世界が憧れたのは、王冠そのものよりもエリザベス女王を中心に結束して見えた「家族」の物語だった。しかし、いまやその家族の問題がイギリス王室を揺らしている。

イギリス王室を長年取材してきた作家ロバート・ハードマン氏
イギリス王室を長年取材してきた作家ロバート・ハードマン氏
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アンドルー問題の再燃はあるのか、王室称号のブランド利用を続けるヘンリー王子夫妻から称号を剥奪することはあるのか――。イギリス王室を長年取材してきた作家ロバート・ハードマン氏に聞いた。

アンドルー問題“再燃の火種”

チャールズ国王の弟・アンドルー氏は、アメリカの富豪エプスタイン氏から未成年の女性を紹介され、性的虐待をした疑いが持たれている。アンドルー氏は一貫して否認しているが、国王は処分が必要と判断し、王子の称号などを剥奪した。

王子の称号を剥奪されたチャールズ国王の弟・アンドルー氏
王子の称号を剥奪されたチャールズ国王の弟・アンドルー氏

しかし、アメリカでの訴えなどを背景に、王室にとっての不安材料がくすぶり続けている。ハードマン氏は、もし将来、証言などが法的に強制される局面が生じれば、国王がそれを止めることはできないと指摘する。そして今、そのアンドルー氏が暴露本を出す可能性が取り沙汰されている。

暴露本なら52億円…王室の本音は

現地メディアは「アンドルー氏は自分が捨てられたことに憤慨し、自分の言い分を通すためだけに、エプスタインとの関わりについて大まかに語る用意があるかもしれない」と指摘。また、出版社幹部の話としてアンドルー氏が暴露本を執筆した場合は、2500万ポンド(約52億円)の報酬が見込まれると報じたのだ。出版の可能性について、ハードマン氏はどう見るのか。

FNNの取材に応じるロバート・ハードマン氏
FNNの取材に応じるロバート・ハードマン氏

ハードマン氏
もし回顧録を出版するなら凄いことです。しかし、出版するとはあまり思えません。なぜなら、彼は生活費を国王に頼っているからです。王室の敷地内にある王室の邸宅に住んでいます。もし本を出版するなら、彼の生活は非常に悪化するでしょう。王室が彼に望んでいるのは、ただ姿を消すことであり、それがおそらく彼が王室にできる最大の貢献でしょう。

復帰の鍵は兄―埋まらぬ溝

暴露本が家族に何をもたらすのか。その“実例”がヘンリー王子の回顧録『Spare』だ。ハードマン氏は、復帰の鍵となる二つの関係――父チャールズ国王と、兄ウィリアム皇太子――のうち、「より難しいのは兄の方」だと見ている。

ヘンリー王子夫妻とウィリアム皇太子夫妻(2018年)
ヘンリー王子夫妻とウィリアム皇太子夫妻(2018年)

ハードマン氏
問題は“何を書いたか”ではなく、“書いたこと”そのものです。兄弟の幼少期の親密な記憶を公にした。プライバシーを固く守るウィリアムにとって、それは非常に傷つくことでした。少なくとも現時点の王室公務への完全な復帰はありません。あまりにも多くのことが語られすぎています。一方で、アンドルー氏とヘンリー王子が公務を離れてから王室メンバーの少数化は待ったなしです。これは、次世代であるウィリアム皇太子夫妻とその子供たちに大きなプレッシャーをかけています。

Netflixと「称号ビジネス」許される境界は

一方、メーガン妃とのNetflix展開をめぐっては、「王室の商業利用ではないか」という批判が根強い。ハードマン氏は、番組を作ること自体は問題ではない。また、彼らが自分たちの稼ぎで生活する限り、イギリスの納税者負担にはならないから、イギリス国民は一定程度受け入れるだろうと見解を示した。その上で、要は“王室性の利用”がどこまで許されるか、その線引きだと語った。

(Courtesy of Prince Harry and Meghan, The Duke and Duchess of Sussex)
(Courtesy of Prince Harry and Meghan, The Duke and Duchess of Sussex)

ハードマン氏
人々がヘンリー・メーガンに興味を持つのは、明らかに彼らが王室の一員だからであり、他の理由ではありません。2人はそれを知っています。ですから、慎重に商売しなければなりません。王室には商売できるものとできないものを規定する一定の規則があり、彼らが持っていたsussexroyal.comというウェブサイトはダメだと言われたのです。

夫妻の称号剥奪「可能性は…」

イギリスではNetflixを含む商業展開をきっかけに「称号を維持させるべきか」という議論が再燃している。ヘンリー夫妻から称号剥奪する可能性を問うと、ハードマン氏は「アンドルー氏のケースは極めて例外的」としたうえで、ヘンリー夫妻が同列に扱われることはない、との見方を示した。

(Courtesy of Prince Harry and Meghan, The Duke and Duchess of Sussex)
(Courtesy of Prince Harry and Meghan, The Duke and Duchess of Sussex)

ハードマン氏
称号剥奪は本質的に攻撃的な措置です。アンドルー王子のケースは極めて例外的でした。公爵位の剥奪なら前例もあり得ますが、彼は“王子として生まれた”人物で、その『王子』の称号にまで手を付けたのは、国王として相当に踏み込んだ判断です。実際、歴史的に最後に王子を剥奪されたのは、第一次世界大戦で敵国側に立った人物でした。アンドルー氏は裏切り者ではないにもかかわらず、結果としてそれに近い扱いを受けているとも言えます。したがって、ヘンリー王子とメーガン妃が同列に扱われることはなく、称号剥奪に至る可能性は低いでしょう。

(Courtesy of Prince Harry and Meghan, The Duke and Duchess of Sussex)
(Courtesy of Prince Harry and Meghan, The Duke and Duchess of Sussex)

ただし、条件は付く。
「彼らが実際に何か、王室全体の評判を落とすようなことをし始めない限りは…」

エリザベス女王の時代、イギリス王室は世界に「安定した家族像」を示してきた。

もっとも、その“安定”は最初から与えられていたわけではない。女王の時代にも幾度となく危機はあったが、それでも、王室は形を変えながら持ちこたえてきた、とハードマン氏は語る。揺らぎの先にあるのは、終わりではない。国王とウィリアム皇太子夫妻が、王室の信頼をどう積み直していくのかに注視したい。

(執筆:FNNロンドン支局長 髙島泰明)

髙島 泰明
髙島 泰明

FNNロンドン支局長
09年から警視庁、神奈川県警、厚生労働省、宮内庁を担当
東日本大震災では故郷・福島で放射能汚染や津波被害の取材に奔走
「めざましテレビ」から夜のニュース、選挙特番などでデスク、プロデューサーなどを経験
平昌・パリ五輪で現地取材、イット!「極ネタ!」演出も務める
愛犬家で「人と犬の幸せを育む」記事を書くことも大きなテーマ