飛ばない男…不出馬の舞台裏と新たな悩み【自民党総裁選】

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  • 不出馬会見「タイミング」のワケ
  • 苦渋の決断の陰に安倍首相側のプレッシャー
  • それでも岸田氏の悩みは続く

電撃不出馬表明はなぜこのタイミングだったのか

7月24日の午後5時30分、自民党の岸田政調会長が率いる岸田派(=宏池会)事務所には、関係者や報道陣100人近くが集まった。

会場を埋め尽くした記者ら

文字通り足の踏み場もないほどの状態の中、設置された10台ほどのカメラを前に、横一列に並んだ岸田派の幹部たち。
その中央に座った岸田氏は、無数のフラッシュを浴びながら、やや険しい表情で語った。

「私としては、今回の自民党総裁選挙には出馬することはせず、安倍総理を中心に様々な政治課題に取り組んでいく。
そうした取り組みに貢献をしていくことが適切な対応ではないか」

自らの総裁選挙への不出馬と、安倍首相の三選支持を表明した岸田氏。
では通常国会閉会から2日後の不出馬表明というタイミングはなぜだったのか。

岸田派幹部は「安倍支持を明確にしていない派閥ができるだけ残っているうちに、なるべく早く支持を表明することが重要なんだ」と話した。

早めの三選支持でポスト確保狙い

確かに、安倍首相の出身派閥の細田派と、以前から安倍支持を明確にしてきた麻生派や二階派を除いた中で、安倍三選支持を表明したのは、岸田派が最初となったが、狙いはズバリ、総裁選後の人事だ。

岸田派の閣僚(左上から)林文科相、上川法相、小野寺防衛相、松山一億総活躍相

現在、岸田派からは、岸田氏が党三役の一角である政調会長に起用され、林文部科学相、上川法務相、小野寺防衛相、松山一億総活躍担当相の4人が入閣するなど厚遇されている。

しかし、この総裁選で安倍首相サイドの心象を損なえば、岸田派は次の人事で一気に冷遇されてしまう恐れがある。

出馬するとなれば話は別だが、どうせ不出馬ならば態度を明確にしない他の派閥よりも先に安倍支持を打ち出すことが、安倍首相サイドに、自分を最も高く売ることになるというわけだ。

会見で岸田氏は、総理と人事に関するやり取りがあったかと質問され、「全くない」と答えたが、岸田氏周辺は「安倍総理へはすでにポストに関する希望は伝えた。決定権は総理にあるのだから、こちらは待つだけだ」と人事をめぐる水面下の折衝を認めている。

悩んだ結果の不出馬だが、出馬はありえたのか

今年4月、自ら「私も飛ばない男だとか、飛べない男などと言われるが、いざというときは我々はやるんだ」と言った岸田氏だったが、結局、飛ぶことを諦めた。
ただ、直前まで飛ぶ可能性が囁かれていたことも事実だ。

岸田派は5月以降、派閥内の会合を頻繁に開いてきた。6月に入ると派閥内の主戦論が強まり、最終的に総裁選への対応は岸田氏に一任されることとなった。
そしてその頃から岸田氏は、「派閥が一致結束して、荷崩れしないようにすることが大切だ」という言葉を何度も繰り返すようになり、周囲からは、総裁選を戦い抜くための結束固めのようにも映った。

幹部の懸念「切り崩されたらうちの派閥はもたない・・・」

しかし、安倍首相側もその動きを黙って見ているわけではなかった。

4月に行われた総理の出身派閥である細田派と岸田派の会食。細田派からの提案で開かれ、大いに盛り上がったというが、そのお返しにと、6月に岸田派側から再び細田派との会食を提案した際は、なぜか会食そのものを断られたという。

その後、岸田氏周辺に対して、総理側が出馬を警戒しているということが伝わり、安倍首相側が「負けた派閥は、冷遇を覚悟すべきだ」と語ったという情報も駆け巡った。

こうした動きの中で岸田派中堅はこう語った。

「出馬するってことは、総理はどんなことをしても岸田派を崩しにくるってこと。
総裁選は国政選挙とは違う。つまり魅力的なポストを約束したり、お金をばら撒いたり何でもありなんだよ。
そうなったらうちの派閥はもたないだろう。それは岸田会長が一番よく分かっている」


「派閥が割れるのは避けるべき」古賀元幹事長

つまり、安倍総理と戦うことは結果的に派閥を分断される危険性があるというわけだ。
また、岸田派の名誉会長である古賀誠元幹事長も周囲に対して「戦うにはそれ相応の代償を払う覚悟が必要だ。とにかく派閥が割れることだけは避けるべきだ」と語っていたという。

このような情勢を受けての不出馬は苦渋の決断だったと言える。
しかし、党内からは岸田氏について「ここで勝負できなかったらもう終わりだ」などと、厳しい声も出ている。

岸田氏に浮上した新たな悩み

一方で、岸田氏は不出馬により新たな悩みを抱えることとなった。

不出馬会見の2日後、岸田氏は、岸田派議員20人ほどを前に、次のように述べた。
「ひとつの方針のもとに一致結束、共に努力をしていきたい。皆様のご理解ご協力をお願いします」

改めて派閥の結束を呼びかけた岸田氏。
安倍首相支持を掲げた以上、次の課題は、総裁選において岸田派議員48人全員が揃って安倍総理に投票することだ。

この足並みが崩れるようなことがあると、岸田氏の求心力が問われ、結果的に安倍総理からの信頼も損ないかねない。

政策の違う安倍首相への支持に造反票も?

しかし、岸田氏自らも会見で「安倍総理と私は政治理念とか政策についても異なる部分があるわけだが」と話したように、派閥内にも安倍首相の政策を、あるいは安倍首相の三選を是としない考えが存在することは確かだ。

派内には「岸田会長の判断で一任を取ったんだ。一任ということはどんな判断でも皆ついていくということだ」と、結束して安倍首相に投票できると言い切る議員がいる一方で、「もちろん一任には賛成したさ。でも実際会長が出ないとなると…」と言葉を濁す議員もいる。

総裁選での議員の投票は無記名なので、派の方針に反して安倍首相以外の候補に投票しても、それが明らかになることはない。
しかし、安倍首相への投票が予想より少なければ、岸田派内の造反が疑われる可能性も否定できず、その場合は、人事にも影響しかねない。
 
岸田氏は派内で丁寧な説明を続けていくというが、今後も別の意味で悩ましい日々が続きそうだ。

(政治部・自民党担当 福井慶仁)