「好意」と「恐怖」で支配 まるでスパイ小説の世界

「とても勉強熱心でこちらの研究に興味を持ってくれたので嬉しかった」「機密情報を渡した際に、これが最初で最後だと伝えると、急に私の家族の話をしだした。家族に危害が及ぶかもと怖くなった」

これは、過去に起きた産業スパイ事件で、ある企業の社員が、勤務先の機密情報を外国のスパイに漏洩したとして逮捕された際に、捜査関係者へ語った内容だ。最初はターゲットに好かれるような振る舞いを続け、相手が拒否感を示した途端に、恐怖で支配しようとする。

スパイは「好意」と「恐怖」で社員を支配し、企業の機密情報を持ち出すという(画像はイメージ)
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なんとも小説のようなスパイの手口だが、日本国内で外国のスパイがいまも活動を続けているのは確かなようだ。ちなみにこの事件で情報を得ていたスパイは逮捕されることなく帰国してしまった。

警視庁公安部が”スパイの手口”を企業に直伝

さて、こうした外国によるスパイ活動に目を光らせてきたのが警視庁の「公安部」と呼ばれる組織だ。そして今月から、この公安部がこれまで経験してきた“スパイの手口”、を企業や大学などに直伝するという何とも大胆な取り組みが始まった。

企業や大学などからの技術情報の流出については、政府も経済的な側面から国の安心や安全に関わる問題だとして、いわゆる軍事的な脅威に対する安全保障と区別して、“経済安全保障”という言葉で警鐘を鳴らし、法制化を進めているところだ。

警視庁は、12月1日、経済安全保障戦略会議を開いた(警視庁提供)

こうした中、12月1日、宮沢忠孝警視庁公安部長は、警視庁本部で開催された経済安全保障戦略会議の席で、都内97カ所の警察署から集まった代表者を前に、一部の国は、日本の重要技術を入手するために「合法・非合法を問わずあらゆる手段を駆使している」と指摘。

その上で、「積極的な広報活動や啓発活動によって、企業や大学・研究機関において、経済安全保障についての意識を高めていく必要がある」と強調した。そして、そのための具体的な取り組みとして以下の3点を掲げた。

宮沢忠孝公安部長は「(外国のスパイは)合法・非合法を問わずあらゆる手段を駆使している」と訴えた

➀重要技術を保有する企業などの選定 ②外国の動向や過去の実例検挙事例、サイバーインテリジェンスの手法等の紹介 ③個別の相談 まずは、外国のスパイから狙われる可能性がある企業をピックアップ。

その上で、当該企業を訪問してスパイによる被害の実例やその防止策を伝授する。加えて、企業側からも生の声を聞き情報交換の場としていくという試みだ。しかも公安部は、すでに、およそ2000の企業を選定し、全警察署と連携しての企業訪問を順次開始しているという。

企業側からは「驚き」と「困惑」の声が

さて、実は公安部では、今回スタートした訪問活動の先行的な位置付けとして、21年3月に経済安全保障のプロジェクトチームを立ち上げて、半導体など世界中が注目する技術を扱う企業などを中心におよそ50社を訪問している。

企業側からは「驚き」と「困惑」の声が聞かれるという(画像は警視庁本部)

そしてその際に、“スパイの手口”を伝えられた企業側からは「サイバー攻撃についての危機意識はあったが、スパイといった人的な行為については初めて耳にした」といった驚きの声が聞かれたという。

その一方で、既に外国企業と合併していたり、外国人の従業員を雇っている企業からは、現実的な対応がどこまでできるのか「悩ましい」との声も聞こえたそうだ。果たして警視庁の“虎の巻”は、どこまで日本企業を守ることができるのか。注目していきたい。

(フジテレビ社会部・警視庁担当 福井慶仁)