福岡市で2020年8月、当時15歳の少年に女性が殺害された事件。遺族が損害賠償を求めた裁判の控訴審判決で福岡高裁は、元少年の母親に対しても支払いを命じた。
最愛の娘は21歳で帰らぬ人に…
2026年3月25日。控訴審判決の後に行われた記者会見で、殺害された吉松弥里さんの母親は「判決は嬉しいです。本当に嬉しかったです。毎日、毎日、歯を食いしばって寝て、眠れなくて…、でも私たちは間違ったことを何ひとつ言っていないと。そればかり思っていました」と声を震わせて言葉を紡いだ。

最愛の娘が奪われた事件。吉松弥里さんは21歳で帰らぬ人となった。

事件が起きたのは2020年8月。福岡市の商業施設に友人と訪れた弥里さんは、面識のない当時15歳の少年に包丁で十数回刺されて殺害された。元少年は少年院を仮退院したばかりだった。

「娘の遺体と対面した時には冷たくなっていて、これ本当なんだって思って、でも涙も声も出てこなくて、もう蹲るしかなかったですね」(吉松弥里さんの母親 2025年9月6日取材)。

元少年の特異な家庭環境が明らかに
裁判では元少年の特異な家庭環境が明らかになった。父親は家にあまりおらず、母親は家事と育児の能力が低かったうえ、家庭内では虐待もあったという。

小学生のころから粗暴性が目立ち、病院や施設を転々とした元少年。事件の僅か2日前、少年院を仮退院したが、母親が身元の引き受けを拒否したため更生保護施設に入所。その翌日、施設を脱走し、弥里さんを襲った。

「弥里さんが母親と姿が重なり、怒ってしまいました」と裁判で証言した元少年2022年に福岡地裁は、元少年に懲役10年以上15年以下の不定期刑を言い渡し、判決は確定した。

その後、弥里さんの母親は、服役中の元少年に事件とどう向き合っているかを尋ねている。

「娘に包丁を向けた時、実際に娘を刺した時、何を感じたか」。気持ちを振り絞るような弥里さんの母親の問いかけに、元少年の回答は「人はあっけなく死ぬんですね」という、信じられない言葉だった。

「私は、この質問(娘はどんな表情だったか)は、悲しい顔をしてたとか、そういう言葉が聞きたかったんですけど、返ってきた言葉が『猿の顔、馬鹿ですね』って。なんでこんな思いをしないといけないんだろうかって、本当にもうなんか、もう悲しくなってきます」(2025年9月6日取材)と弥里さんの母親は、やりきれない思いに苛まれるばかりだったという。

母親に対して育てた責任を問う
『この元少年を育てた母親にも、責任はあるはず』。遺族は2023年に元少年とその母親に対し損害賠償を求める民事裁判を起こした。

しかし2025年3月。1審の福岡地裁は「母親とはおよそ4年半離れて暮らしており、施設に入所中の少年が危害を加える可能性は予見できなかった」と判断し、元少年に対してだけ損害賠償を命じた。

「15歳でやってて、無差別の殺人ですよ。それで親が、責任がないっておかしいじゃないですか。裁判でも刺した時の動機が『自分の母親と重なった』と言っていた。これ一番大きな証拠だと思うんですよね、母親の影響があるって。私は母親にちゃんとこの事件と向き合って、娘にも償いをしながら生きていってほしい」(吉松弥里さんの母親 2025年9月6日取材)

遺族は、元少年の母親を相手取り控訴。一方、元少年の母親側は「少年院から受けた通知で元少年の粗暴性が解消されつつあると記載があり、事件の予見は困難だった」などと、改めて訴えを退けるよう求めた。

娘の部屋は当時のままに…
事件からまもなく6年。控訴審の判決を前にした3月7日。弥里さんの母親が取材に応じてくれた。弥里さんの部屋は当時のままだ。

「弥里さんの部屋に毎日入って会社に行ってます。『おはよう』って言うけど、返事ないんですけどね。時間が経てば経つほど、だんだん思い出すんですよ。事件当時のこととか、弥里の姿とかを想像してしまう。忘れた日はないです」

「弥里を返して欲しい…。帰って来ないんですよ、もう。ごめんなさいじゃ済ませられないよって。それを分かってもらいたい。もう金額じゃないんですよね。裁判官は控訴理由ちゃんと読んで、判断して頂きたい。祈るしかない」。

「お金じゃない。ちゃんと誠意を見せなさい」
そんな思いで迎えた判決。福岡高裁の松田典浩裁判長は、一審判決を変更し、元少年の母親の『監督義務違反』を認め、元少年と連帯して約5400万円を支払うよう命じた。

判決理由では元少年の母親が「身元の引き受けを拒否することが元少年の精神状態を不安定にし、暴力を誘発するおそれがあると懸念していた」と指摘。さらに「仮退院前後に指導監督を怠らなければ、元少年が衝動に駆られて事件に及ぶことも防止することができた」などとしている。

判決後の会見で弥里さんの母親はこれまでを振り返り「本当に苦しかった」と語った。

「本当に嬉しかったです。私たちが言っていることが正しかった。改めてそう思った。弥里の命を軽く扱われたような気がして、本当に苦しかった。元少年の母親には、お金じゃないけど、ちゃんと誠意を見せなさいと言いたい。自分が今までやってきたこと、私の娘は帰って来ないから。帰って来ないですよね、いくら裁判勝ったって、お金をもらったって」
(テレビ西日本)
