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プレスリリース配信元:NSGグループ

― 山登りの『知恵』を科学が解明 ―

1.概要
山梨大学医工農総合研究部博士後期課程2年の越水悠介、同大学大学院総合研究部教育学域の木島章文教授、東北大学電気通信研究所の福原洸助教、新潟医療福祉大学心理・福祉学部の山本裕二教授の研究グループは、登山時にトレッキングポールを使用する人間の歩行が、単に疲労だけではなく、階段の高さに応じて歩き方を切り替えていることを明らかにしました。

本研究では、トレッキングポールを使用した人間の歩行を四足歩行とみなし、動物の四足歩行研究で用いられてきた分析の枠組みを応用して、人間のトレッキングポール歩行を解析しました。そしてポールと足を含む四肢の動作が、階段の高さに応じて2通りのパタンで揃うことを実地の登山環境で実証しました。
本成果は、2026年1月23日に国際学術誌 Frontiers in Sports and Active Living に掲載されました。

2.研究の背景
人間の二足歩行はエネルギー効率に優れる一方で、急斜面や不整地では安定性が大きく低下します。そのため、ハイカーは登山やハイキングコースで両手にトレッキングポールを持って歩きます。これまでの研究では、こうしてポールを使用することで下肢負担が軽減し、転倒リスクが低下すると報告されてきました。しかしこうした効果をもたらす四肢の動作が組み上がる仕組みは理解されていませんでした。急に地形が変化し疲労が蓄積すると、ハイカーが歩幅や姿勢を微調整するのではなく、歩き方が勝手に切り替わるように見えます。本研究は、こうした歩き方の切り替えにハイカー共通のパタンがあること、その切り替えがコースの段差高に影響されて創発する様子を捉えました。


3.研究の方法
登山経験のない大学生20名にトレッキングポールを持たせ、全長4.2kmの山道を登ってもらいました。コース上には、高さ約20cmの比較的低い階段と、高さ約40cmの高い岩段が混在しており、登山の前半と後半では疲労も大きく異なりました(図1)。実験者は登山中の4地点で参加者の動作をビデオ撮影し、左右の足と左右のポールが地面に接地・離地するタイミングを詳細に分析しました。

我々は2本のポールを四足動物の前足と類似した「四肢」とみなし、そのパタンを分析するために2つの変数:接地率(duty factor)と対角肢同期率(diagonality)を計算しました。接地率とは一歩のうち、足(またはポール)が地面についている時間の長さです。次に対角肢同期率は同側の手足の接地タイミングのずれです。この対角肢同期率から、同側の脚とポールがそろって接地する場合を同側カプリング(図2左)、対側の脚とポールがそろって接地する場合を対側カプリング(図2右)としました。それぞれの計算の仕方にご興味がある方は、参考資料1をご参照ください。

図1

図1:前半2地点(緑)の心拍数(拍数/分)と後半2地点(茶色)の心拍数(拍数/分)と実際に参加者がコースを登る写真です。後半になるとハイカーの運動強度は乳酸性作業閾値に差し掛かり、図1に示したように心拍数があがります。その状況で直面する1つ目の岩段の高さはおよそ40cm、2つ目の階段はおよそ20cmでした。

4.主な結果
解析の結果、歩き方は登山路の地形に応じて組織的に切り替わることが明らかになりました。階段が約20cmの区間では、互いに左右反対側の足とポールが揃って動く対側カプリングが多く観察されました。一方、約40cmの高い階段では、同じ側の足とポールが揃って動く同側カプリングが頻発しました。
さらに、ハイカーの疲労が溜まる登山路の後半であっても、階段の高さが低い区間では、登山路前半で用いていた対側カプリングが再び増加しました(図2)。これらの結果は、登山中の人間がでたらめに歩き方を変えているのではなく、ハイカーの身体の外にある地形の変化に応じて、歩き方のパタンが切り替わることを示しています。



図2:後半の2つの地点における、様々な対角肢同期率を有する歩行パタンの出現頻度。横軸は足とポールが着地するタイミングのずれ(対角肢同期率)を表し、縦軸はその動きがどれくらいの頻度で現れたかを示しています。左側のグラフ(段差40cm)では、同じ側の足とポールがほぼ同時に地面に着く同側カプリング(左端0-10% および 90-100%)が多く見られます。一方、右側のグラフ(段差20cm)では、反対側の足とポールがほぼ同時に地面に着く対側カプリング(右端40-50% および 50-60%)が頻発します。高い段差では同じ側の足とポールを同時に着き、低い段差では反対側の足とポールを着く傾向が高かったことを示しています。本研究ではこれらの歩行パタンを対称性と群論の観点から整理しました。この数学的な背景にご興味のある方は、参考資料2をご参照ください。

5.社会的・実践的意義
本研究は、登山やアウトドア活動における安全指導や用具設計に新たな視点を提供します。ポール歩行の「正しい使い方」を一律に定めるのではなく、地形条件に応じた協応パタンの切り替えを理解することが、より安全で効率的な歩行をもたらすと考えています。そして筋力や持久力だけでなく、四肢の使い方を工夫することで、歩行技術の開発と幅広い年齢層のハイカーに寄り添う指導に繋げたいと考えています。


6.今後の展望
今後は、実験室環境での力学計測や重心運動の解析を通じて、各協応パタンが持つ安定性や力学的利点を検証していく予定です。人間の運動がどのように環境と結びつき、秩序だった構造として立ち現れるのかを解明することで、「動くこと」の理解をさらに深めていきたいと考えています。


[参考資料1]
・接地率の計算:まず4本の前後足それぞれが地面に着地している接地時間を割り出しました。次に左足が着地してから、他の3本が着地する間に一度地面から離れ、再び左足が着地するまでの1歩行周期を割り出しました。そして1歩行周期に対する足の接地時間の割合を100分率で求め、1歩ごとに接地率を割り出しました。左右のポールの接地率はやや低いものの、四肢の接地率はおおよそ1歩行周期の半分ほどでした。

・対角肢同期率の計算:左足の接地から左の前足(ポール)が接地するまでの時間差を割り出しました。正確には、この値が1歩行周期に占める100分率を対角肢同期率としました。
なお、対角肢同期率が0-10%と小さければ、左足を着いてから僅かに遅れて左のポールが着地したことになります。この2本の肢は互いに短い時間差で、地面に着いて(着地)離れる(離地)動作を繰り返していたことになります。一方、これが90-100%と極端に大きくなる場合は、左足に大きく遅れて左のポールが着地することになる;周回遅らせて考えれば、左ポールが左足より僅かに(100-90=10%から100-100=0%だけ)早く着地することになります。
我々は足とポールどちらが早いかを問題にせず、両者の時間差だけを問題にした解析を行いました。そして対角肢同期率が0-10%の場合と90-100%の場合の頻度を合算し、同側カプリングの出現頻度を算出しました。これは「地面に着いて離れる動作を、同側の足とポールが揃って繰り返していた」ことを示します。図2の左右の棒グラフのうち、それぞれ一番左の区間[0-10]+[90-100]%がその出現頻度で、そのときの姿勢が左図の下です。

一方で、足とポールどちらが先かは関係ないとみなすなら、双方間の時間差が最も大きくなるのは対角肢同期率が40-50%あるいは50-60%の歩き方になります。これらの場合では、左足が左のポールより1歩行周期の50±10%だけ早く(あるいは周回遅れで考えれば、遅く)着地することになります。ここで足もポールも、それぞれの四肢がおよそ1歩行周期の半分だけ地面に着地していることに注意してください。このことを踏まえると、一方の足の着地時点から1歩行周期のわずか10%以内の遅れで同側のポールが「離地」することになります。そして重要なことは、足の着地-離地のタイミングが対側のポールの着地-離地のタイミングと±10%以内の時間差で揃うということです。図2の左右の棒グラフのうち、それぞれ一番右の区間[40-50]+[50-60]%がその出現頻度で、そのときの姿勢が右図の下です。

[参考資料2]
・同側カプリングと対側カプリングの数学的な構造:動物の歩行研究では、対側カプリングに近いトロットと、同側カプリングに近いペースという2つの歩き方が典型的な歩き方とされます。そして群論という理論に沿って図3のように整理すると、それらが異なる対称構造を持ちながらも、特定の規則によって相互に移り変わる共役関係(conjugate)にあることが知られています。本研究で観察された人間のポール歩行における対側カプリングと同側カプリング間の切り替えもこの群論的枠組みと対応しており、歩行パタンの広がりが対角肢同期率という一つの数値で推定できることを示しています。これはハイカーの歩き方の切り替えに、数学的な構造があることを示します。


図3

図3:左図が同側カプリング(側対歩あるいはペース)、右図が対側カプリング(速足あるいはトロット)、中央図が常歩(ウォーク)、それぞれの四肢の接地順を示しています。τp=[ ]とτt=[ ]でそれぞれに括られた数字は、その中に入っている同一の()内に入れられた四肢が、最後のカンマに続く時間だけ遅れて接地することを示します。στpσ-1は同側カプリングをσつまり常歩で共役(conjugate)する演算で、実際に同側カプリングを常歩の要領で回転させると[(3,2)(4,1)、0]となります。これは3(左前)と2(右後)の四肢と4(右前)と1(左後)の四肢が、それぞれ同時に(遅れ時間0で)同じ方向に動くパタンであることを示します。これはトロットを示す[(1,4)(2,3),0]と同一です。同じように対側カプリングを常歩で共役すると同側カプリングと同一のパタンが導かれます。

【論文情報】
雑誌名:Frontiers in Sports and Active Living
論文名:Adaptive gait transition in trekking pole-assisted hiking due to fatigue and staircase height elevation
著者:Yusuke Koshimizu, Akira Fukuhara, Yuji Yamamoto, Akifumi Kijima
DOI:10.3389/fspor.2025.1669574


<研究についての問い合わせ先>
山梨大学 教育学域 木島 章文
E-mail: akijima@yamanashi.ac.jp
TEL: 055-220-8198


東北大学 電気通信研究所 福原 洸
E-mail: a.fukuhara@riec.tohoku.ac.jp
TEL: 022-217-5465


新潟医療福祉大学 心理・福祉学部 山本 裕二
E-mail: yuji-yamamoto@nuhw.ac.jp
TEL: 025-257-4455

<広報についての問い合わせ先>
山梨大学 総務企画部総務課広報・渉外室
  E-mail: koho@yamanashi.ac.jp
  TEL: 055-220-8005,8006


東北大学 電気通信研究所 総務係
  E-mail: riec-somu@grp.tohoku.ac.jp
  TEL: 022-217-5420


新潟医療福祉大学 入試広報部広報課
  E-mail: kouhou@nuhw.ac.jp
  TEL: 025-257-4459

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