2025年の福岡を総決算!FNNプライムオンラインで今年配信したニュースから、アクセス数の多かった人気記事をシリーズで紹介します。衝撃のニュースから心温まる話題まで読者が注目したトピックスを厳選しました。
今回は、福岡市中心部の住宅街に隣接する造船所で一般公開された進水式。街なかの造船所という珍しい立地だからこそ迫力の映像が撮影できると人気だ。工場内部の様子と進水式の舞台裏に取材班が密着した。(2025/7/4配信分に一部加筆・修正、本文中の肩書・年齢は取材時のまま)
◇ ◇ ◇
住宅に迫る巨大タンカーが撮れる
福岡市の中心部、天神から車でわずか10分ほどの場所に位置する「福岡造船」。6月14日は早朝から県内外から約1200人が集まり、長い列を作った。そのお目当ては一般公開されるタンカーの進水式だ。

今回の進水式を迎えるタンカーは全長146メートル、高さ13メートルと、石油などを運ぶ大型タンカーと比べ小ぶりだが、それでも住宅に隣接する街なかで見ると巨大な船がまるで家の真上に迫り来るような驚きの光景に映る。この景色を写真や動画におさめられるとSNSでも話題になっている。

大きなタンカーはすぐそばを走る福岡都市高速からも見ることができ、船や車が行き交う光景は福岡市の都市景観賞にも輝いている。

技術力が詰まった「福岡造船」内部
進水式の10日前。取材班はテレビメディアとして初めて、福岡造船の工場内部での撮影を許された。まず訪れたのは「ブロック」と呼ばれる船のパーツを造る「船殻工場」だ。

タンカーの製造とあって部品の1つ1つはかなり大きい。この巨大なブロックをどうやって運び出すのか。「福岡造船福岡工場」の久恒勝平さんにたずねると「工場内の屋根が開き、そこからブロックを出して船を造る台に出す」とのことだ。

工場の屋根はボタン1つで自在に開閉する仕組みになっていた。

ブロックをクレーンで運び出し、数カ月かけて100パーツほどを組み合わせると船の形ができあがる。

この工場ではこれまでに約140隻の船を製造してきたといい、造られるタンカー自体はもちろん、その鎖や錨といった部品も想像以上に大きい。

記者が驚いていると、工場の川嶋隆誠さんが「この船が動かないようにするものなので、それなりに大きい。進水式の時も注目してもらいたいが、このアンカー(錨)を進水中に海に降ろして勢いを止めます」と説明してくれた。

主力は化学薬品など運ぶタンカー
その後、製造中のタンカーの上へ移動し、船の一番高いデッキから船を見回すと目についたのが、まるで迷路のような配管の数々だ。

「ヨーロッパの船主様に造っている『ステンレスケミカルタンカー』という船になります」と川嶋さん。化学薬品などを運ぶ専用のタンカーだという。1隻あたり1万本以上もの配管が使われ、その設計には高度な技術力が求められる。

「福岡造船は50年くらい前に日本で初めてステンレスケミカルタンカーを造り、そこからコンスタントに何隻も建造していくうちに技術力や信頼を獲得することができて、今、主力として建造できている」と川嶋さんは胸を張る。

30秒の「進水式」今や“イベント”
そして迎えた進水式当日。早朝から1万9000トンの船を陸から海に滑らせるための準備が進む。「盤木(ばんぎ)」という土台を外すと、いよいよ準備完了。

進水主任の「進水準備完了!」の合図でベルが鳴り響き、レバーが倒されると、いよいよ進水開始だ。

軍艦マーチが流れ、くす玉が割れる中、巨大なタンカーが滑るように海中に進んでいった。タンカーが動き出して海に浮かぶまではわずか30秒ほど。

対岸まではわずか400メートルほど。すぐに錨を降ろして船のスピードを弱めたり、事前に準備された小さな船を使ってタンカーの向きを変えたりと、街なかの港ならではの工夫が凝らされている。

「進水方式という工場が今では多くないみたいで、珍しいイベントになっている」と川嶋さん。集まった見物客も「かっこ良かった!」「初めて見たけど、楽しくて…すごかった」と迫力満点の進水式を堪能していた。

川嶋さんは、「地域の人のおかげで街なかのこの場所で船が造れているので、一緒に見てもらい、一緒に船を造っている思いになってもらえたら」と進水式を一般公開する意義を強調した。

多くの人に見守られながら初めて海に入った福岡生まれのタンカー。これから海上でエンジンなどを整備し、秋にはヨーロッパの発注元に引き渡される予定だ。

福岡造船では年間約4隻が建造されいて、今後も進水式は一般公開する予定だという。
