トランプ大統領は17日、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に、自らが宇宙人(エイリアン)に手錠をかけて連行する画像を投稿した。

拘束された“宇宙人”

その背景は荒涼とした砂漠で、CIA(中央情報局)が「墜落したUFOを運び込み、宇宙人と共同研究をしている」と映画などで陰謀論の舞台となる秘密基地「エリア51」を思わせる。

そしてその中央を、トランプ氏が、背の高い灰色の宇宙人を連行しながら歩いている。

トランプ大統領の投稿
トランプ大統領の投稿
この記事の画像(7枚)

宇宙人は全裸に近い姿で、妙に筋肉質だった。しかも手首と足首には拘束具が付けられている。

だが、よく見ると、AI画像特有の奇妙さが随所に浮かぶ。

宇宙人の手錠をつなぐ鎖は片方が宙に浮き、後方車両にはタイヤがない。

トランプ大統領の後方の車にはタイヤがない
トランプ大統領の後方の車にはタイヤがない

さらに興味深いのは、画面の左端に“誰かの手”のようなものが写っている点だった。まるでスマートフォンで隠し撮りしたかのような構図なのである。

つまりこれは、「政府が隠していた極秘映像が流出した」というインターネット時代特有の演出だった。

またこの写真は、水平が斜めで微妙にピンボケになっている。しかし逆説的に、その“雑さ”こそが、SNSではリアリティーを生む。「完璧すぎないから本物っぽい」 のである。

しかも投稿のタイミングが絶妙だった。

話題はイラン情勢から宇宙人へ

イラン戦争は泥沼化し、停戦交渉は行き詰まり、中国訪問も大きな成果が見えない。支持率低下や健康不安説まで広がっていた。

そんな中で突然始まった“宇宙人大統領ショー”。当然、米メディアは飛びついた。

イラン情勢は先行きが見えない
イラン情勢は先行きが見えない

ニューズウィークは「宇宙人と歩くトランプ」と報じ、インテリジェンサーは「なぜトランプはセクシーな捕獲宇宙人画像を投稿したのか」と真面目に分析を始めた。

結果として、テレビもSNSも、 「イラン情勢」 ではなく、 「なぜ宇宙人なのか」 を語り始めた。これは偶然だろうか。

トランプ政治を長く見ていると、そう単純にも思えない。

トランプ氏は“話題を独占する政治家”

彼は昔から、「問題を解決する政治家」というより、「話題を独占する政治家」だった。つまり彼にとって重要なのは、 「何が起きているか」 より、 「人々が何について話しているか」 なのである。

しかも今回は、そこへ「UFO機密解除」が重なった。

国防総省は5月8日に大量のUFOに関する未公開情報を公表した
国防総省は5月8日に大量のUFOに関する未公開情報を公表した

国防総省は最近、「未公開UFO文書」を公表したが、期待されたような“決定的証拠”はなかった。

しかし重要なのは証拠ではない。「政府は何かを隠している」 という空気そのものだ。そこへトランプ氏は飛び込んだ。

地球外生命体
極秘基地

リーク映像風AI

これは現代アメリカの陰謀論市場では、ほぼ最強の商品パッケージである。

冗談と現実の境界線

しかもAI画像は、「冗談」と「現実」の境界線を曖昧にする。

本気なのか。
 
皮肉なのか。
 
宣伝なのか。
 
ただの悪ふざけなのか。
境界が消える。

宇宙人を連行する大統領。

少し前なら、これは民主主義崩壊後の風刺画だった。

トランプ大統領が投稿したAI生成画像
トランプ大統領が投稿したAI生成画像

ところが現在は、それが本当に大統領アカウントから流れてくる。しかも支持者の多くは怒るどころか楽しんでいる。政治が「国家運営」から「終わらない配信番組」へ変わりつつあるのである。

トランプ大統領が投稿したAI生成画像
トランプ大統領が投稿したAI生成画像

そして、現実世界の問題が複雑になればなるほど、政治は逆に漫画化していく。だからトランプ氏は、最後には宇宙人に助けを求めたのかもしれない。

少なくとも、地球人よりは話を聞いてくれそうだからである。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。