それは新たなAI時代の幕開けを告げる号砲だった。2022年11月30日にオープンAIが公開した「ChatGPT」は、公開からわずか2か月で月間1億人のユーザーを獲得。
インターネット史上、最速ペースで普及したサービスとして世界を驚かせた。
それから3年あまりが過ぎた2026年1月現在、生成AIは覇権争いとも言えるフェーズに突入している。
ChatGPTで先行したオープンAIに対し、グーグルは「Gemini」で猛追。2025年11月にGemini 3が公開され、高い性能が広く知られるようになると、オープンAIのサム・アルトマンCEOは社内に「コードレッド(緊急事態)」を宣言した。
これを受け、ChatGPT陣営は約2週間後に最新版のアップデートを発表し、対抗姿勢を鮮明にした。
ChatGPT vs Geminiの争いはもはやAI開発の技術競争にとどまらず、半導体やデータセンター、電力、ロボットといった領域、さらにはそれらを支える巨額の資本といった形で、経済全体に大きな影響を及ぼしている。
この大きなうねりは、一体どこへ向かっているのだろうか。AIを取り巻く2026年の動向を展望してみたい。
グーグルによる論文から始まった皮肉
生成AIの源流をたどると、2017年にグーグルのエンジニアが連名で発表した1本の論文「Attention is all you need(注意こそがすべて)」にたどり着く。
この論文でChatGPTのTが意味する「トランスフォーマー」という概念が提示された。この論文に着想を得たオープンAIのエンジニアは独自の開発を重ね、その成果として生まれたのがChatGPTである。
グーグルがオープンAIを猛追する現在の構図は、いわば“生みの親”が“育ての親”に挑むという、テック史上の皮肉でもある。
公表されている数値を見ても、その競争の激しさがわかる。
ChatGPTは週間ユーザー数が8億人を突破したことを、2025年10月の自社イベントで明らかにした。
一方、Geminiは月間ユーザー数が6.5億人に達したと10月の決算説明会で公表している。
週間と月間で基準が異なるため単純比較はできないが、Geminiの7月時点の月間ユーザー数は4.5億人だったことから、猛烈な勢いで追い上げている事は確かである。
Gemini陣営は技術競争だけでなくマーケティングでも攻勢を強めている。
筆者が12月に取材した日本郵便とグーグルの提携企画「Geminiで年賀状」では、ある特定の場面で消費者に自社ブランドを思い出してもらう「カテゴリーエントリーポイント(CEP)」と呼ばれるマーケティングの戦略アプローチが見て取れた。
日本法人を設立してまだ間もなく人的リソースの限られるオープンAIに対し、グーグルは多様な企業コラボをはじめとした「地上戦」のマーケティングを、今後さらに強化していくとみられる。
一方、ChatGPT陣営のオープンAIはどこへ向かおうとしているのだろうか。
ChatGPT陣営の向かう先は?
その動きの一つとして挙げられるのが、「物理デバイス」開発である。
2025年5月にオープンAIはアップルでiPhoneのデザインを手がけたジョナサン・アイブ氏が率いるAIハードウェア企業「io」を買収した。その際にサム・アルトマンCEOは「初めてアップルコンピューターを使った時のような喜びを自分たちがもたらしたい」とコメントしている。
しかしオープンAIはその後デバイス開発に関する公式な情報を出しておらず、2026年の動きは未知数である。
また、オープンAIは巨額な資本を調達し、大規模なデータセンターの構築を進めている。スターゲートと呼ばれるこのプロジェクトは75兆円あまりの規模で、オープンAIにも出資をするソフトバンクグループの孫正義会長らが主導する。
2025年10月6日にオープンAIが主催したイベント「DevDay 2025」で、サム・アルトマンCEOは自社の戦略について発表した。
その発言などから分かることは、オープンAIがデータセンターを拡充し、さらなる計算資源を求めている理由が、ChatGPTの月額課金による収益拡大というよりも、AIによって人類に大きなインパクトをもたらす科学的発明を実現するためだという点である。
「AI impact on science (AIの科学へのインパクト)」というコピーと共に示されたビジョンは、AIが研究者となり自律的に科学的な発明をもたらす未来である。その結果、たとえばエネルギー効率が今の1/10や1/100となり人類全体が豊かになる、オープンAIはその実現のためのプラットフォームを提供するという考え方だ。
サム・アルトマンとAGI論争
ChatGPT vs Gemini という二つの陣営の大きな違いは、ChatGPT陣営にはサム・アルトマンという“顔の見える”リーダーの存在があり、対するGemini陣営はグーグルという巨大組織そのものが存在感を発揮していることである。
その違いは今後、AIに対する思想の伝わり方として際立ってくるかもしれない。
人間を超える汎用的な人工知能はAGIと呼ばれ、その実現時期や危険性についての議論が続いている。顔の見えるリーダーが率いる陣営は、その考え方を直接発信しやすい一方で、批判の矢面に立つリスクも抱える。
2026年はサム・アルトマン氏を中心にAGIの安全性をめぐる議論がさらに熱を帯び、私たちの生活にも無関係ではなくなってくるかもしれない。
(参考文献)『サム・アルトマン』(キーチ・へイギー著、2025)
