今年も石川県内を大いに沸かせた大相撲。横綱昇進を果たした大の里をはじめ、新入幕の欧勝海、そして十両の輝など、郷土力士の活躍が続いている相撲王国・石川から、新たな逸材が大相撲の世界に挑む。金沢学院大学4年の大森康弘選手。身長185センチ、体重120キロの恵まれた体格を武器に学生相撲界を席巻してきた大森選手の魅力と学生最後の大会に密着した。
相撲王国・石川から新たな逸材

全国大会でも常に上位に入る強豪校、金沢学院大学相撲部。その中でキャプテンを務める大森選手は、学生最後の大会を2日後に控えたこの日も、入念に汗を流していた。

「(稽古は)週6くらい。無理している感覚はないです。日々、稽古を通して強くなることが自分の望みなので…」

穴水町出身の大森選手が相撲を始めたのは小学1年生のときだった。

「校内相撲大会で優勝したときに誘われて、気が付いたら(相撲教室に)入部していました」
そこから6年生まで相撲を続け、県大会で入賞するなど結果を残していたが、当時の大森選手にとって相撲は必ずしも続けたい競技ではなかったようだ。

「(相撲を)やりたくないなと思っていたので、1回ほかのことをやってみたいと思って野球をやっていました」

「強くなりたい」一心で再び土俵へ
中学では相撲から離れ、野球に打ち込んでいた大森選手。高校でも野球を続けようと思わなかったのだろうか?
「あまりその時は考えていなかったですね。格闘技をやって強くなりたいなって」

「強くなりたい」―その一心で再び相撲の世界に戻った大森選手は、強豪の金沢学院大学附属高校に進学。高校から大学までの7年にわたって大森選手を指導してきた大澤惠介総監督は、入学当初の印象をこう振り返る。

「動きがすごく速い選手で、でもここまで強くなるとは思っていなかった。もっと時間がかかるのかなと」
しかし、大森選手は周囲の予想を上回るスピードで成長。高校3年生のときには、インターハイと高校相撲金沢大会で全国2位に輝いた。その実力を認められ、大の里の出身校である日本体育大学や、同じ穴水町出身で元小結・遠藤の北陣親方が通っていた日本大学からもオファーがあったという。

強豪校を倒す側に立つ決意
多くの力士を輩出してきた名門校からのオファーを受けながらも、大森選手の選択は意外なものだった。
「強豪校を倒す側の方が面白いかなって…」

そのまま金沢学院大学に進学した大森選手は、3年次にその言葉通り強豪校を次々と倒し、国民スポーツ大会で個人・団体の2冠に輝いた。その強さの秘密を大澤総監督はこう分析する。

「なんといってもスピードですね。あとはパワー。体が強いですよね。筋力もあるし、体も大きい。天性のものだと思います」
元小結・遠藤の北陣親方も「センスもありますし、魅力を感じています」と大森選手の素質を高く評価している。

120キロの体に苦手なものが?
一方で、大森選手には苦手なものもある。それは意外にも「食事」だ。
「一応、大盛で行きます」

大森選手の現在の体重は120キロ。相撲界ではまだまだ軽量級に分類される体格だ。そのため、一日4回の食事で体重を増やそうとしているが…
「飯は弱い方です。食べるのは好きですけど、めっちゃ食べられるっていうキャラではない。午後3時くらいに米を3合食べました。だからお腹が空いていなくて…」

意外な一面だが、それでも1時間ほどかけて箸を進め、完食した。
学生最後の大舞台へ
この取材の2日後、大森選手が出場するのは全日本相撲選手権大会。全国各地の大会で優秀な成績を残した選手たちが出場するアマチュア最大の大会だ。大森選手にとっては学生相撲最後の大会となる。

「周りの人たちへの感謝の気持ちを相撲で表現できたらいいなって思っています」
目標を聞かれると「優勝で!」と力強く答えた。

そして迎えた大会当日。会場の両国国技館には社会人・大学生・高校生、あわせて80人の選手が集結した。今年は大会2連覇中だった七尾市出身の池田俊選手が欠場。優勝候補の筆頭がいなくなり、誰が勝つか読めない展開の中、大森選手は予選を3連勝で突破し、決勝トーナメントに駒を進めた。
「勝ち上がれたので、ひとまず良かったです。とにかく一番一番、最善を尽くしてやるだけです」

決勝トーナメントのライバルを聞かれると「そこまでいないですけど。自分ってことにします。頑張って優勝を目指します」と自信に満ちた回答だった。
穴水町出身者同士の準決勝
決勝トーナメントには、ほかにも石川県から注目の選手が残っていた。実業団クラブの名門、ソディック所属で大森選手と同じ穴水町出身の三輪隼斗選手だ。身長175センチ、体重110キロとけして大柄ではない三輪選手だが、世界大会での優勝やこの大会での準優勝など、アマチュアでもトップクラスの実績を残している選手である。

順調に勝ち進み、ベスト4まで残った2人は準決勝で対戦することになった。穴水町出身の2人の取組が両国国技館で実現したのだ。
「はっきよい!」

大森選手は突き出しで三輪選手を破り、同郷対決を制して初の決勝進出を決めた。

学生相撲の集大成・決勝の舞台
決勝の相手は日本大学の鮫島輝選手。身長185センチ、体重160キロという大相撲顔負けの体格を武器に、1年生ながら決勝進出を決めていた。

「集中集中!」
迎えた決勝戦。どちらが勝っても初優勝となる一戦だった。

「はっきよい!」
立ち合い、もろ差しから一気に攻められると、そのまま寄り倒され、アマチュア横綱の称号にはあと一歩届かなかった。

「準優勝者の表彰です。金沢学院大学、大森康弘さん」
学生最後の大会は黒星で終わったものの、大森選手の表情は晴れやかだった。

「悔しいです。でも全体的に力を出せて楽しめていたと思うので(きょうの相撲は)50点で、決勝も勝てたら100点だったかな」

相撲人生はこれからが本番
卒業後は大相撲の道に進む大森選手。その相撲人生はまだまだ始まったばかりだ。大相撲での目標を聞くと、こう答えた。
「200点で、(目標は)全勝優勝です」

大の里、欧勝海、輝といった先輩郷土力士たちに続き、石川県から新たなスター力士が誕生するかもしれない。大森選手の大相撲での活躍に、これからも注目していきたい。

(石川テレビ)
