「春高バレー」に並々ならぬ思いで挑むのは、長崎県の女子代表、西彼杵(にしそのぎ)高校だ。2025年4月、がんで亡くなった監督に「春高優勝・日本一」を捧げると誓った。恩師が伝え続けた「真実(こころ)のバレー」の集大成に挑む選手たちを見つめた。
固い守備で春高バレーへ
春高バレーに2年連続2回目の出場をする、西海市の県立西彼杵高校。
ボールを落とさない「固い守備」は、基礎練習を繰り返し行う中で磨いてきた。
「他のチームが詰めが甘くなるところを、自分たちは1本も落とさないで差を付けていく」と、3年の田中心主将はチームの強みを語る。
11月に行われた、春高バレー出場をかけた県大会決勝。1、2年生中心のチームは、高さと技術のある聖和女子の速い攻撃に苦しんだ。
しかし、終盤は2人の3年生エース、髙見涼風選手と田中心選手が奮闘。地元西海市の人たちの声援を受け、フルセットの末に聖和女子を下し、春高バレーへの切符を手に入れた。
「応援が力になって勝てたと思う。この感謝を、本戦(春高バレー)で勝つことで恩返しがしたい」と田中主将は語る。
亡き監督のイスが見守る練習場
目標を「日本一」と掲げた2025年。インターハイはベスト16、国スポは1回戦敗退だった。
練習場にいつも置いているのは、2025年4月に下咽頭がんで亡くなった前監督・井上博明さんのイスだ。
「悲しい顔をしても井上先生は喜ばない。“今日も見守っていて下さい”といつも思いながら、イスを出している」と、2年の黒田鈴那選手は語る。
この代で挑む最後の全国大会である春高バレーは、「恩師のために」との思いでつながっている。
真実(こころ)のバレーが導く「強い精神力」
西彼杵バレー部の監督を務めた井上博明さんは、かつて佐世保市の九州文化学園を15回の日本一に導いた名将だ。
九州文化学園を定年退職した2023年、外部指導者として西彼杵の監督に就任。2年でチームをインターハイベスト8と春高初出場に導いた。
九州文化学園から西彼杵まで変わらない勝負強さは、井上さんが口酸っぱく精神面を説き続けることにより育まれた。
「どれだけ色んな人の気持ちを頂いてやっているのか。自分たちで話し合って絶対恥ずかしい試合をしないように。プライドのあるゲームができるように」。井上さんは選手たちに語っていた。
長崎出身の選手が、身体能力の高い選手が集まった全国の強豪校を根負けさせる「つなぎ」と、「強い精神力」を兼ね備えたバレーを、井上さんは「真実(こころ)のバレー」と呼んだ。
理想とする伝説の試合
選手たちが語り継ぎ、理想とする試合がある。
2014年、10年以上前の春高バレーの決勝戦だ。井上さんが率いた九州文化学園は、5セットマッチの試合で先に2セットを取られながら、3セットを取り返す大逆転で日本一を手にした。
飛びぬけた能力を持つ選手がいなくても、あきらめない心を貫き通した「真実のバレー」の集大成だ。
「気持ちが変わればプレーも絶対変わる。それを見せてもらったのが2014年の決勝。自分たちも絶対負けたくない気持ちで残りのセットを取り返す試合をしたい」と、2年の山田詩月選手は語る。
寮に飾られた井上さんの言葉
西彼杵バレー部は、全員同じ寮で暮らしている。
バレー部のために作られた寮だ。学年関係なく、掃除や洗濯などを役割を分担して行っている。
ここに、井上さんの言葉が大切に飾られていた。「感謝と思いやり、言い訳・責任転嫁をしない、誇りを持つ、自分の役割を探す」。
3年の橋爪佳音選手は「全部できてちゃんと真実(こころ)のバレーができると思っている」と語る。
初戦の壁は名門校「真実のバレー」で立ち向かう
西彼杵の初戦は、八王子実践(東京第3)。世代別日本代表の選手が揃い、11年連続48回目出場の名門だ。
西彼杵の2025年のスタメンの平均身長は169㎝と小柄。全国大会に向けて、相手が打ち込むコースやジャンプのタイミングを読んだブロックに力を入れると同時に、「つなぎ」に磨きをかけていく。
「ただ練習が淡々と流れていくのではなくて、1日1日をしっかり。自分たちのためになる練習にしていきたい」と、2年の横田真桜選手は意気込む。
田中主将も高校最後の戦いに気合が入る。「身長とかパワーとかは負けることはあると思う。レシーブ、最後の気持ちで絶対負けないで勝ちたい。まずは初戦勝って、目の前1個ずつ勝って日本一目指して頑張る」。
春高バレーは2026年1月5日に東京体育館で開幕する。西彼杵は、2024年度に中学の全国大会で準優勝した諫早中出身の5人など1、2年生が主力となる。
「日本一を、亡き恩師に捧げたい」。仲間、そして応援してくれる全員に感謝の気持ちを持ち、強い精神力で「真実(こころ)のバレー」を貫く西彼杵が、春高バレーに挑む。
(テレビ長崎)
