高市内閣が決定した補正予算の主な項目が書かれた文書には、国民の税金などの使いみちが記されている。物価高に対応する電気・ガス代の支援や、“おこめ券”などに使える「重点支援地方交付金」、 こども1人あたり2万円の“子育て応援手当”など、経済対策の財源を裏付けるためのものだ。

その中にある「アジア・アジアパラ競技大会」には、136億円の予算がつけられている。
だが、このスポーツ大会は、そもそも国の財政支援を行わないと決まっていたという事実があったことがFNNの取材で分かった。
一体なぜ、政府の方針が転換され、予算が投じられるのか。経済対策の中に紛れ込んだ予算投入の経緯と背景を追った。

人件費など高騰…膨れ上がった経費

「アジア大会」は、4年に一度開催されるアジア最大級のスポーツの祭典。45の国と地域が参加し、水泳やレスリングなどあわせて41の競技で白熱した戦いが繰り広げられる。

次の大会は、2026年9月に愛知県で開催されることが決まっていて、日本での開催はおよそ32年ぶり。

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この大会をめぐり、愛知県から政府に要望があった。

大村知事:
(国が)大型の補正予算が検討されていますが、我々としてはそうした中で国の財政支援を是非お願いしたいと要請している。

愛知県などの要望を受け、急遽、大会に国民の税金が投入されようとしている。

支援に動いた愛知県選出の国会議員、自民党の丹羽秀樹衆院議員は「社会情勢の急激な変化によって(経費が)大幅に上回っており、大幅に上回った分、国の支援をお願いしたい」と話す。

建築資材や人件費の高騰、円安などにより、予算は当初試算していた1000億円程度から、3倍以上の3700億円程度まで膨れ上がってしまったのだ。

「費用負担しない」7年前に政府決定も…

この“危機”を受けて、スポーツ行政にかかわる大物議員が動いた。

橋本聖子元五輪相:
外交的なことも含めて、国として対応しなければいけない問題も出てきておりますので。

しかし、“経費が膨らんだから国の税金を”という動きの前には、過去に築かれた“壁”が立ちはだかった。

2018年9月、安倍内閣の閣議の資料には、2026年第20回アジア競技大会について「新たに国による特別の財政措置は講じない」「国によるいかなる負担も助成も行わない」と書かれ、“国民の税金を使っての費用負担をしない”と政府が決めていたことが分かる。

なし崩しの特例措置

7年前に政府が決定しているにもかかわらず、なぜ、いまになって130億円以上の予算を投入することが可能になったのか。

その“からくり”のカギとなる自民党内での会合が11月14日にあった。

午前9時、会議室にはスポーツ行政に深くかかわる橋本聖子議員に加え、愛知県の大村知事の姿が。ここで審議されていたのが、「アジア競技大会・アジアパラ競技大会に関する特別措置法」という法案。

その名の通り、「特別に措置」する法律のこと。政府が決めた方針を、この法律を国会で成立させることによっていわば“なし崩し”に“特例”として塗り替えてしまおうというアイデアだ。

取材で、この “奥の手”が、周到に準備されていたことが明らかになった。

「取扱厳重注意 11月4日時点」と書かれた資料。

法案の成立に向けた「スケジュール想定」が記され、 そこには、「補正予算審議に入る前に通すのがベター」との記述まである。

この特措法に、ほぼすべての野党も同調し、まさに想定通り、3日に成立した。