京都府向日市にそびえる一本の巨大なクスノキ。幹は両手を広げても抱えきれないほどの太さで、5階建ての建物と同じほどの高さがある。
住民たちにとっては「子供の頃からずっとあるからね。暑いから木陰で休んでいた」と語られる、まさに街のシンボルだった。
しかし2026年1月21日、この巨木に最期の時が訪れた。
老化による倒木の恐れから、所有者が伐採を決断。巨大なクレーンが設置され、作業員たちによって枝が次々と切り落とされていく。
「町からなくなるのは寂しい」「切らないでほしい」。
伐採を惜しむ声が上がる一方で、「屋根がダメになって雨が漏るようになる」と木の真下に住む人々からは別の声も。
1本の木をめぐり、街では長年意見が二分されてきた。
■全国で相次ぐ倒木被害
この問題は向日市だけではない。全国で倒木による人的被害が後を絶たない。
2024年4月には京都市東山区の参道・産寧坂で桜の木が倒れ、通行人の男性が下敷きとなり重傷を負った。
東京都世田谷区の公園では2025年9月、倒れてきた木に女性が巻き込まれてけがをしている。
国土交通省の調査では、1日あたり平均で14本の街路樹が倒れていることが明らかになっている。街中の至るところに危険な木が存在しているのだ。

■危険な木はなぜ増えているのか
樹木医の笠松滋久さんによると、道路や公園の木の多くは高度経済成長期に植えられたため、老化が進んでいることが大きな要因だという。
樹木医 笠松滋久さん:こんな限られたところに植えられて、この木は残念ながら根っこが伸びていけずにこの中だけで生きようとしている。もう行き場がなくなってしまって、ここを人が踏んだりすると、傷ができちゃう。
笠松さんの案内で訪れた公園では、子どもたちが遊ぶ遊具のすぐそばに危険な木が。
「直径で大体35センチぐらいですよね。それで中の空洞が20センチですから、ギリギリだね」と指摘します。「この木が倒れれば、遊具側に向かって倒れる危険性がある」という。
異常気象の影響も見逃せない。近年の台風の大型化や集中豪雨の増加により、従来なら耐えられた風雨でも木が倒れるリスクが高まっている。

■テクノロジーで木を守る
国や自治体も対応を急いでいるが、木を診断する専門家が不足しているため、対応が後手に回っているのが実情だ。
こうした課題を解決するために開発されたのが、樹木診断システム「treeAI」だ。
三井住友建設の多胡昇さんは「樹木の管理者である自治体とか、国とか、管理に困っていると。テクノロジーを通して解決できないかということで、検討を始めたのがきっかけ」と説明する。
このシステムは木の写真をアップロードすると、AIが樹皮や枝の状態などを即座に診断。異常を知らせてくれる仕組みだ。
専門家の手を借りず、多くの木を短い時間で診断できることから、全国の自治体などから問い合わせが相次いでいるという。
「危ないから切ってしまうだけで、健康な木もどんどん切ってしまうというふうになると、人と緑のバランスが崩れてしまう」と多胡さん。「しっかりと木を残したまま、維持管理ができるような、持続可能な世界にしていくところに少しでも寄与できるように」と話す。

■木を切るべきか残すべきか
向日市の巨大クスノキをめぐる議論は、日本各地で起きている縮図とも言える。
この木とともに育ってきた地域住民は「あって当たり前みたいな感じ。なくなることを考えると寂しい」、「残念でなりませんね。木と共生できる方法はないのか」と伐採を惜しむ。
一方、木の真下に住む住民は「色んなものが降ってくる。小さな砂粒などが屋根いっぱいたまって、屋根がダメになって、雨が漏るように」と生活への影響を訴える。
興味深いのは、過去にもこの木の伐採が試みられたことがあるという話だ。
木の真下に住む人:60年ぐらい前に、『木を切ろう』という話が出た。職人が伐採しようとしたが、けがをした、立て続けに。切るのをやめた。
この話から、木には何か特別なものが宿っているのではないかと考える住民もいたという。そうした思いも、伐採に反対してきた理由の一つだった。
賛成派と反対派の折り合いがつかないまま、ついには議会をも巻き込む問題に発展。話し合いの末、「伐採は避けられない」という判断に至った。

■街のシンボルに「ありがとう」と送る住民たち
1週間かけて行われる伐採作業。最終的には根本から1メートルほどを残すということだ。
木が切られていく様子を見守る住民からは「ありがとう。すごく頑張った」、「今まで見守ってくれて、ありがとうございました」と声が上がった。
「クスノキさんも見守られて、みんなの想いに、胸の中に残るんじゃないかな」と別れを惜しむ声も。

■もし倒木事故が起きたら誰が責任を持つ?
もし倒木事故が起きた場合、責任は誰にあるのだろうか。
番組コメンテーターの西脇さんは「法律上は自治体とか国が管理してる場合には、国家賠償法という法律があって、その国とか自治体。民間が管理してる場合には、その人について民法上の責任が発生してしまう」と説明する。
「万が一人に危害が加えられてしまうと、重い責任があるので事前に何とか対応をとろうということになる。同時にまだ生きている、元気な木については残してあげたい」と西脇さん。
鈴木哲夫さんは「樹木とか街路樹は町に絶対にないといけない」と強調する。
「街路樹は単に景色とか例えば象徴だけじゃなくて、環境政策でもある。空気浄化であったり、温暖化に対してとか」と指摘し、「これは立派な行政の仕事だと思う。お金とか人手がないというけど、かけてでも僕は守るべきだし、危ないものは伐採しそしてまた植えるとか。そういうふうにやりながら、お金かけて僕は守っていくべきだと思います」と語った。

■転換期を迎える街の緑
街を彩る緑。それは私たちの心を癒し、環境を守る大切な存在だ。一方で倒木による人的被害のリスクも無視できない。
老木をどう扱うか、街の木をどう守るか、今、日本は大きな転換期を迎えている。
高度経済成長期に植えられた多くの木々が老化し、メンテナンスや更新が必要な時期を迎えている。
テクノロジーの力を借りつつ、安全性と緑の共存を図る取り組みが、今後ますます重要になるだろう。
(関西テレビ「newsランナー」2026年1月21日放送)

