縦スクロール型フルカラー漫画「Webtoon(ウェブトゥーン)」。最近ではスマートフォンでWebtoonを読む人を、電車やバスでも見かけるようになった。
まだ登場して10年ほどの新しい業界。現在の市場、そしてこの先の予測はどのようなものだろうか?
スタートアップとして起業しWebtoonに黎明期から関わっていた、株式会社フーモアの芝辻代表に、これまでの歴史とこの先の未来について聞いた。
原点は「ボンチョンドンお化け」
―― 2011年にフーモアを創業、スタートアップとして活動されていますが、Webtoonへの参入はどのような経緯でしたか?
私自身、理系の大学で学びながら当時から漫画を描いていました。新卒で外資系コンサルティング企業のアクセンチュアに入社したのですが、その後「漫画を世界へ」というコンセプトの元、フーモアを創業します。
創業してすぐの頃は、漫画のコマを切り、縦に並べて、カラーに着色しグローバルに配信したら、イケるのではと思ったのですが、出版社の方にはお叱りを受けました(笑)。君は漫画も描くというのに、漫画の文法を壊すとは何事か、といった具合に。

―― 最初は受け入れられなかったのですね。縦スクロールを意識したきっかけはあったのでしょうか?
「ボンチョンドンお化け」という韓国の作品があり、2010年頃に話題になりました。お化けが出てくるホラー漫画なのですが、縦にスクロールしていくと、ギミックもあって、お化けが動くという。表現に新しさを感じ、これからスマートフォンデバイス上で拡がっていくのかなと感じました。

―― なるほどです。原点に「ボンチョンドンお化け」という作品があった。それでは続いてWebtoonの起源について、教えていただけますか?
世界最初のWebtoonを特定するのは難しいのですが、韓国で以下のような歴史がありました。
1997年の韓国での金融危機以降、街中に貸本業が増えます。それらがブロードバンド普及の流れもあり、ネットカフェになっていきました。(ネットカフェでPCを立ち上げると最初に表示される)有名なポータルサイトは、ユーザーが漫画を投稿できる機能も備えていたのです。そこで縦に長い一枚画像の漫画がアップされ、Webtoonの原型が生まれていきました。
―― ネットカフェの普及やポータルサイトの存在が背景にあったのですね。
韓国ではNAVERが日本のYahoo!Japanのような大手ポータルサイトなのですが、NAVERとしてもWebtoonは集客になると考え、コンテンツや作家を囲っていきました。広告費を払って集客するのと同じ感覚で、Webtoonにお金を投下したのです。
その後、2013年から2014年頃に、ある独立系の会社が立ち上げたWebtoonサイトが課金方式で成功し、業界内で大きな話題となりました。

「待てば無料」の課金モデルがヒット
―― どのような課金モデルですか?
今では一般的に「待てば無料」と呼ばれていますが、1話~3話まで無料で読むことができ、以降は例えば1日待つとまた1話無料で読めるというものです。待ちきれないという方は、課金してくださいねと。
「Webtoonは課金モデルが成立する」と、韓国でも日本でもニュースになり、その後はプラットフォーム(サイト運営者)が増えました。NHNグループのcomicoが日本で開始したのもその頃です。
―― 日本でも2014年頃に一度盛り上がった。
ただその時は、世の中全体がスマホシフトの途中だったり、日本人が読みやすいWebtoon作品の数も少なく、立ち上がりきらない印象でした。しかし韓国では、LINEのようなコミュニケーションアプリ「カカオトーク」で有名なカカオが後発として参入し、Webtoonの作家さんにこれまでの2倍、3倍といった金額を用意して、優秀な作品をハンティングし始めます。NAVERとカカオはバチバチです。
―― ネイバーとカカオは韓国Webtoonの2強ですね。
韓国にとって日本のマーケットは大きいので、以降も韓国でヒットした作品を翻訳して日本でリリースするという流れが続きました。「ノブレス」や「神の塔」といった、その後日本でアニメ化された作品などです。それでも日本は韓国ほど市場が大きくならなかったのですが、そこに「俺だけレベルアップな件」という作品が登場し、大ヒットします。
“俺レべ”が日本で受け入れられた理由
2019年3月に韓国発のWebtoonタイトル「俺だけレベルアップな件」がピッコマで連載開始、翌年2020年3月には、本作の月間販売金額が9800万円に到達した。その後、日本のWebtoon業界では新規参入や投資が活発になっていく。

―― 「俺だけレベルアップな件」、俺レべはなぜ日本でも受け入れられたのですか?
なぜウケたのか一つの決まった答えは無いのですが、いくつかの要因がありました。
日本では以前から「小説家になろう」という小説投稿サイトがあります。そこでは主人公が異世界に転生するという設定がジャンルとして確立していました。一般に「なろう系」とも呼ばれていますが、若者を中心にそのような文化的な土壌があったため、異世界転生ファンタジーである”俺レべ”が受け入れられたと思います。ファンタジーは国を越える普遍性もあります。
―― その後、日本のWebtoon市場も盛り上がりを見せます。
Webtoonが売れるとわかり、まずはプラットフォーム側が動きます。例えば「めちゃコミック」のような書店系サイトですね。軒並み縦スクロールに対応しました。そして若年層を取り込みたい出版社としても、スマホで気軽に読んでもらえたらとの思いがあります。
さらにゲーム系のプレーヤーも参入しました。開発費が高騰しているゲームで確実に当てるとなると、人気IP(Interectual Propety/知的財産権)を持っていないと難しいのですが、漫画でIPを作ろうという狙いです。そして最後にスタートアップ企業。まだ勝ち負けが決まっていないのでチャンスがあると。
この4種類のプレイヤー(プラットフォーム、出版社、ゲーム、スタートアップ)が、現在Webtoon市場に参入しています。
入門者向けWebtoonタイトルは?
―― 2010年頃から現在に至るまで、Webtoonの歴史をざっと解説いただきました。それではこれから新たに読んでみようという場合、どんなタイトルが入門としておススメですか?
もちろん「俺だけレベルアップな件」は、Webtoon入門に最適ですが、異世界ファンタジー以外でも多くのヒットが出ています。「喧嘩独学」「The boxer」なども面白いです。
女性向けですと、「悪女は砂時計をひっくり返す」という作品は、少し時間を戻れるという設定で、男性が読んでも面白いです。また、定番となった「女神降臨」は実写ドラマ化もされており、ぜひ読んで頂きたいですし、最近ですと「結婚商売」もとても面白いです。

―― これからも多くのヒット作が登場すると思いますが、この先の10年をどのように予測していますか?
私自身も漫画を読んで、漫画家になりたいと思ったように、今Webtoonに触れた若い人たちが、10年後にはWebtoonクリエイターになっていきます。
ですので市場が盛り上がっていないと、才能も集まらず、「Webtoonって一時期流行ったね」となる可能性もあります。まさに今が分岐点だと感じています。
―― 今が大事なターニングポイントですね。それでは最後に一つお聞きしたいのですが、芝辻さんの漫画の原体験となったような、一番好きな漫画は何でしょうか?
本当は比較的マイナーな作品が好きなのですが、一つ上げるとしたら、ドラゴンボールです。悟空がスーパーサイヤ人になった時のジャンプの表紙を見て、いいなと思って描き始めたら、隣の女の子が上手だねって褒めてくれて(笑)。それが漫画を書き始めるきっかけになりました。
―― 隣の席の子が人生の転機を創ってくれたのですね。ドラゴンボールの最新話を心待ちにしていたあの気持ちを、Webtoonで体験する日も近いのかもしれません。本日はありがとうございました。
渋谷のラジオ「渋谷社会部×FNNプライムオンライン」 2023年5月30日放送
進行:寺 記夫(プライムオンライン編集部)