ラノベ、マンガなどはいいの?

読書の効果の話をすると、よく質問されるのが「ライトノベル、マンガ、映画、アニメはどうなのか?」ということです。

そういうときには私は、国際学力調査において、日本ではマンガは読まないよりも読んだほうが読解力の結果がよかったこと(※8)や、2025年に明治学院大学の垣花真一郎さんが発表した論文で、マンガの読書経験が多い人ほどあまり目にすることのない難しい漢字の読みの成績がよかったこと(※9)などを引き合いに出しつつ、「文字の本かマンガかといった『分類』は本質ではなく、実際にどんな内容のものなのか、読み手がどういった人なのか、といったことが本質です」と答えるようにしています。

共感力の話でいえば、まだ共感する力が十分でない児童であれば、内容が簡単で、人間関係が複雑でないものでもよいでしょう。子ども向けアニメや、勧善懲悪のわかりやすいマンガにも、いじめられれば悲しい、助けてもらえれば嬉しい、といった、世界や人間心理に照らして妥当な内容が含まれているはずだからです。

しかし、成長してくると、現実世界では善も悪もそう簡単に割り切れないことがわかってきます。そんな読み手には、複雑な立場や人間関係が描かれた作品でなければ、共感力が高まらないというのはわかってもらえるはずです。

この点では、優れた映画作品などが共感力を高める効果を持つことも多いでしょう。

「物語『読書』と物語『視聴』を比較すると、読書のほうが共感力を高める効果が大きい」という研究知見を紹介しましたね。

これとて、本当は「作品と、読み手・視聴者によって違う」のですが、あえて「読書」と「映画」の違いを考えるならば、さきほどの「トレーニング」説があるでしょう。

映画は、役者が優れていればいるほど、その心情がダイレクトにわかるものです。

一方、読書では「文字」から登場人物の心情を想像しなくてはなりません。映画視聴よりも読書のほうが「他者の気持ちを知る力を発揮する」ための脳領域を使う程度が(平均的には)大きい、ということはありうる話だと思います。

『科学的根拠(エビデンス)が教える 子どもの「すごい読書」』(日経BP)

猪原敬介
教育心理学・認知科学者。著書に『読書効果の科学 読書の“ 穏やかな” 力を活かす3原則』『読書と言語能力 言葉の「用法」がもたらす学習効果』(いずれも京都大学学術出版会)などがある。

(※1)
Adams Jr, R. B. et al.(2010). Cross-cultural reading the mind in the eyes: an fMRI investigation. Journal of Cognitive Neuroscience, 22, 97-108.

(※2)
Baron-Cohen, S., Wheelwright, S., Hill, J., Raste, Y., & Plumb, I.(2001). The “Reading the Mind in the Eyes” Test revised version: a study with normal adults, and adults with Asperger syndrome or high-functioning autism. The Journal of Child Psychology and Psychiatry and Allied Disciplines, 42, 241-251.

(※3)
Kidd, D. C., & Castano, E.(2013). Reading literary fiction improves theory of mind.
Science, 342, 377-380.

(※4)
Mar, R. A.(2011). The neural bases of social cognition and story comprehension. Annual Review of Psychology, 62, 103-134.

(※5)
Mar, R.(2018). Evaluating whether stories can promote social cognition: Introducing the Social Processes and Content Entrained by Narrative(SPaCEN)framework. Discourse Processes, 55, 454-479.

(※6)
国立教育政策研究所.(2010). 生きるための知識と技能4 OECD生徒の学習到達度調査(PISA) 2009年調査国際結果報告書. 明石書店.

(※7)
Kakihana, S.(in press). The Roles of Okurigana and Lexical Context in Reading Kanji Words with Kun-Reading and Their Relationship to Reading Amount. Japanese Psychological Research. https://doi.org/10.1111/jpr.12596

(※8)
Wimmer, L., Currie, G., Friend, S., Wittwer, J., & Ferguson, H. J.(2024). Cognitive effects and correlates of reading fiction: Two preregistered multilevel metaanalyses. Journal of Experimental Psychology: General, 153, 1464-1488.

猪原敬介
猪原敬介

教育心理学・認知科学者。北里大学一般教育部専任講師。京都大学大学院教育学研究科修了。博士(教育学)。専門は教育心理学・認知科学。研究・教育の傍ら、エビデンスに基づいて子育て・教育・自分時間を考えたい人のために、読書・ことば・学びの研究知見をわかりやすく発信する活動も行う。著書に『読書効果の科学 読書の“ 穏やかな” 力を活かす3原則』『読書と言語能力 言葉の「用法」がもたらす学習効果』(いずれも京都大学学術出版会)などがある。一児の父。