パリオリンピックのチケットが、オリンピック史上、最も売れている。新型コロナのパンデミックが終わり、2大会ぶりに現地での観戦が可能になった上、観光名所をそのまま会場に変えてしまうという大胆な計画が、功を奏したのだろう。

ただ、チケット代が、赤ちゃんでも大人と同じ値段であることに、市民からは困惑の声が上がっている。また、大会のスローガンが「広く開かれた大会」にも関わらず、組織委員会は4歳未満の子どもは競技会場に連れてこないよう案内していることにも、賛否が分かれている。

オリンピック史上 チケットが一番売れているパリ五輪

オリンピックでは、7月26日から8月11日までの2週間あまりの間に、32競技329種目が実施される。

フランス革命の舞台となったコンコルド広場やエッフェル塔などパリ市内の観光名所のほか、南太平洋に浮かぶフランス領の島・タヒチも含め、会場は37カ所にのぼる。

ビーチバレーが行われるエッフェル塔競技場
ビーチバレーが行われるエッフェル塔競技場
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大会組織委員会は、オリンピックのチケット販売数は既に870万枚にのぼったと明らかにした。これまでの最多記録であった1996年のアトランタ大会の830万枚を上回り、オリンピック史上最多だ。

チケットは15ユーロとお手頃なものから、2700ユーロと高額なものまで幅広く揃っていて、様々な価格帯を用意したことや、観光名所をそのまま会場に変えてしまうといった大胆な発想が、史上最多の販売数をたたき出したのだろう。

アーバンスポーツのコンコルド広場
アーバンスポーツのコンコルド広場

組織委は1000万枚の販売を目標に掲げていて、エスタンゲ会長は「すでに記録を更新したことは誇らしいが、まだまだ上を目指せる」とさらなるチケット販売に自信を見せている。

組織委が大会のスローガンに掲げた「広く開かれた大会」の実現に、着々と近づいているようだ。

「広く開かれた大会」 一方で新生児からも “最大限の利益を追求“!?

ただ、チケットをめぐる子どもの扱いについては、誰にでも広く開かれた大会とは言えないのではないかという疑問の声も上がっている。

両親2人が1歳の赤ちゃんを抱っこして観戦に行くケースを想定して、街ゆく人に、チケットは何枚必要だと思うかを尋ねてみた。

観戦のため来仏した8歳と12歳の子を持つモロッコ人:
子どもたちにとっては、雰囲気を味わったり、思い出を作るいい機会にもなります。いい思い出がたくさんあれば、将来、スポーツをやってみたいと思うでしょう。子どもたちにはこのような体験は、無料で提供すべきですよね。

ベルサイユ市民(52歳):
12歳か13歳から有料なのは分かりますが、普通はそれより幼い子どもは特別料金ですよね。赤ちゃんは無料であってほしいわ。

誰もが赤ちゃんは無料だろう、と答えたのだが、現実は違う。
競技場で観戦するには、抱っこひもで抱えた赤ちゃんであろうが、未就学児であろうが、大人と同じ料金を払い、チケットを1枚購入する必要があるのだ。

競技場の座席は乳幼児も大人料金
競技場の座席は乳幼児も大人料金

2021年の東京オリンピックの際は、子どもの扱いは異なっていた。
新型コロナの影響で観客が入ることは叶わなかったものの、当初、2歳未満の幼児は、席を必要としない場合、無料だった(1年延期したことで、3歳未満に変更された)。

フランスは乳幼児にとても優しい国だと感じることが多いだけに、私は今回の組織委の決定には少し驚いた。街ゆく人からも、疑問の声が聞かれた。

5歳の孫を持つパリ市民(60歳):
飛行機でも、1歳の子どもは無料ですよ。オリンピックは大きな祭典だけど、結局は最大限の利益を追求するんですよね。

パリに住む赤ちゃんの父親(31歳):
1歳児は、それほど場所も取らないのに。子どもたちをオリンピック会場に連れていきたいと思っているすべての親にとって、本当に残念なことですよね。

4歳未満の子連れ観戦は遠慮すべき? 組織委は「お勧めしません」

そもそも、組織委は、4歳未満の子どもを会場に連れてくることを推奨していない。

その理由として、公共スペースが狭いことや、スタジアム内での騒音、暑さなど、スポーツ会場での特殊な環境が、幼い子どもたちの健康にはあまり適さないことをあげている。

ハンドボールが行われるパリ南アリーナ
ハンドボールが行われるパリ南アリーナ

これについては、納得の意見もある一方、落胆の声もあがっていた。

フランス南東部出身(35歳):
小さな子どもに勧めないのは理解できます。去年、花火大会に行った時、子どもも連れて行ったのですが、大変な混雑で恐ろしかったです。日本では物事がしっかりと組織されていて、人々もそれに従うので「行っても大丈夫」と言えますが、フランスでは制限した方がいいと思います。

スペインから来た4人の子どもの父親(45):
私は子どもとどこに行くにも一緒ですし、暑さの問題でしたら、帽子や傘、日焼け止めなど自分で用意しますし、問題ではないですよ。「広く開かれた大会」と言っているのに、子どもたちを連れていくのを後押ししてくれないのなら、それはオープンではないですよね。

自国からメダリストが誕生する瞬間を、子どもに経験させてあげたいという親の気持ちも分かるが、スポーツ観戦という、誰もが熱狂的になる場では、仕方のないことなのかもしれない。

子どもが楽しめるスペースも!

ただ、朗報もある。パリ市は、子どもでも無料で楽しめるイベントを多く用意している。

市庁舎では、巨大なスクリーンが用意され、みんなで観戦することができる上、道場やクライミングウォールなども設置され、子どもたちもスポーツを経験することができる。
競技会場とはまた違う、オリンピックの楽しみ方がありそうだ。

世界中からトップアスリートがパリに集まる機会だけに、子どもも大人も存分に楽しめる祭典になってほしい。
【執筆:FNNパリ支局・森元愛(関西テレビ)】

森元愛
森元愛

疑問に感じたことはとことん掘り下げる。それで分かったことはみんなに共有したい。現場の空気感をありのまま飾らずに伝えていきます!
大阪生まれ、兵庫育ち。大学で上京するも、地元が好きで関西テレビに入社。情報番組ADを担当し、報道記者に。大阪府警記者クラブ、大阪司法記者クラブ、調査報道担当を経てFNNパリ特派員。