夜6時半すぎ。あたりが暗くなる中、明かりが灯る講義室があった。仕事を終えた社会人たちが机に向かっている。広島市南区にある県立広島大学大学院のビジネススクールだ。
近年注目の“大人の学び直し”に迫った。

人生100年時代、親も「学ぶ側」に

県立広島大学大学院のビジネススクールに通う学生の約8割が30~40代の社会人。その一人、介護施設で理学療法士として働く学生は受講理由をこう語る。
「施設の中だけにいると見えてこないものが、外に出ると見えてくるのかなって」
ゼネコン勤務の30代の学生も、時代の変化を肌で感じていた。「これまでの学びだけでは生きていけない」──そんな危機感が背中を押した。

マンション管理会社で働く学生(30代)
マンション管理会社で働く学生(30代)
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マンション管理会社で働く30代の学生は、これから先の人生を見据える。
「まだ35年、40年と働くかもしれない。いま勉強しておけば学びを生かせる期間が長いと思った」

ゼネコンで働く学生(30代)
ゼネコンで働く学生(30代)

昼は仕事、夜や休日は学校。家族の理解も必要で簡単な決断ではない。
それでも、家庭に前向きな変化が生まれたという声もあった。父親が大学院に通い始めたことで、小学生の息子が「僕も勉強しなきゃ」と口にするようになったという。

平均寿命の延びや、技術革新のスピードを背景に注目されているのが「リカレント教育」だ。
学び直しを、国も制度面で支援している。

県立広島大学ビジネススクールの江戸克栄教授は「理論や考え方は急速に進歩している。アップデートしながら時代についていくことが必要」と話す。
加えて、人脈が広がることも大きな価値だという。厚生労働省の教育訓練給付金などにより、受講費用の7~8割が補助されるケースもあり、金銭的なハードルは下がりつつある。

働きたい女性に「リスタートプログラム」

一方、デジタル人材の育成や就職支援などを目的に広島県が実施するプログラムがある。
広島市中区で12月10日、働きたい女性と企業をつなぐマッチングイベントが開かれた。参加者の多くは30~40代。育児や家庭と向き合いながら、次の一歩を探している。

1歳半の子どもをもつ30代の参加者
1歳半の子どもをもつ30代の参加者

1歳半の子どもをもつ30代の専業主婦は「子どもが小さいうちから、週に1日とか週に3日でも少しずつキャリアを伸ばしていけたらと思いました」と語る。

3歳の子どもをもつ30代の参加者
3歳の子どもをもつ30代の参加者

また、3歳の子どもを育てる30代女性は生活の変化をきっかけに参加を決めた。
「子どもが幼稚園に通い始めて、自分の中でも少し余裕が出てきました。お迎えまでの時間を自分のために使ってみたい。将来のステップアップにつながればと思って、就職を考えるようになりました」

広島県の調査では、働きたい女性のおよそ6人に1人が育児や介護を理由に就職活動ができていない実態が明らかになった。
そこで県が打ち出したのが「リスタートプログラム」だ。2024年から参加費無料で実施され、キャリア相談に加え、SNSマーケティングやウェブデザイン、AI、ChatGPTなどのデジタルスキルを学べる。
自宅からオンラインで受講でき、見逃し配信にも対応。メンターが伴走し、パソコンの貸し出しもあるなど、「学び直したい」気持ちをサポートする。県の担当者は「デジタルスキルを学ぶことで、場所を選ばない働き方がしやすくなる」と話し、就職後の選択肢を広げるねらいもある。

「学びを得て、一歩踏み出せた」

参加企業からも、女性の可能性に期待する声が上がる。
県内で洋菓子店を展開する「櫟(くぬぎ)」の兼田貴代会長は、こう語った。
「子育てや家庭のために我慢するのではなく、子どもたちが『うちのお母さん、輝いているよね』と誇りに思える社会になってほしい」

このプログラムをきっかけに就職した女性(奥)
このプログラムをきっかけに就職した女性(奥)

実際に2024年、このプログラムに参加し、未経験の業界へ就職した女性がいる。専業主婦歴15年。不安は大きかったが、新たな学びが自信につながった。

「自分が役に立てるのだろうかと自信がなかった。何もない状態より、ひとつでも学びを得たことで、一歩踏み出せたという気持ちを持てました」
それから1年。
彼女は、企業側の立場でこのマッチングイベントに参加していた。

中断したキャリアを再び動かす

プログラムに参加した女性たちからは、前向きな声が相次ぐ。

 
 

40代の参加者は「就職氷河期世代だったので、就職活動には厳しいイメージしかなかった。でも、こうやって手助けしてくれる存在は本当にありがたい。頑張ろうという気持ちになりました」と語る。

 
 

別の40代の参加者は、将来を見据えて学びに向き合っていた。
「これまで家庭の都合でキャリアを中断することが多かった。でも、中断している間にスキルを上げておくことで、子どもが大きくなった時に自分のために働けると思いました」

新しい学びは地域や企業、そして一人ひとりの人生を支える“土台”になり得る。行政、企業、大学が連携し、学びの場をどうつくっていくか。その環境整備は、今後さらに進んでいきそうだ。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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