大学入試が大きく変わっている。
少子化で受験環境は“狭き門”から“広き門”へ。総合型・学校推薦型選抜が広がり、12月には私立大学志望者の半数以上が早くも合格を勝ち取っている。親の経験が通用しにくい今、専門家の分析から親子が知っておきたい最新の入試事情を探る。

早まる入試、親の感覚と“ズレ”

受験シーズンの12月、広島の街で話を聞くと受験生やその親の不安を耳にした。
高校3年生は「共通テストをちゃんと乗り切れるか不安です」、別の3年生も「インターネット出願が初めてで、みんなでやってもなかなかうまくいかなかった」と戸惑いを口にする。親世代も同じだ。受験生の母親は「いつから何を準備すればいいのか全然わからなくて…」と話す。

高校3年生
高校3年生
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一方で、すでに受験を終えたという高校3年生もいた。
「総合型で決めました。とにかく早く終わらせたかった」

総合型選抜や学校推薦型選抜は年々増えており、国のデータでは2025年に入学した大学1年生の半数以上が前年末までに進学先を決めていた。
受験スケジュールの“早まり”は、親にとっても無視できないポイントだ。

大学入試の動向を分析する河合塾の近藤治主席研究員は言う。
「親世代の感覚だと共通テスト(旧センター試験)が“入試の始まり”だったはず。しかし今は9月1日から入試が始まり、共通テストは“中盤あたり”のイメージです。12月には私立大学志望者の半数以上が合格を勝ち取っていて、親からすると『えっ、そんなに早いの?』という感覚だと思います」

大学受験環境の変化(河合塾 教育研究開発本部 調べ)
大学受験環境の変化(河合塾 教育研究開発本部 調べ)

過去30年で受験環境は大きく変化している。
河合塾教育研究開発本部の調査によると、高校卒業者数は1992年度の180万7175人から2022年度の99万5109人へほぼ半減。一方で大学数は528校から804校へ約1.5倍に増加している。進学率も19.2%から55.3%へと大きく伸び、大学入試は“狭き門”から“広き門”へと変わった。

学力だけじゃない“人物像”を重視

近藤研究員は続ける。
「大学入試が厳しかった30年前は2人に1人が浪人する時代でした。今は10人中9人が現役で合格しています。さらに当時の入試は教科試験が中心でしたが、今は総合型や推薦型選抜で、主体性や協調性、高校での学びのプロセスなど“人物像”を見る入試が主流です」

大学入試は、主に以下の3つの方法に分類される。

【総合型選抜】
受験者自身の意思で出願でき、高校長の推薦は原則不要。意欲や適性を重視し、面接や書類審査を通して多面的に受験生を評価する。
【学校推薦型選抜】
高校長の推薦を必要とし、学習成績や課外活動など高校生活全体の努力を評価。書類審査に加えて面接や小論文を組み合わせて選抜することが多く、合格すれば必ず入学する専願が条件となる。
【一般選抜】
大学入学共通テストや大学独自の個別テスト(2次試験)の得点によって合否を決める最も標準的な方法であり、学力勝負となる。私立大学では複数校の併願がしやすい点も特徴。

総合型選抜が増えている背景には、社会の変化もある。近藤研究員は「大学は社会が求める人材を育てる教育機関。求められる人物像が変われば、入試も変わっていきます」と話す。

社会と大学入試の変化(河合塾 教育研究開発本部 調べ)
社会と大学入試の変化(河合塾 教育研究開発本部 調べ)

かつての工業社会では、決められたことを正確に早くこなす力が重視された。しかしAIやビッグデータが浸透する知識基盤社会となった今、求められるのは新しい価値を生み出す力、周囲を巻き込む能力である。入試も正解主義から構想力重視へと、社会と足並みをそろえて変化している。

8割の大学が“年内入試で学力試験”

一方で、“年内入試”とも呼ばれる総合型・学校推薦型選抜に新たな動きがある。
近藤研究員は「人物重視とはいえ、基礎学力は必要です」と強調する。
2025年の入試からルールが改正され、これまで2月1日以降にしか行えなかった学力試験が、条件付きで年内入試でも可能になった。河合塾が調査した約220大学のうち“8割が年内入試で学力試験を課す”としている。2026年以降はさらに増える見通しだ。
早期に学生を確保しつつ、学力も重視したい大学。その思惑が、入試を年々複雑にしている。

では、これからの大学選びで大切な視点は何か。
近藤研究員は、まず“親子間のギャップ”に目を向けてほしいと強調する。
「親は最低限、今の大学入試の仕組みを知っておいてほしい。30年前の自身の経験をもとにしたトンチンカンなアドバイスだけは避けてもらいたい」と話し、親の情報アップデートの必要性を指摘。そのうえで、大学選びの軸は大きく変わりつつあるという。
「親世代の厳しい入試時代は、合格できるかどうかの目安となる“偏差値”が大学選びの指標になっていました。今でも偏差値は有効な物差しではありますが、それ以上に受験生が自己実現できるのはどの大学か、そこを親子でじっくり話し合うことが大切です。合格は通過点にすぎません。一番大切なのは、大学に入学した後です」

高校3年生は入試が目前に迫る時期だが、1・2年生にはまだ時間がある。自分の可能性を伸ばせる大学はどこか──親子の対話こそが、これからの大学選びの軸となる。

(テレビ新広島)

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