シリーズで伝える『くまもとニュースの深層』。今回は交通に関する問題、熊本市で熊本西環状道路の新たな区間が開通したことで、国道3号線の渋滞緩和に一定の効果を出しているが、より緩和を図るには自家用車から公共交通への転換が必要だ。そのカギとなる公共交通が抱える大きな問題について取材した。
九州産交バスが路線再編の決断
九州産交バスは2025年9月に宇城市にある松橋営業所を廃止し、10月に松橋・宇土エリアから熊本市内までの直通路線も廃止するという再編を行った。九州産交バス・営業部の岩永謙二部長は「運転士不足の問題が一番と思っている。やむを得ず再編に至った」と話す。

熊本県内全域に路線を持つ九州産交グループの運転士は現在561人。コロナ禍前から人手不足は続いているが、それでも2019年には運転士708人が在籍していた。グループ全体で減便など効率化を進めてきたものの、現在も必要な定員には約20人不足していて、休日出勤でカバーしているという。

九州産交バス・運行部の中村博文部長は「運転士が足りていない。今いる運転士に負担がかかっている」と話す。こうした状況はどの事業者も同じで、県内のバス5社では現在計50人の運転士が不足している。

熊本学園大学・経済学部の溝上章志教授は「バスという公共交通はエッセンシャル(社会機能維持に不可欠)なものであり、それを支えている運転士はエッセンシャルワーカーと考えられる。もっと魅力ある職業として、キャリアを積める良い環境を作り、運転士を増やさない限り、今以上のサービスを提供することはできない」と話す。
バス廃止しJRに任せるメッセージ打ち出す
こうした中、九州産交バスが2025年に行った路線再編は、これまでにない大きな決断を要したという。

九州産交バス・営業部の岩永謙二部長は「明確に『JRに任せる』というメッセージを出したのが、今回は一番大きかったと思う。完全に途中(のバス路線)を遮断したのは初めて」と話す。

九州産交グループは自社の営業所を廃止して、エリアの拠点を他社の『JR松橋駅』に移し、熊本市内への客の輸送は『JR九州』に任せ、バスは『駅との結節』の役割に徹することを選択。10月からはJR松橋駅に平日約50便を乗り入れ、公共交通のネットワーク強化へ舵を切った。

窓口機能については、廃止した営業所近くに『松橋販売所』を設置し、サービスを続けている。九州産交バス・営業部の岩永謙二部長は「役割分担を時代の流れとともにやってかないと、交通事業者も残っていけないし、力に応じた役割分担を図れば、結果的に利用者に迷惑をかけないことになると思っている」と話す。

熊本学園大学・経済学部の溝上章志教授も「得意な分野を持つ他社に任せて(バスは)それを補完していく仕組みに替えていく。ここでは鉄道を幹線にしてバスで(利用者を)集めてきて、乗り換えて(熊本市へ)行ってもらうことをやっている。こういうところはこれから増えていくのではないか」と話す。
運転士の採用に最大930万円の支援策
11月に八代市の自動車学校で開かれた県内のバス5社による就職説明会。運転士不足解消に向けた各社合同の取り組みだ。

この場で九州産交グループがアピールしたのは『入社後最大10年間の家賃補助』『学生時代の奨学金返済を最大10年肩代わり』『通勤用車両を2年間無償貸与』など数々の支援制度。すべてを利用した場合最大930万円の支援になるとしている。

こうした制度によって九州産交では、2025年度これまでに約30人の運転士獲得につながった。2025年7月に入社した奥村睦さんは他県での運転経験がある。

運転士の奥村睦さんは「福利厚生が豊富で大変魅力に感じたのと(九州産交は)路線バス、高速バス、貸し切りバスと、いろんな業務をしていて、家族と一緒に過ごすなら長く腰をすえて働けると思ったので、こちらの会社にしました」と話す。

進む高齢化社会、「移動の担い手として貢献したい」と語る奥村さん。バスが地域の移動手段としてあり続けるために、厳しい経営状況の中、現場は独自の取り組みを模索している。
(テレビ熊本)
