CNN放送の創始者テッド・ターナー氏が亡くなった。87歳だった。
放送界の革命家でヨット王者
それを伝えるAP電の記事見出しはこうだった。
「テッド・ターナーが掲げた、ニュースは世界規模で絶え間なく流れるものであるというビジョンは、業界と社会そのものの両方を変えた」
またセーリング専門のサイト「セイル・ワールド」はこう伝えた。
「アメリカズカップの優勝者であり、シドニー・ホバート・レースやファストネット・レースでも優勝を果たしたテッド・ターナー氏が、水曜日に死去した。華々しいセーリングのキャリアに加え、彼は世界的な放送ネットワークであるCNNを設立し、業界に革命をもたらした」
女優で元妻ジェーン・フォンダ氏も追悼
さらにアカデミー賞2回受賞の女優で、ターナー氏と10年連れ添った元妻のジェーン・フォンダさんはインスタグラムにこう投稿した。
「彼は私の人生に突如として現れた。見事なほどハンサムで、ロマンチックで、豪快な海賊だった。それ以来、私は以前とは別人になってしまった」
どれもがターナー氏をよく言い表した言葉だ。つまりターナー氏は単に実業界の大物のひとりではなく、革命家で超一流のスポーツマンであると同時にロマンティックな「いい男」だったのだ。
青年時代は放蕩の限りを尽くして有名大学を放校になるが、父親が自殺してビルボード(屋外看板)の会社を引き継いだ。
倒産寸前の経営状況だったが、ターナー氏は「看板にしゃべらせればいいのだ」とラジオ局を、次に地元のUHFのテレビ局を買収するが、それでも業績不調を回復できない。
その時、米国のテレビ界で始まっていたのがケーブルテレビだった。
ニューヨークで放送される番組を衛星中継で全国に配信するためのものだったが、ターナー氏はその仕組みを利用して、地方のUHF局を「スーパーステーション」と名付け、1976 年12月から全国への配信を始めた。
そのためにハリウッドのクラシックな映画を多数買い付けたり、地元ジョージア州アトランタのMLBチーム「ブレーブス」を買収して全国に通用するコンテンツを充実させた。
「スーパーステーション」は成功し、NBC、ABC、CBSに続く第4のテレビネットワークへと成長していったが、ターナー氏はまだ満足していなかった。
当時、彼は文明評論家のマーシャル・マクルーハンの「テレビこそ世界村を常にモニターしている道具でなければならない」という考えに傾倒していた。
24時間ニュースを伝えるCNNは1980年6月スタートした。
その3ヶ月後、アーカンソー州ダマスカスの米空軍基地で大陸間ミサイル「タイタンII」が地下の発射台で爆発し、その一部が地上に散らばるという事件が起きた。
それが核弾頭かどうか注目が集まる中、CNNはこの事件をナマ中継で伝えると同時に、弾頭の映像を封筒に貼った切手のように画面の片隅に縮小して見せ、その安全が確認されるまで写し続けた。
その後、スペースシャトル「チャレンジャー」の爆発や天安門事件、湾岸戦争などの際にはCNNのナマカメラが必ずレンズを構えているようになり「24時間ニュース」の存在が定着した。
CNN発足直前に世界最高峰ヨットレースに
そのCNNが発足の準備に追われていた1977年、ターナー氏はほとんどの日時を海上で過ごしていた。
といっても億万長者が富を披瀝する豪華ヨットではない。天井もない「12メートル級(艇のさまざまな計数から算出された数字で、実際は約全長20メートル余)」レース艇で、この年の世界最高峰のヨットレースと言われる「アメリカズカップ」に出場していたのだ。
ターナー氏は<カレイジャス>の舵をとり夏から始まった予選を勝ち抜いて、9月の決勝戦で豪州艇を4-0で破り、この年の「ヨットマン・オブジイヤー」に選ばれた。
その2年後、ターナー氏は英国の沿岸沿いに1000キロを往復する「ファストネット・レース」にも参加したが、大嵐で出場艇303隻ゴールできたのは86隻、沈没などで21人が死亡するというヨット史上例を見ない大惨事となった中、ターナー氏の艇が優勝するのだ。
ちなみに、この時のレース艇の名前は<カレイジャス(食いついたら離さない)>だった。
陸上競技に言い換えてみると、100m走で金メダルを取った選手が、大荒しの中で強行されたマラソンでも優勝したようなものだ。
つまりターナー氏の趣味のヨットはアマチュア以上のレベルどころかプロ顔負けの実力なのだ。
ひるがえって昨今を見るに、「オールドメディアの終焉」などと言われているが、それに代わる「ニューメディア」はまだ出てきたようには思えない。それどころか、今日のメディア環境は、信頼性の低下や分断化に関して、当時と同様、あるいはそれ以上の課題に直面している。
世に億万長者は増えているが、大胆で革命的なリーダーシップを備え、プロ顔負けの実力を伴った趣味人は見かけない。
ジェーン・フォンダさんが「豪快な海賊」と言った破天荒な人物はもう出ないのだろうか。
(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)
