生後3か月の命が、なぜ失われてしまったのか。その答えを求め続ける両親の前に、司法の厚い壁が立ちはだかっている。
不十分な危機管理
2022年7月、那覇市楚辺にあった認可外保育園で、一時預かりされていた生後3か月の男の子が心肺停止状態で発見され、そのまま死亡した。死因は特定されなかった。

その後の調査で、保育園が寝返りをうてないはずの乳児をうつ伏せに寝かせていたという事実が明らかになった。2024年、那覇市が設置した検証委員会が報告書をまとめた。そこには厳しい言葉が並んでいた。

人員配置が不適切であり、事故防止マニュアルの作成や必要な研修が行われず、異変に気付いた後も救急要請などを行わなかった。危機管理の不十分さを真正面から指摘する内容だった。
書類送検から不起訴へ
2025年、警察は元園長の女性(60代)を「保護責任者遺棄」の疑いで書類送検した。
施設側が十分な注意を払わず、異変に気付いた後も救護措置を怠ったという判断だ。しかし、2026年3月、那覇地検は不起訴処分とした。

那覇地検は「証拠関係を踏まえ、適正な判決を獲得できるかという観点から総合的かつ慎重に検討した結果」と説明している。つまりは、有罪に持ち込むのは難しいと判断したということだった。
検察の判断について保育現場での事故に詳しい駒沢女子短期大学保育科の猪熊弘子教授は説明する。

「赤ちゃんの場合、死因が不詳になることは珍しくありません。大人のように病理が明確に現れず、事故と死因の直接的な因果関係を立証することが難しい。その立証が上手くできなければ、起訴には至りません」
「どんな事件なら起訴になるのか、納得できない気持ち」
不起訴の通知を受けた母親の言葉には静かな怒りがにじんだ。
「どんな結果であれ息子の命は返ってきませんが、不起訴という結果が出て、どんな事件なら起訴になるのかと、納得できない気持ちです」
両親は検察の不起訴処分が適切かどうかを再び問うため、検察審査会に審査を申し立てた。申立書では、保育園が寝返りをうてない乳児をうつ伏せに寝かせながら、呼吸や顔色の確認など必要な対応を怠ったと主張している。

4月には街頭に立ち、通行人に思いを訴えた。オンラインでの署名活動も始め、2026年5月18日時点で3万6904人の署名が集まっている。
なぜ起こった?責任はどこに?
父親は検察審査会への申し立てにあたって、こう語った。
「息子の命が戻ってくることはありません。でも、もし同じようなことが起きて不起訴になるのであれば、今後も多くの命が奪われてしまうのではないでしょうか。不起訴ということがやはり信じられない。一番は息子のために私たちが出来ることがあればやっていきたいなと」

母親は「起訴だけが目的ではない」と言葉を継ぐ。「今回のことをきっかけに、保育園のあるべき姿を多くの人に再認識してもらい、より安全な保育につなげてもらいたい」。
猪熊教授は第三者による再検証の意義があると話す。
「なぜ亡くなったのか、どこに責任があるのか。不起訴で終わってしまえば、それが分からないままになる。再び検証することで、新しい人たちにもう一度見てもらい、明らかにしてほしいと思っています」
安全な保育とは何か…悲劇を繰り返さないために
今回の事案では、保育園だけでなく行政側にも問題があったと指摘されている。検証委員会の報告書は、那覇市に対しても「立入検査の際の指導が十分でなかった」と結論付けた。
那覇市はこの事案を受け、市内の保育園への監査を強化し、保育士を対象にした心肺蘇生などの研修を拡充している。
「現場のスタッフが研修を受け、安全な保育とは何かを知ることが重要です。そのインセンティブを自治体が与えることがまず出来る。那覇市も一緒に全体の保育の質向上に取り組むことが求められています」(猪熊教授)

すべての子どもが同じように豊かな保育を受けられなければならない、ということは一つの理想であると同時に、今回の事案への問いかけでもある。
検察審査会が審査を決定すれば、その判断によっては検察が再び捜査に動く可能性もある。
亡くなった子どもの命は返ってこない。それでも両親は問い続ける。何が起きたのか、誰が責任を負うべきなのか。その答えが出ないままに時間だけが流れていくことに抗い、同じ悲劇が繰り返されないように。
沖縄テレビ
