今年も花粉の飛散シーズンがやってきた。今春の飛散花粉数は昨春の1.4倍になると東京都は発表している。

花粉症患者の方は見るだけでつらいかも… 資料画像
花粉症患者の方は見るだけでつらいかも… 資料画像
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その東京都は2005年から花粉の飛散量を抑制するための研究を進めていて、花粉症対策の切り札として、花粉をまったく飛散させないスギの苗木を作り、都内の山林に植えていこうとしている。

花粉を飛散させない無花粉のスギの名は、「心晴れ不稔1号(こころばれふねんいちごう)」だ。

心晴れ不稔1号
心晴れ不稔1号

「花粉がでなくて心が晴れるように」と願いを込めて命名された。

偶然見つかった“無花粉”スギ

「心晴れ不稔1号」から培養された苗木を植えていけば、花粉の飛散量は大幅に減少することになると期待されている。

心晴れ不稔1号の誕生までの道のりがすごい。なんと13年近くかかっている。

きっかけは1992年、富山県の山林で偶然花粉を持たず、飛散させないスギが見つかったことによる。

通常のスギと無花粉スギの比較
通常のスギと無花粉スギの比較

東京都は2005年に花粉症対策本部を設置、富山県で見つかった無花粉のスギに東京のスギの交配させる研究に着手。

600本植えて5年成長させたあと、120本に絞り込む。その120本からさらに5年かけて60本に絞り込む。そしてそのなかから1本の無花粉スギの母樹を誕生させたのだ。

いまでは、7本まで母樹が増えた。

しかし従来の人工交配による無花粉スギを育てる方法では、量産ができない。

そこで東京都が採用したのが、国立研究開発法人森林総合研究所などが開発したDNA鑑定と組織培養による量産技術だ。

無花粉スギからとれた未熟種子を培養して遺伝子レベルで無花粉スギかどうかを選別することで、従来のように苗木が数年育つまで待つしかなかった人工交配と違い、無花粉スギを数か月で選び出すことができるため、苗木を短期間に大量生産することができる。

東京都は住友林業と協定を結び、組織培養による大量増殖技術で植林する無花粉スギ苗木を年間10万本の生産を目標にかかげている。

「ゴールまであとわずか」

現在、この母樹の種から無花粉のスギの培養が進められていて、数年後には、都内の森林で花粉を飛散させているスギが伐採され、無花粉のスギの苗木に植え替えられる作業が始まる予定だ。

長い時間をかけて「心晴れ不稔1号」が育成されてきた
長い時間をかけて「心晴れ不稔1号」が育成されてきた

東京都農林総合研究センター緑化森林科の中村健一科長は、「20年以上の年月のかかったプロジェクトで、無花粉の苗木を実際に植えていくというゴールまであとわずかとなっています。大雪の時は、苗木が雪にすっかり埋まってしまい、苗木の場所を探しながら雪かきをしたこともありました。花粉症の方々に少しでも貢献できるよう最後までしっかり進めていきたいと思います」と話す。

花粉の少ない森へ

多摩地域には3万ヘクタールの人工林がある。無花粉のスギに植え替えるには、まだまだ時間はかかってしまう。それでも、対策を継続して実施していけば、着実に花粉の飛散量は減少していくはずだ。

東京都産業労働局農林水産部森林課の鐙美和子課長は、「『花粉の少ない森づくり』は山間部の問題ではなく、都市住民にとっても大切な取組です。時間はかかってしまうが多くの人たちに応援して頂きたい」と話している。

大塚隆広
大塚隆広

フジテレビ報道局社会部
1995年フジテレビ入社。カメラマン、社会部記者として都庁を2年、国土交通省を計8年間担当。ベルリン支局長、国際取材部デスクなどを歴任。
ドキュメントシリーズ『環境クライシス』を企画・プロデュースも継続。第1弾の2017年「環境クライシス〜沈みゆく大陸の環境難民〜」は同年のCOP23(ドイツ・ボン)で上映。2022年には「第64次 南極地域観測隊」に同行し南極大陸に132日間滞在し取材を行う。