
参議院選挙や宮城県知事選挙などが行われた2025年。避けて通れない議論となったのが、SNS上の誹謗中傷や真偽不明な情報の拡散である。
かつてない混迷を極めた選挙戦の裏側で、何が起き、私たちは何に直面しているのか。2025年の「SNS選挙」を振り返る。
「今まで経験したことがない」現職知事が漏らした苦渋
2025年12月17日、宮城県議会である議論が始まった。ネット上の誹謗中傷を防止する条例制定に向けた、初めての検討の場だ。この動きの引き金となったのが、10月に行われた宮城県知事選挙である。
県政史上最多タイの5人が立候補した激戦。
現職の村井嘉浩氏と、参政党が支援した新人・和田政宗氏が競り合う展開となったが、村井氏は当選後、その選挙戦をこう振り返った。
村井嘉浩知事:
SNSでデマや誹謗中傷が跋扈し、どんどんどんどんそれが拡散されていく。今まで経験をしたことないような選挙でした。非常に苦しかったです。
なぜ、過激な情報が拡散したのか。ネットメディアに詳しい国際大学の山口真一准教授は、知事選とSNSの組み合わせを指摘する。
国際大学 山口真一准教授:
知事選は1人を決める選挙です。こういった場合には、既得権益と戦うんだとか、正義と悪だとか、そういう対立構図を非常に描きやすいという特徴があります。このような対立構図とか言説は、SNSで拡散されやすい。
「SNS選挙元年」を経て、後戻りできない局面へ
ネットでの選挙活動の解禁は2013年だが、投票への影響が顕著に表れるようになったのは「SNS選挙元年」と呼ばれる2024年。この年、東京都知事選や兵庫県知事選でみられたSNSの影響力は、2025年に入り、もはや無視できないものとなった。

2025年7月の参院選における出口調査(仙台放送)では、「何の情報をもとに投票先を決めたか」という問いに対し、候補者とそれ以外のSNSを参考にとした人の合計が、ついに新聞やテレビを上回る結果となった。山口准教授は警鐘を鳴らす。
国際大学 山口真一准教授:
2024年はたまたまそういう現象が起きた、ということではなくて、進んでいくしかない現象なんだということが、改めて分かった2025年だと思います。SNSでは目立っていて、センセーショナルな、目を引くものがすごく拡散されやすい。一方で、私たちに返ってくるのは政策です。本当は政策を見て、冷静に投票に行くべきなんですけれど、そういう目立つ部分ばかりがバズります。多くの有権者が今、それを見て投票に行ってしまうということが発生しています。
行政によるチェックと専門機関による検証
この事態を受け、村井知事は踏み込んだ構想を打ち出した。
「県として第三者的立場でファクトチェックして(候補者が)問題があれば告発する。」というものだ。
県は具体的な体制や実現可能性も含めこれから検討するとしているが、「公権力によるチェック」には懸念の声も根強い。
山口准教授も「権力側がやると、恣意的に運用する可能性が出てくる。」と、慎重な姿勢を求める。
そこで注目されるのが、独立した立場から情報の真偽を検証する専門機関だ。
日本ファクトチェックセンター 古田大輔編集長:
間違った情報に基づいて、状況を誤解して投票しているとすると、その人は本当に自由に自分の投票権を行使できたと言えるのか?ということ。

日本ファクトチェックセンターは、公正性や組織の透明性などファクトチェックの厳しい原則を国際的に定めるネットワーク(IFCN)の認証を受けた国内で3つしかない団体のひとつだ。
2025年の宮城県知事選においても、4本の検証記事を配信した。その内訳は以下の通り。
•「選挙不正」に関する情報: 2本を検証し、「誤り」および「不正確」と判定
•「土葬の肯定」に関する投稿: 知事の政策を巡る噂を「不正確」と判定
•その他の政策投稿: 「不正確な部分と根拠不明の部分が混在している」と判定
古田編集長は「村井氏に関する間違った情報が、しかも大量に拡散していたので、そちらを優先して検証することにした」と、事態の重要性を語る。
有権者に問われるメディアリテラシー

しかし、ファクトチェックという手法も万能ではない。日本では諸外国に比べて、検証結果を確認する習慣が未だ薄い。情報をすべてチェックするには物理的な限界もある。
古田氏は、今後の対策として「複合的なアプローチ」が必要だと指摘する。
日本ファクトチェックセンター 古田大輔編集長:
メディアリテラシー教育を普及させていくなど、法的なルールや業界的なルールで偽情報の拡散を押しとどめていくような、システム的、組織的な対応も取っていく。そういったものを複合的にやっていく必要があると思います。

SNSは、もはや選挙において欠かせない情報ツールとなった。しかし、そこには民主主義を揺るがしかねない危うさも同居している。
刺激的な「バズ」の影に隠れた事実を冷静に見極められるか。2025年の選挙が残した課題は、これからその解決策が問われていくことになる。
