年末年始を控え、福岡の伝統工芸品『博多張子』の干支の置き物作りが進んでいる。博多張子の魅力発信を目指す職人の活動を追った。

商人の街 博多の張子は華やか

円らな瞳にころんと丸い体、たてがみに新年らしい金銀の装飾が施されているのは2026年の干支の『うま』。

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制作しているのは、江戸時代から続く博多張子工房の6代目の三浦智子さん(40)だ。張子を飾るきっかけを作りたいと2024年から干支の置き物作りを始めた。

「1年ごとに違うデザインを飾れる楽しみというのもあるし、まず干支から入って、地元にはこういう素敵な工芸品があるんだよと知ってもらえたら嬉しい」と話す智子さん。年内に約300個を仕上げる。

ひとつひとつ手作りのため顔も形も同じものはない。「この子はイケメンにできたなとか。私も作っていて楽しい、選ぶ人も選ぶ楽しさがあるのが、博多張子の手作りの良さを感じてもらえる要素のひとつかな」と智子さんは微笑む。

張子の技術は、江戸時代に関西から博多に伝わったとされ、戦前の最盛期には十数軒で作られていたといわれている。いまでは博多張子の工房は3軒にまで減ってしまった。

張子の原料は主に紙で、芯となる型に和紙と新聞を貼り重ねて土台を作る。天日で乾かしたあとに切れ目を入れて型から外し、絵の具で着色していく。

商売繁盛の縁起を担ぐため商人の街、博多の張子は華やかな金粉を塗した作品が多い。智子さんは「みんなが嬉しい気持ちになるものを作っていると思うとポジティブでいなきゃと感じて、いま楽しんで作業できているのは、それもあるのかな」と話す。

「絶えさせるのはもったいない」

智子さんは、僅か4人の博多張子職人のなかで、最も若い。伝統工芸の世界に足を踏み入れたきかっけは、この道65年の職人、義理の父親である三浦隆さん(75)の存在だった。

その隆さんによると「貼る作業を私の女房が全部やっていたんですが、癌で亡くなって、どうしようかなと思っていたときに、興味があると言ってきた」のが智子さんだったのだ。

隆さんにとって、自分の代で途絶えると覚悟していたなかでの出来事だった。「(嬉しかった?)そうですね、ただ続くかなと思った、逆に「あーもー嫌になった」とかね、大丈夫かなと思ってましたけど」と当時を振り返る隆さん。

はじめは軽い気持ちで手伝い始めたという智子さんだったが「手伝っていくうちに『三浦家で途絶えたらどうなるんやろ』とか『守ってきたものがあるから、ここで途絶えさせるのはもったいない』というのが、ちょっとずつ後から芽生えてきた感じ」という。

「結構、これ売れてるんです」

智子さんは、これまでにない作品作りで博多張子の可能性を広げている。淡い色味が特徴の『ふわりこだるま』。仕上げのニスを塗らずに表面の和紙の風合いを生かし、柔らかい雰囲気が現代のインテリアに合うと人気だ。

代々、手がける虎の張子は、これまで全長25センチほどが最小だったが、智子さんが気軽に飾れるようにと作ったのは親指サイズ!

ユニークな作品たちに、義父で師匠の隆さんは「売れるのかなと思ったら、結構、これ売れてるんです。我々の年齢になると、こんな小さいの描き切らんのですよ。非常にやる気があるし、私が期待していた以上にやっているんじゃないかと思う」と微笑んだ。

チャレンジを続ける智子さんの元には新しい依頼も舞い込んでいる。この日、智子さんが訪れたのは糸島市にある白山神社。神社で授与する博多張子の制作を依頼されたのだ。

白山神社(福岡・糸島市)から制作依頼
白山神社(福岡・糸島市)から制作依頼

お披露目したのは神社のシンボル、桃がデザインされた200個の縁起物。早速、手に取った神社関係者は「かわいいですね」と満足気な表情だ。

名誉宮司の河上定徳さんは「三浦さんの博多張子が魅力的な感じがして依頼しました。三浦さんの技量、伝統に対する気持ちが、作品に乗り移っているんじゃなかろうか」と話す。智子さんの親しみある作品が神社を訪れるきっかけになってほしいと期待しているのだ。

智子さんは、博多張子の魅力の発信にも力を入れている。県内で定期的に開かれている絵付けの体験会。この日は約10人が干支の置き物に思い思いの色を塗っていた。

制作活動を始めて5年。智子さんは徐々に輪の広がりを感じている。

厳しさを増す伝統的工芸品の世界

しかし伝統工芸を取り巻く環境は年々、厳しさを増している。国指定の『伝統的工芸品』について1998年度からの約20年間の推移を調べると、生産額は2700億円から927億円に、従事している人は11万5000人から5万8000人ほどに半減し、後継者不足や需要低迷が深刻になっている。

深刻な後継者不足や需要低迷
深刻な後継者不足や需要低迷

一方で、伝統工芸を地域資源として活用しようという産地もあり、工房巡りを含めた観光ツアーを企画したり、小・中学校の授業で制作体験を行ったりして伝統工芸に触れる機会を作っているということだ。

長い歴史の中で育まれてきた博多張子。智子さんは新たな挑戦を重ねて伝統を未来に繋いでいく。

(テレビ西日本)

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