憲政史上初の女性首相と都政史上初の女性都知事。
2人の“初顔合わせ”は11月17日に実現した。
小池知事:
きょうはグッドニュースを持ってきました。東京都の出生数が1~6月で0.3ポイント上がりまして。
高市首相:
すごいです。ビッグニュース。
2人の話題は、東京都の出生数増加だった。
都の少子化の反転攻勢はあるか、今回の出生数増加の原因は何なのか、都庁に取材をしたところ、2つの異変が起きていた。
「真剣交際」増加中 そのワケは
東京都のマッチングシステム「TOKYO縁結び」は2024年9月から開始、AIによる価値観診断でのマッチング相手紹介はもとより、安心・安全を重視して、パスポートや運転免許証マイナンバーカードなどの顔写真付き本人確認書類、独身証明、年収証明書の提出を必須とする。
これまでの成婚数は106組、他のお相手紹介やお見合い予定をすべてストップする「真剣交際」が230組に上り、その数は増え続けているという。
その理由を東京都生活文化局都民生活部の大森有一都民活躍支援担当課長に聞いた。
「2024年9月から本格的な運用を開始し、1年余りが経過しましたが、マッチングシステム入会から成婚までの平均期間が約7~8か月という参考データもあります。現在は入会後に一定の交際期間を経て、真剣交際に進むカップルが着実に積みあがっていると考えられます」と話す。
成婚数=出生数、と単純に結びつけられるものではないが、日本の子供のほとんどが結婚したカップルから生まれる現状からは、婚姻数の増加が出生数増加につながることは一定程度事実だといえるだろう。
自治体でなぜ?異例の1億PV突破
また、東京都には、自治体のホームページとしては異例の年間1億PVを突破、2025年度は7か月で1億3000万PVに到達し年間2憶PVを見込むサイトがある。
それが、「東京こどもホームページ」だ。
都内の小学生向けに、東京の歴史や防災、環境などを学べるサイトで、これだけ聞くと「なぜPVがそれほど伸びのだろうか?」と疑問に思うだろう。
PV激増の火付け役は、サイト内の「東京こどもタイピングレース」だ。友達とタイピングのスピードを競争しながら東京についての知識を身に着けるもので、4人まで一緒に遊ぶことができる。
一見ゲームなのに、東京都が作っていいものなのか…開発の理由を東京都庁・子供政策連携室の田中愛子室長に聞いた。
東京都庁・子供政策連携室 田中愛子室長:
小学校から1人1台パソコン配布が定着し、今や小学校3年生くらいから学校でタイピングを学びます。そこで、タイピングのスキル向上のため、都内のキーワードを楽しくタイピングしてもらおう、と。学校が子供に一番PCを使ってもらえる場所なので、先生に相談しながらバランスに配慮しました。
友達とのゲーム感覚ででき、しかもこれが学習に資するとして、学校での使用許可が出たところ、みるみるPVが伸び、今では1日7万人のこどもがサイトを訪れるそうだ。
そして、子供たちの生の声から新たな試みも――。
「こども」は私たちじゃない!
東京都庁・子供政策連携室 田中愛子室長:
先日、中学生の子供たちと話をしていたら、『ひらがなの「こども」と言う文字を見ると、小学生のことだと思う。漢字の「子供」なら自分たちも入ると思うけど』と言われまして…。そういう発想は無かった!と思い中高生向けのサイトも開設することにしました。
また、中高生からは新サイトで「英語を学びたい」という声が最も多かったという。
文部科学省の教育実施状況調査結果によると、英検準2級以上の英語力の高校生の割合は、東京都でスピーキングテストが導入される2022年度以前は、東京都と全国で、ほぼ同じ割合だった。
しかし、スピーキングテスト導入後は差が広がりはじめ、2024度では全国平均より東京都が9ポイントほど高くなっている。外国人観光客等の増加とも相まって、都内高校生らの“英語熱”が高まりつつあるのかもしれない。
子育ては社会でするもの
また、東京都には10代からの健康・医療サイト「TOKYO YOUTH HEALTH CARE」がある。
家族はもちろん友人間ですら話しづらいであろう、性や心の悩みについて具体的なテーマがずらりと並んでいる。自治体HPとは思えないほど赤裸々である。
なぜこんなにも子供向けホームページを作るのかを聞くと…。
東京都庁・子供政策連携室 田中愛子室長:
子供達から『SNSは嘘もあると分かっていながら頼っちゃう』と言われ、キーとなるサイトを東京都が作って中高生の子が安心してアクセスできるようにしていきたいと思いました。
また、東京の子育て世代は9割が共働きで1割が専業主婦です。若い人たちに聞くと、住宅は夫婦でペアローンが前提、頑張って家を買って教育費を払っている。
このようなホームページもそうだが、様々な子育て支援をすることで、『子育ては家族だけでするものではなく社会でするもの』として進めていきたいです。
あくまで出生率が重要
一方で専門家からは、東京都の今回の出生数の増加は冷静に見るべき、との声が上がる。
大和総研 金融調査部 是枝俊悟主任研究員:
今回、増加したのは出生数です。東京都在住の女性の1人当たりの「出生率」が下げ止まったかは分からず、かつ、仮に下げ止まったとしても、その水準が全国で最も低い水準に変わりないことを冷静に評価する必要があるかと思います。
働く女性はお金より時間と年齢
では、今後、出生数ではなく出生率をあげるために必要な対策とは何か。
是枝主任研究員は働く女性と専業主婦では、それぞれ異なる支援が必要だという。
まず働く女性については、「夫婦で働く世帯が2人目を持てるようにしないといけません。問題は経済的支援よりも、時間や年齢的制約です」と話す。
東京23区に住む妻が30代で子供がいる夫婦の世帯年収は、2022年時点で、986万円に上っていたという(総務省の就業構造基本調査から大和総研が作成)。
そうなると、確かに共働き夫婦にとって2人目の子供をもつことに対する“壁”は、家事をする時間の捻出と年齢となる。
大和総研 金融調査部 是枝俊悟主任研究員:
これには、男女の家事育児分担が重要で、男性の育休取得の割り当て(パパクオータ)が有効だと思います。
パパクオータとは、「父親専用の育休枠」で、男性しか取得できない期間を設けて父親の育休取得率を高めるものだ。
日本では、若い世代で男性育休が広がりつつあるものの、強制的な制度はまだない。
男性の育休義務化で女性の負担を減らし、2人目を産みやすい環境整備につなげられるのではないか。
3歳までに736万円 保育料の公費支援
直近の全国の出生率のピークである2015年(1.45)以後の急激な落ち込みには、専業主婦など「扶養に入っている女性」の出生率の変化が大きく影響している。
大和総研の推計によると、この間、正社員等として働く女性の出生率は全国で1.0から1.1に上昇した一方で、扶養に入っている女性の出生率は2.2から1.6に低下し、東京でも水準の違いはあれど変化の傾向は変わらない。
大和総研 金融調査部 是枝俊悟主任研究員:
子供に対する国や地方自治体の支援は、0歳4月から3歳の4月まで、保育所費用だけで3年間に736万円の公費が投入されています。これは、ひと月あたり20万円にのぼります。
一方で、在宅育児には、それほどの支援はありません。これを踏まえて、専業主婦の在宅育児についても月10万円程度の支援を出すべきだと思います。
たしかに、専業主婦の出生率が下がっている背景には、都内の家賃や教育費の高さから、2人目を躊躇する専業主婦の悩みがあるのかもしれない。専業主婦が少しでも安心して在宅育児ができる環境づくりは、出生率向上への新たなアプローチとなるのではないか。
国と首都東京のトップ双方が“女性”という未だかつてない機会を活かして、最大の課題ともされる『少子化』をどう改善していけるのか。2人のリーダーシップにぜひ期待したい。
