このゴールデンウィークに帰省や旅行など長距離の移動をする方も多いかと思うが、安くて熟睡間違いなしと言われる夜行バスが話題となっている。
Mr.サンデーでは、日本初を目指した10年に及ぶ開発物語を取材した。
「フルフラットは許可が出ない」が常識
あなたは、自分のいる「業界の常識」を 疑ったことがあるだろうか?
例えば、深夜の高速を走る「夜行バス」。その業界にも、こんな暗黙のタブーがあったという。

高知駅前観光・梅原章利社長(51):
まずですね、リクライニング角度をフラットまで倒すというようなことは、業界としては認められないのではないかっていう暗黙の了解みたいなのがあった。

そう語るのは、高知のバス運行会社の社長。ところが、その父親は、そんな暗黙の了解などどこ吹く風だった。
高知駅前観光・梅原國利会長(76):(再現)
おい、これどうだ!このイスが…ぐるっと回って 二段のフルフラットシートになるんだよ!
高知駅前観光・梅原章利社長:(再現)
えぇ?
知り合いの会社を訪ねては…
高知駅前観光・梅原國利会長:(再現)
これの模型を作ってほしいんだ…
「サーマル工房」谷村貴一代表:(再現)
はあ?
谷村さんは、その時の梅原会長の印象をこう語る。
「サーマル工房」谷村貴一代表:
会長はもう壁に当たったことに気づかないような イノシシのような人なので…
ついには、国交省の役人を動かした。
会長:(再現)
と、いうことは…?
役人:(再現)
ま、ダメとは言えません。
こうして開けた業界の風穴。それが、日本の夜を変えた!

高知駅前で新しい夜行バスでの旅路を終えた人に話を聞いてみると…
客1:
寝られるっていうところが良いですね。楽は楽でした。
客2:
飛行機もいっぱいで乗ってみたかったんで。こんなに寝られたことはないですよね。
なかなか眠れないという人も多い夜行バスでグッスリ眠れたようだ。
その夜行バスの中を見せてもらうと…

Mr.サンデー取材班:
すごい。(フルフラットシートが)3列分並んでいるような形になっています。
並んでいたのは、延々と続く二段ベッドのようなシート。

一見、寝台列車に似たもののようにも思えるが その開発には血の滲むような10年の月日があったという。
開発したのは、四国のバス運行会社「高知駅前観光」 。

もちろん、通常は夜行バスなどを運行する会社だが、そこにはナゼか町工場のような一画が…
高知駅前観光・梅原章利社長(51):
ここはですね、会長が「ソメイユプロフォン」のいろいろ な試作などを行ってきた個人の作業場です。

「ソメイユプロフォン」とは、あの寝台列車にあるようなシートのこと…
社長の父である梅原國利会長(76)は、この工房で、その原型をコツコツ手作りしてきたと言うが 、今は、若い者に任せたので取材は断るという。

そんな頑固一徹な会長が、 あの革命的シートを思いついたのは、およそ10年前のことだった。
「フルフラットは料金が高すぎる」が常識
高知駅前観光・梅原章利社長(51):
お客さんの快適性を追求するために、リクライニング 角度の調整をどこまで倒したらいいんだろうか。倒しすぎるとどうしても1席が占める面積が大きくなるので総座席が減ってしまう。
バスの座席設計は、快適さと運賃のトレードオフだ。

深くリクライニングできるようにすれば快適だが席数が取れず、その分、料金は上がってしまう。

かと言って、安くするため席数を確保すれば、今度は深くリクライニングできずに快適性は失われてしまう。
そんな正解のないバランスを、親子で探っていたという。
会長(76):(再現)
ひらめいた!この上の部分、ここにシートがくればいいんだよ!

梅原章利社長(51):(再現)
上…ですか?
会長(76):(再現)
そう、ここ、無駄に空いてるだろ!
梅原章利社長(51):(再現)
はあ…
会長自ら思いついたアイデアを形に
その時は、父親が何を言ってるのか分からなかったが、その数日後のことだった。
会長:(再現)
おい、できた、できた!
梅原章利社長(51):(再現)
なんです、朝から…
そう言って持ってきたのは、手作りらしき模型だった。

会長:(再現)
このイスが…ぐるっと回って 二段のフルフラットシートになるんだよ!

梅原章利社長:(再現)
えぇ???
その時の実際の模型を見せてもらうと…
Mr.サンデー取材班:
これ、実際に動くんですか?

梅原章利社長:
動きますね。ちょっとこういう形で、もともと前後2席のシートが、リクライニングをして上がっていくことで、上下2段のフルフラットになりますよっていう模型です。

そう、驚いたコトに会長が思いついたのは前後2組のシートがトランスフォームし、上下2段のフルフラットシートになるというもの。

梅原章利社長:
これが瞬間的に頭の中に降りてくるって、どういう構造なんだろうってなってびっくりしました。

だが、同時に経営者として「これが実現すれば夜行バスに革命が起こる」とも感じたという
梅原章利社長:
フルフラットの状態で2段にしなかった場合は、 最大詰めても12席しか置けないんです。となってくると、高速バスの運賃を通常の3倍ぐらいはもらわないとペイできないと。
ところが、この2段式シートなら…
梅原章利社長:
最大うちは24席できます。とすると、そこまで多くの増額がなくてもフルフラットシートが体験できる。

だが、そこで立ちはだかったのが、あのフルフラットシートは国交省が許可しないはずという「業界の常識」だった。
梅原章利社長(51):
そもそもリクライニングを180度にすること自体が(国交省に)ダメって言われたら。本当にそうなのか聞いてみようって純粋に思いました。
ラジコン仲間に正式な模型製作を依頼
ところが、そんな息子の心配をよそに、会長は…
会長:(再現)
ああ、谷村さん?久しぶり!ほら、昔のラジコン仲間の梅原です!
電話の相手は、かつて趣味のラジコン仲間だった谷村正樹さん(70)率いる「サーマル工房」。

そこは、ラジコン業界では知る人ぞ知る「カスタムラジコンの名店」であり、今ではJAXAからの発注もこなす、とんでもない技術の殿堂だった。
そこへ、あの模型を持っていくと…
会長:(再現)
これを、図面に起こして、ちゃんと動く模型を作ってほしいんだ。

「サーマル工房」創業者・谷村正樹さん(70):(再現)
また、すごいもん考えたな…でもまあ、こいつ(息子)ならコンピュターで図面も引けるし、まあ、出来るだろ?
「サーマル工房」谷村貴一代表(40):(再現)
えっ、俺?
こんな時、とばっちりを受けるのは、こちらも息子だ。
「サーマル工房」谷村貴一代表:
誰もやったことがなく、法的にも難しいと言われているものにチャレンジしていくというのは相当な不安はあったんですけど。

その不安通り、実際に図面に起こし、模型を作ってみると無茶なことが多すぎた。
だが、そんな苦労もお構いなしに会長は、毎日のようにやってきては、新しいアイデアを浴びせてくる。
「サーマル工房」谷村貴一代表:
会長はもう壁に当たったことに気づかないようなイノシシのような人なので。そのままドワって走っていくんで、ぶつかっても空回りしてるような感じですね。
国交省の許可を勝ち取る秘策
こうして、模型作りの四苦八苦が続く中、息子である社長は、ある勝負に出ようとしていた。
梅原章利社長:(再現)
ふぅ〜っ…
気持ちを落ち着かせるため深呼吸して電話をかけ始める。
役人:(再現)
はい、国交省です…

フルフラットシートでも大丈夫という言葉を国交省から勝ち取る算段をしていたのだ。
梅原章利社長:(再現)
実は、ちょっとご確認したいことがございまして…
社長には、ある勝算があった。
それは、決して「フルフラットでもいいか?」とは聞かないこと。
梅原章利社長:(再現)
バスのシートのリクライニング角度というのは 何度までと決まっているのでしょうか?
役人:(再現)
え〜っと、お待ちください……
梅原章利社長:(再現)
(ドックン、ドックン)
役人:(再現)
ああ、リクライニングの角度については特に決まりはないですね。

梅原章利社長:(再現)
ああ、じゃあ180度でも構わないんですね?
役人:(再現)
まあ、そういうことになりますね。
フルフラットは可能ですか?と聞けばダメだったかもしれないところを…
梅原章利社長:
シート角度を180度まで倒すと違法ですか?違法ではないですか?っていう聞き方をすると「違法ではないです」っていう回答が返ってくると(思って)
これぞ、業界の「暗黙の了解」を打ち破る奇跡の一手だった。
正式に動く模型が完成…特許も出願
そして、ついに…
会長:(再現)
出来たな、貴一くん。
「サーマル工房」谷村貴一代表:(再現)
はい、この構造なら、いけます!

模型でイメージが固まった段階で特許を出願し、どこに見せても、大手にはアイデアを盗まれないと確信すると、親子はフルフラットシートの模型を抱え上京した。
あとは、国交省で許可を貰うだけのはずだったが…
役人:(再現)
この模型だけじゃ、わからないなぁ。
梅原章利社長:
まずは、模型の最初のやつが見えてきた時に、「これだけでは分からないよね」っていうことで一回帰って、 もう少しリアルなものを作って持っていく。
それでも、また…
役人:(再現)
う〜ん…
梅原章利社長:
「良いとも悪いとも何とも言えない。模型だけ見せられても」と…
そんなことを繰り返すうち…
役人 :(再現)
実際のものを見せてくださいよ。
まさかの、実際の大きさのモノを見せろという。
大手メーカーに断られ心に火がつく…
ここまで来て、ついに大手のシートメーカーに製作を依頼に行くが…
大手シートメーカー:(再現)
いや、ウチは、こういう奇抜なものをやる会社じゃないんで…
梅原章利社長:
大きな会社の方は、やはり内容が奇抜すぎて、ちょっと相手にしてもらえなかった。

それが、余計に会長の心に火を付けた。
会長:(再現)
貴一くん、やっぱり、君に、1分の1の模型を 作って貰いたいんだ。
「サーマル工房」谷村貴一代表:(再現)
えっ!?それって実物ってことですよね?
会長:(再現)
ハッキリ言えばそうだ!でも、君なら出来る!
「サーマル工房」創業者・谷村正樹さん:(再現)
まあ、勉強になるし、やってみたら?
「サーマル工房」谷村貴一代表:(再現)
はあ、また俺?

こうして、これまで模型しか作ったことのなかった工房の若き二代目は、ついに本物のバスのシートを作ることになった。
実際にバスの構造も知らなければならないと、こんなことも始めたという。
「サーマル工房」谷村貴一代表:
古くなったバスを分解してみて、もう切ったり破壊したりしてやりました。いろいろ試しましたね。
見事に、失敗につぐ失敗を重ねることになったが…

「サーマル工房」谷村貴一代表:
そこが、やっぱりその会長と社長のそのチャレンジ精神というか、失敗しても続けていくっていう。そのまま走り続けて構わんと、大丈夫だということを言われたので、ぼくもじゃあ頑張りますと。
完成した実物はさすがに大きすぎて、国交省には運べなかったが、動画を撮り再び国交省に持ち込むと…
梅原章利社長:
もう1分の1を作ってきた以上はノーリアクションということはできなかったかもしれないので…
役人:(再現)
まあ、ダメとは言いません…現時点でダメっていう要件はないですね。
なんとも、スッキリしない答えだが、役所が「ダメ」と言えないなら「OK」ということ!
その後もいくつもの壁を越え、ついに運賃も手頃でグッスリ寝られる「革命的夜行バス」が誕生することとなった。

2025年3月…高知から東京へ、日本初のフルフラット夜行バスが走り出した。
「サーマル工房」谷村貴一代表:
あの時は我が子を送り出すんですけど、感動したし、ホッとというか。本当これからがスタート、本番だなというところはやっぱりありましたね。

26日朝、そのバスに揺られ、高知から11時間をかけ東京までやってきた乗客たちに感想を聞いてみた。
客1:
このバスに乗ったことが無かったから 一回乗ってみようみたいな感じで、(出発したら)もう着いたなみたいな。
客2:
(夜行バスは)結構「座面が倒せます」って書いてあっても、朝起きたら体がバキバキみたいな。こうやってフラットなものができるっていうのは、すごく画期的だなって、今日感じました。ぐっすり寝れたんで、楽しめそうです。
もし、あの親子が、業界の常識を疑わずハナから無理だと諦めていたら…そう思えば思うほど、新しい「何か」は、誰かの「無邪気な問いかけ」から生まれるのかもしれない。
(Mr.サンデー 4月26日放送)
