この結果を疑問視する論争も起こりましたが、行われた膨大な研究を再分析して、より堅実な結論を出す「メタ分析」が行われた結果(※5)、次のようなことがいえるとわかりました。
・キッドらの実験のような「物語の読書が共感力を高める」効果は、実在する
・「物語」と「説明文」を比較すると、物語を読むほうが共感力を高める効果が大きい
・ 物語「読書」と物語「視聴」を比較すると、読書のほうが共感力を高める効果が大きい
・ただし物語読書が共感力を高める効果はそれほど大きいとはいえず、読書習慣との関係の強さは、「言語>知能>共感」であった
なぜ、物語読書が共感力を高める?
物語を読むことで、なぜ共感力が高まるのでしょうか。
すでに紹介したカナダのマーさんらの研究グループは、この疑問についていくつかの仮説を提案しています。
まず、脳科学的観点から、「物語の読解」で使用される脳領域と、「目から心を読む」テストを含む複数テストで「他者の気持ちを知る力を発揮する」際に利用される脳領域が重複していることを示しています(※6)。
つまり、物語を頻繁に読み、しかも、文学作品のように読解にある程度の負荷のかかるものであった場合には、その脳領域が「トレーニング」されるために、「他者の気持ちを知る力」が高まると考えられるわけです。
また、「人間の心はこういうものだ」「人の中には、こんな考え方をする人もいる」といった、「人間心理についての知識獲得」によっても「他者の気持ちを知る力」が高まると考えられています(※7)。
そのため、その物語が適切に世界や人間心理を反映させたものであることが、「他者の気持ちを知る力」を高めるための条件となります。
いくら物語であっても、実際の世界や人間心理からあまりにもかけ離れたものを読んでいては、共感力を高めるという観点からは効果がありません。そういった内容の物語ばかり読んでいると、少なくとも短期的にはマイナスの効果さえあると考えられます。
