安倍元首相銃撃事件発生から3年5カ月。
12月4日、5回目となる最後の被告人質問が行われました。

“最後”の被告人質問

12月3日、裁判に出廷した安倍昭恵さんに対し、何も語らなかった山上徹也被告(45)。
4日行われた最後の被告人質問で、改めて弁護側から昭恵さんへの今の思いを問われると…うつむきながら、淡々とした口調で初めて遺族への謝罪を語り始めました。

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弁護側:
昭恵さんに何か言葉は?

山上被告:
安倍昭恵さんをはじめ、首相のご家族には何の恨みもありませんので、殺害したことで3年半つらい思いをされてきたことは間違いないと思います。
わたしも突然、肉親が亡くなるのは経験したことなので、弁解の余地はありません。非常に申し訳ないことをしたと思っています。

さらに、昭恵さんに謝罪の手紙を送るか、弁護側と相談していたことも明らかにしました。

山上被告:
謝罪の手紙を送ると、受け取らざるを得なくなるのは昭恵夫人の本意ではないと思い、見送りました。

謝罪の言葉の一方で、検察側から「事件を起こして良かったか?」と問われると…。

山上被告:
私や統一教会の被害者にとっては良い面もあったが、全体としてどうだったかは、いろいろ関わるので一概には言えない。

最後に、裁判長から「人の命を奪うことへの葛藤はなかったのか?」と問われると…。

山上被告:
統一教会の中心人物に対して道徳感情を超えてしまい(銃を)作ったが、それが安倍元首相に向かったことに対し、安倍元首相が殺害されないといけなかったのは、間違いだったなと思っております

なぜ被告人質問最終日に謝罪?

『サン!シャイン』は、元大阪地検検事の亀井正貴弁護士に、5回行われた被告人質問のポイントについてお聞きしました。

最後の被告人質問で、昭恵さんら遺族に対し謝罪の言葉を述べた山上被告。

谷原章介キャスター:
もし情状酌量を狙っていくのであれば、昭恵さんが裁判傍聴していたその場で言った方がより意味があるのではないのかなと思うんですけど、なぜ昭恵さんが出廷していないきのう(4日)だったんですか?

元大阪地検検事 亀井正貴弁護士:
昭恵さんが質問してくるのであればその想定問答集は作っていたと思うんですけども…。
しかも対面で加害者被害者が相対した場合に、昭恵さんがどういうふうな言動をするか分からなくて、その内容によっては被害者遺族の言っていることを否定はできないですから、山上被告が今主張していることに対しても悪い影響を及ぼすリスクがあるので、それは避けたんだと思います。

検察と弁護側・被告人との“せめぎ合い”

まず亀井弁護士が注目したのは4回目の被告人質問における検察側からの質問。
「幹部が本来の目的か?」
(事件を起こす前にジャーナリストに送っていた)手紙の中で『安倍は苦々しくは思っていたが本来の敵ではないのです』というのは当時の考え?」

という質問に対して山上被告は「そうです」と答えました。

亀井正貴弁護士:
前提として確認しておく必要があるんですけども、政治テロであれば一定の政治的目的のもとに計算の上で冷酷に犯罪を行ったのであれば非常に悪質な犯罪なんですね。
他方で、そうではなくて怒り・恨みの感情から行ったのであれば、そこは政治テロから若干離れてくるんですね。
おそらくこの事件は、外形的には政治テロの犯罪なんですよ。だけど、そういう計算ではないということを言うことによって量刑を下げようとしている。つまり、検察と弁護側・被告人との間のせめぎ合いなんです。
だからこそ山上被告のこれまでの被告人質問の内容というのは、有利になってみたり不利になってみたり非常に曖昧な分かりにくい答えになっているんですね。

谷原章介キャスター:
3回目の被告人質問では、「他の政治家では意味が弱い」、安倍元首相はとても意味合いがある方だというふうな発言もありました。4回目に今度は「安倍元首相は本筋ではない」。その後、きのう5回目の被告人質問の時点で山上被告は「殺害されなければならなかったのは間違いだったと思う」と話しています。
すごく感情が動いている感じがするんですけども、いかがでしょうか。

亀井正貴弁護士:
全くその通りで、安倍元首相を狙うことによって統一協会に影響を及ぼして、その状況を変えるのであれば、一定の政治目的に類するような状況になりますから、政治テロの意味合いが出るんです。
他方で安倍元首相を狙うんではなくて本来は統一協会だ、恨みの対象なんだということになってくると、これは普通の犯罪に近くなってくるんですね。
確信的にやった犯行だと思いますけども、それをそのまま言ってしまうと再犯の可能性が出てきますから、そこは否定しなければならない。だから「私がやったことは間違いである」というのは言わざるを得ない話なんです。

もう一つポイントは、「なぜ気持ちが変わったか」「なぜそうなったか」ということについては報道されていないので、質問したかどうかわからないですけども、本来、検察はそこを質問で詰めていくべきポイントなんです。

今後の裁判どうなる?昭恵さんの再出廷は?

最後の5回目の被告人質問で亀井弁護士が注目したのは、最後の裁判長からの「人の命」についての問いです。

――この証言は今後に向けてどういう影響が出るのでしょうか?
亀井正貴弁護士:

おそらく裁判官がこれを指摘したのは、ちゃんとした答えが出てこないということについての思いというので出たと思うんですよね。しかも山上被告は安倍元首相を標的にする前に別の人間も標的にしてきてますから。人命軽視というのが顕著に出てるんじゃないかと。
もちろん怒り恨みという動機の部分はあるけれども、裁判官ですからそういうところが気になるんだと思います。

――12月18日の論告求刑で安倍昭恵さんが意見陳述する可能性も。その点についてはどう思われますか?
亀井正貴弁護士:

昭恵さんは社会的活動をしていて、普通の被害者遺族とは違う面があります。おそらく被害者遺族の場合は意見陳述してかつ求刑も出せますから、おそらく死刑求刑とかいうのが一般だろうと思うんですけども、昭恵さんの場合にはその辺が読めないところがあるので、そういう意味で、どうなるか注目です。
(「サン!シャイン」12月5日放送より)