島根県松江市に2026年3月にオープンしたそばの店。
小麦粉などのつなぎを使わず、そば粉と水だけで作られる十割そばが看板です。
この店を切り盛りする男性は、2025年に突然の病で右目の視力を失いました。
それでもなお店を始め、挑戦を続けています。
石臼挽き十割そばの店「雅月ーまさげー」、3月3日に松江市にオープンしました。
売りは、石臼でそばを挽き、小麦粉などのつなぎを使わず打つ「十割そば」。
来店客:
「美味しいです。やみつきになりそう、冗談抜きで」
「十割ってなかなかあるようでない、なのでとっても美味しいです」
店を開いたのは安部剛さん(62)、うどんが人気の姉妹店「安菜蔵(あなぞう)」のオーナーです。
安部剛さん:
ずっと何年もかかってやっていって(研究して)、やっと切れない歯ごたえのあるそばが出来るようになりました。
安部さんはもともと工務店を経営していて、9年前に畑違いの飲食の世界へ。
うどんの店を始めました。
材料の野菜を自ら栽培、ヤギを飼ってみたり、うどん店なのにスイーツに力を入れてみたり、と自由な発想で人気店に育てました。
安部剛さん:
生きた証、挑戦してみたかった。毎日が人生最後の日だと思ってやってきてる。
しかし6年前、コロナ禍が直撃。
外食産業にとって大きな打撃となりましたが、安部さんはあきらめず、打開策を模索。夢だったそば作りに挑戦しました。
まずはうどん店の夜メニューに。
その後、キッチンカーで移動販売するなど準備を進め、2025年にそばの店を出すことを決めました。そんな矢先に…
安部剛さん:
最初言われたときは嘘だろうと、絶対自分は“がん”になるはずがない、80歳、90歳になっても麺を作り続けるぞという思いでいたんですけど…。
いつもと違う体のだるさ…病院で受けた診断は、腎臓がん。
2025年2月のことでした。
転移を避けるため、左の腎臓を摘出。
再び仕事に向かいましたが…。
安部剛さん:
朝起きると、いつも夢じゃないかと思って、目が見えない…。俺に限ってそんなこと絶対に無いと思っておったんですけど。
半年ほど経ったころ、吐き気と激しい頭痛に襲われました。
診断は「黄色肉芽腫」、自然に治るケースもありますが、安部さんの場合は眼球と脳の間に腫瘍が見つかり、全国でもわずか数例という難病でした。
体重は20キロほど減少し、右目の視力を失いました。
一度は死を覚悟しましたが、大阪の病院で約10時間がかりの手術を受け、腫瘍は一部残ったものの、左目の視力は失わずに済みました。
安部剛さん:
自分がこの世でやり残したこと、美味しいそばを皆さんに提供したいということを、命を落としかけて、このままあの世に行ったら後悔するだろうなと。
2025年12月に大阪の病院を退院。
松江に戻った当初は歩くこともできなかったといいますが…。
安部剛さん:
やることがいっぱいあるので、そば屋、畑、山羊の世話、一日も休まず今日になります。崖っぷちに立つと火事場の馬鹿力。
半ば無理やり、体を動かし、3月のオープンにこぎ着けました。
仕入れからそば打ち、畑仕事までとにかく全力で働く毎日ですが…。
安部剛さん:
目が見えんけん…こういう仕事が一番苦手。手元の距離感がいる仕事は、切ったつもりが切ってなかったり…。
右目の視力を失い、遠近感を掴みづらくなりました。
また摂取する塩分の量に制限があり、味見をするのにも気を使います。
それでも…。
安部剛さん:
自分があとどれだけ生きられるか、不安だし寂しいけど生き方が変わった。
生きている間は、片目はまだ見えますし、腎臓ももう一個あるし、動ける間は頑張って(そばを)打って、出汁をとって、お客さんにご提供できればと思っています。
夢は、誰かに店を引き継いでもらうこと。
そのためにも1人でもおいしいと喜んでくれる限り、安部さんの歩みが止まることはありません。