治キャスター:
そのぐらい人手不足が深刻だという側面があるというのは分かるんですけど、通報者側の「もしかしてこういうトラブルに巻き込まれるかもしれない」というような不利益リスクを考えると、1万円という金額では、動機づけにはならないんじゃないかなとも思いますね。

安宅キャスター:
そうですね。じゃあ実際にどれぐらいの通報があったのか。制度が始まって今10日が過ぎたわけですが、イット!が県を取材すると、「通報の有無について公表できるものはありません」という回答でした。つまり、現時点でこの通報件数を公表しない方針だということなんです。

ただ、この制度が始まったのは2026年なんですが、制度実施前の2025年1年間で不法就労に関する情報提供というのが40件あり、そのうち1件は書類送検につながったということです。

では、実際にこの1万円の報奨金の制度で問題が解決できるのかというところについて、外国人の労働問題に詳しい東京都立大学の丹野清人教授に聞きました。

丹野教授によると「まず不法就労がこれ以上広がらないための「問題意識としては間違っていない」といいます。ただ、「制度が地域社会の利益に合致せず、抑止力にならないのではないか」と見ています。その上で、「やはり根本的なこの人手不足というところを解消していかないと、結局は不法就労で働く人や、紹介する人、事業者が入れ替わるだけで問題の解決にはならないのではない」と指摘しています。

ということで、実際に農業の現場を取材する、やはり通報する側のリスクや懸念、不安というところが払拭できていないなどの本音が聞かれました。また、専門家からは、「この問題意識自体は間違っていないものの、現状の仕組みでは抑止力にならないのでは?」との指摘がありました。

榎並キャスター:
このルールを守らせるための取り組みとされていると思うんですが、ただ、「なんで現場が回っていないのか」っていう構造的な問題に向き合って、本当の意味の解決につなげていって欲しいなと思います。

(「イット!」5月21日放送より)

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