勝利を渇望された地元広島の敗北。自民・岸田氏が語った敗因と新たな政治目標

菅政権誕生後初の国政選挙であり政権発足後半年間の通信簿ともいえる衆参3つの国政選挙は「与党全敗」という結果に終わった。その中でも激戦となり勝敗の行方が特に注目されたのが、“河井事件”こと大規模買収事件で有罪判決を受けた河井案里氏の失職に伴い広島県で行われた参議院再選挙だ。

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自民党にとっては、政治とカネの問題の象徴となった河井事件による大逆風の中での選挙であったが、広島県は長らく自民党の牙城であり、唯一勝利が期待された選挙区であった。

選挙から3日後の4月28日、自民党広島県連会長として地元広島で陣頭指揮にあたってきた岸田前政調会長は、自らが会長を務める岸田派(宏池会)の会合で、選挙応援に奔走してくれた派閥議員らに感謝を述べるとともに、「ひとえに私の力不足であり、心からお詫びを申しあげる次第であります。申し訳ございませんでした」と広島での敗北を謝罪した。

その上で岸田氏は選挙戦を振り返って「河井事件の傷跡の大きさも強く感じたが、それ以外の自民党の政治とカネの問題、東京をはじめ他の地域で指摘をされていた事件等が(選挙期間中)報じられ続けた」と述べた。公選法違反をめぐり菅原前経産相が再び東京地検特捜部の任意の事情聴取を受けた報道など、河井事件以外の自民党が関わる政治とカネの問題も広島での敗北の一因だったとの指摘であり、岸田氏はさらに次のように述べた。

夏祭りで有権者に現金を渡した疑いの菅原前経産相

「今回の選挙、ひとえに広島関係者が大きな責任を担わなければいけない選挙ではありますが、これをひとつの広島の地域事情であったと矮小化してしまっては、私たちは大変大きな間違いを犯すのではないか、こんなことも感じました。なぜならば、我々はこれから衆院選に備えなければなりません。全国で選挙を戦う中で、この政治とカネの問題、あるいは自民党の体質といった問題、これは全国共通の課題としてしっかりと受け止めなければいけない課題なのではと思っています」

岸田氏が強調した自民党の体質改革への意欲

このように政治とカネの問題に関し「自民党の体質」という言葉で問題点を指摘した岸田氏は、こうした自民党の体質が、今年の秋までに予定される衆議院選挙の敗因にもなりかねないとし、次のように岸田派が体質改革の先頭に立つという目標を掲げた。

「政治とカネの問題、自民党の体質の問題ついて、この厳しい選挙において真正面で立ち向かった我々宏池会こそが、こうした問題について自民党内で発言をしていかなければいけないのではないか。菅内閣のもとで選挙を戦う、そして自民党がその選挙を勝ち抜くためにも、我々宏池会、自民党がどうあるべきか、発言していく、提言をしてく、これは大事なスタンスなのではないか」

「自民党の再生だ」派内には歓迎ムードも

このように語気を強めて目標を打ち出したことについて岸田氏は、会合の終了後、報道陣に対して、次のように説明した。

「自民党がこれからも発展していくことを考えるならば、国民の気持ちに寄り添わずして発展していくことは難しい。今一度どうあるべきなのか原点に還って考えていく、時間はありませんが、そこから考えていかないと自民党に対するイメージは変わらないんではないか」

岸田氏のこうした思いに対して派内からは「自民党の再生だ、いい響きじゃないか」(派閥若手)などと歓迎する声が聞かれた。

岸田氏の“再生”発言の裏で派内から漏れる党執行部への恨み節

ただ、「再生」とは確かに言葉の響きは良いかもしれないが、事はそう穏やかではない。なぜならば、「自民党の体質」と岸田氏が表現したものは、例えば河井事件で言えば、事件の発端となった選挙で河井案里氏を支援したのは菅首相であり二階幹事長だ。

菅原前経産相も菅首相側近のひとりとされる人物だ。岸田氏が指摘した自民党の体質の影には執行部の存在が見え隠れしている。つまり、自民党の再生を目指すとは、自民党“執行部”の再生を目指すとも受け取れ、そうした内容を「ポスト菅」候補と言われる岸田氏が発言したということは、菅―二階体制に対する挑戦ともとれる面がある。

現にこの日の派閥会合では、出席者から「総理はじめ(政治とカネの問題の)責任者は別にいるのに我々がケツを拭いた。それにも関わらず、いまの自民党内では広島の苦難について全く対岸の火事で、全体で反省しなければいけないのに全く反省できていない」と党執行部への恨み節が噴出していた。

しかし、岸田氏は報道陣に対して「決して(執行部に対する)批判ではありません。現執行部の中で最大限どうあるべきなのか努力をしていく、これがまず大事だと思います」と、あくまで菅首相率いる自民党の一員として、党に貢献していくための発言だと強調した。実際、先に引用した岸田氏の派閥会合の発言でも「菅内閣のもとで選挙を戦う」と明言するなど、まずは現執行部の体制の中で改革を目指すものだと説明している。

「ポスト菅」の正念場!?言うは易し行うは難しの現実

一方、岸田氏の掲げたこの自民党再生論について派内からはこんな声も聞かれた。

「地元の選挙で負けたんだから岸田さんにだって当然責任はあるわけで、だからと言ってもう自分には(菅首相と)戦う資格はありませんって自ら白旗あげちゃったら、それこそ試合終了でしょ」(派閥ベテラン)

岸田氏の発言は「ポスト菅」としての“攻めの一手”ではなく、むしろ自らの求心力低下を防ぐための“守りの一手”だとの指摘だ。さらに、「党の体質だなんて冗談じゃない。河井も菅原も全部個人の問題だろ」(派閥関係者)と激しく否定する声も挙がり、同じ派内でも受け止めは様々なようだ。

岸田氏は記者団からの「本当に自民党を変えていけるのか?」との問いかけに、「努力する姿勢こそが大事」と述べていて、“隗より始めよ”の精神で動きはじめた形だ。自民党にとってこれが一瞬の出来事で終わるのか、あるいは大きな変革の兆しとなるのかは、何人がこの理念に共感し、岸田氏の後に続くのかで決まるとも言えよう。岸田氏にとってはまさに「ポスト菅」への正念場が続く

(フジテレビ政治部 福井慶仁)