スタートアップ起業家と投資家や事業会社が1000人規模で集結するカンファレンス「B Dash Camp 2024 Spring in Sapporo」が2024年5月23日、24日に札幌市内で開催された。

イベントのトリを飾るプレゼンコンテスト「Pitch Arena」では、応募総数150社から勝ち上がった6社で決勝が行われる。

6社のうち2社が「ショートドラマ」スタートアップ

GOKKO 多田 智 代表取締役兼総監督
GOKKO 多田 智 代表取締役兼総監督
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今回特徴的だったのが、決勝に勝ち上がった2社のビジネス領域が「ショートドラマ」であること。ここ数年のスタートアップ業界では、業務のデジタル化を促進するデジタルトランスフォーメーション(DX)分野のBtoB向けサービスが主流だったため、変化の潮目が感じられる。

ごっこ倶楽部の1動画あたりの平均再生数は267万回
ごっこ倶楽部の1動画あたりの平均再生数は267万回

ごっこ倶楽部は2021年に結成されたクリエイター集団。1動画あたりの平均再生数267万回、95%の動画が30万回以上再生されると言う。ビジネスモデルは企業からの広告受注が中心で、2期目で2億円、今期は5ヵ月経過時点で6億円を受注。今後は課金プラットフォームとも連携する。

ごっこ倶楽部 法人2年で大手クライアント実績
ごっこ倶楽部 法人2年で大手クライアント実績

審査員から「なぜ縦型にこだわるのか?」と問われると、ごっこ倶楽部を運営するGOKKOの多田智・代表取締役兼総監督は「クリエイターにとって一番悲しいことは作品が見られないこと。なのでTikTokやYouTubeなど様々な場所で打席を用意するのですが、バズる再生数を生み出すには必ず『SNS理解』と監督スキルの両方が必要になる」とし(編集部補足:『SNS理解』の中に縦型理解が含まれる)、「これをやったら絶対バズるという答えはないが、これは絶対やってはいけないということは山ほどある。その失敗例を社内で共有し、属人的にならずに大量の作品を生み出している」と説明した。

ショートドラマ市場は国内で1000億円超の可能性

emole 澤村 直道 (代表取締役)
emole 澤村 直道 (代表取締役)

emole社は1話3分のショートドラマ配信アプリ「BUMP」を提供する。ユーザーはお気に入りのシーンをSNSに切り出すことが可能で、SNS総再生数は12億回を超えた。

emole社が提供するショートドラマアプリ「BUMP」
emole社が提供するショートドラマアプリ「BUMP」

ビジネスモデルは1話97円のマイクロ課金。先行するマンガアプリ市場も参考にした。ショートドラマの市場は2020年に中国で誕生し1年で1000億円市場に成長。日本でも2026年に1500億円を超えるとの予測が出ているとした(YHリサーチ社)。

ショートドラマの国内市場は2026年に1530億円と予測
ショートドラマの国内市場は2026年に1530億円と予測

審査員から既に様々な動画プラットフォームサービスがある中での参入は難しいのでは?との質問に対しては、ショート動画がこれまでの動画サービスとはまったく別物である事と、作品を提供するクリエイターに適正な収益を還元する仕組みを作る為に、プラットフォームサービスにこだわりたいと答えた。

会場を沸かせたPortRay鹿野代表と審査員のクラウドワークス吉田代表

PortRay 鹿野翔太 代表取締役
PortRay 鹿野翔太 代表取締役

PortRayは転職活動の1次面接を共通化し、転職希望者と企業側の両者に効率化をもたらすサービス「OSUMITSUKI」を提供する。

PortRay社が試算する転職市場の年間面接回数
PortRay社が試算する転職市場の年間面接回数

不合格となる面接体験も無駄ではないという意見も分かるが、年間に膨大な時間が消費されているとし、いわゆるセンター試験の考え方で面接を一回に集約。結果を60個の指標でスコア化し、企業が定めるボーダーに応じて求職者を紹介する。もちろん面接センター試験は何度も受験可能で、都度アップデートされる履歴書としても機能する。サービスは開始したばかりだが、既に70社が導入を決定した。

一次面接を集約するサービス「OSUMITSUKI」
一次面接を集約するサービス「OSUMITSUKI」

赤いパーカーで勢い良くプレゼンする鹿野代表のキャラクターも印象的で、審査員や司会者も反応する。

吉田浩一郎(クラウドワークス代表取締役  審査員 以下、吉田氏):
昔の自分を思い起こすような、非常に人間らしいプレゼンをありがとうございます。(会場:笑い)。こうした人間くさい起業家はビジネスモデル云々と言うよりも、いかに執着するかで勝っていく、私自身もそのようにして生き残ってきたのですが、そのような観点から、このビジネスへの思いの丈を聞かせてもらえますか?

吉田浩一郎(クラウドワークス代表取締役)
吉田浩一郎(クラウドワークス代表取締役)

PortRay鹿野氏:
私自身、求職者や人材紹介事業者の両方の側面を経験して…(一部略)

吉田氏:
いやなんかそんなね、ビジネス機会とかの話じゃなくて、もっと何か思いがあるでしょう?

PortRay鹿野氏:
あの、ロジック的な話はまったく無いのですが、高校の時から起業すると決めていました。いくつかの会社を経たのちに、まず一つ目の事業、かなり自信があったのですが、「社内で相談できる先輩を探せるサービス」を立ち上げたのですが、これがまったく上手くいかなくて。次は、中国のWeb3関連サービスを日本へローカライズする事業をやりました。色々とやり続けて、やっとこれがハマったかなと。

渡辺 洋行(B Dash Ventures代表取締役 司会 ):
めちゃくちゃ良い感じですね。

渡辺 洋行(B Dash Ventures 代表取締役)
渡辺 洋行(B Dash Ventures 代表取締役)

吉田氏:
最近スタートアップ業界にもエリートがたくさん入ってきたから、あなたのような方にぜひ成功してほしいですよ(笑)

優勝は犯罪予測サービス「CRIME NABI」

優勝は犯罪予測AIを用いた警備業務支援ソリューション「CRIME NABI」。AIを用いた独自の高度な技術を持ち、ブラジルなど中南米の警察組織で既に利用されている。技術力、社会的意義、実績とスタートアップのお手本となる企業であり、最終的には審査員もほぼ満場一致で結論を出した。

「CRIME NABI」を提供するSingular Perturbations代表取締役CEOの梶田 真美氏
「CRIME NABI」を提供するSingular Perturbations代表取締役CEOの梶田 真美氏

その他のファイナリストは以下の通り。

・宇宙からの衛星データで不動産情報を提供する「WHERE」(阿久津 岳生 Penetrator CEO)
・製造現場の情報を一元管理するクラウドサービス「Smart Craft」(浮部 史也 Smart Craft代表取締役)

次回「B Dash Camp」は2024年11月6日~8日に福岡で開催される。

寺 記夫
寺 記夫

ライフワークは既存メディアとネットのかけ算。
ITベンチャーを経てフジテレビ入社。各種ネット系サービスの立ち上げや番組連動企画を担当。フジ・スタートアップ・ベンチャーズ、Fuji&gumi Games兼務などを経て、2016年4月よりデジタルニュース事業を担当。FNNプライムオンライン プロダクトマネジャー。岐阜県出身。