冷たい川に身を投じ、自然と一体になって描く—28歳の画家・土田翔が追求する「エクストリーム直写」の世界。福島の吾妻山という原風景と向き合い、巨匠・小松均から受け継いだ「直写法」を極限まで推し進める彼の創作は、「どうかしている」と評されるほど対象との同化を目指している。触覚、匂い、音、すべての感覚を取り込んだ実感こそが、彼の絵画の本質だ。

五感で感じ絵に昇華

2025年10月、福島県の吾妻小富士。身を切るような冷たさもいとわず、男性は川に飛び込む…それは描きたいものがあるから。
「吾妻山から流れてくる川、そして吾妻山を見ながら上流へ進んでいくことができる川としてこの川を選びました。だいぶ冷えましたね」

描きたい世界を知るため冷たい川にも飛び込む
描きたい世界を知るため冷たい川にも飛び込む
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画家・土田翔(28)は、対象に限りなく近づくことで、描いたものにリアリティが宿ると信じている。
「自然を実感するためのひとつの手法として、自分が川に入るということをしていまして。今回はこの季節でこの川に入る、その冷たさや川の勢いを全身で受け止めて、私が描きたい世界を全身で知るための行為ということになります」

土田翔「推本遡源」
土田翔「推本遡源」

吾妻山は、土田が何度も描いてきた原風景だ。
「私は18年間、この福島県福島市で生まれ育って、この山をずっと見てきました。記憶の中の山として、とても思い入れの深いもの」と話す。

小松均との出会いが変えた画家人生

土田は、2025年度から山形県の県立谷地高等学校で美術の非常勤講師として勤務。隣り合う色の変化、感じる温度、質感、光の反射、透明感描くための深い観察を伝える。
「結構高校時代思い出したりもします。当時のことを思い出しながら、どんなことを教えて欲しかったかなとか、どんなことを知りたかったのかなとかということを意識しながら伝えるということを心掛けています」と語る。

教壇に立ち美術を教える
教壇に立ち美術を教える

日本画を学ぶため、山形県の大学に進学した土田。山形県大石田町で出会った一人の画家が価値観を変えたという。
日本画家・小松均は、最上川をモチーフとした数多くの作品を世に残した。
土田は「小松の画からは音が聞こえると言われていて、彼の描く画の川の流れや勢い、水しぶきというものを見ていると、本当に音が聞こえてくるようだ」という。
小松は自身の描き方について「鉄砲打が小鳥に尺定を合せて引き金を引くように、物と紙面を合せ、そして筆先を持っていくのです」※出典:『三彩』「わたしの画の修行法」(1978年)と述べている。

画像:山形県大石田町立歴史民俗資料館
画像:山形県大石田町立歴史民俗資料館

描く対象と紙と筆が一直線に結ばれる。遠くの対象に直接触れているかのように描く、「直写法(じきしゃほう)」を提唱した。
「小松自身も対象と一体となることを目指していたとされていて、僕自身も自分が受けた実感、感触、触覚、匂い、音、衝撃、そういったものを全て自分の中に取り入れて、そういった自分が受けた痕跡というものを出力していく。結構『どうかしている』と言われる。『同化』出来ているのかなと思います」と土田はいう。

エクストリーム直写で描く世界

降り積もる雪の冷たさや叩きつける雨の音…その場所と同化することで実感できる世界。
小松均が提唱した手法を継承し、拡張していく。たどり着いた答えを、「エクストリーム直写(じきしゃ)」と呼んでいる。

雨の中、絵を描く土田
雨の中、絵を描く土田

「私にとって絵画とは、対象と実感した痕跡を残す行為かなと思っておりまして、僕自身が身体で受けた実感、衝撃というものを絵画、画面の中に表す行為でプラス僕が描くための風景とか世界を知る行為だと思っています」と土田は語った。

画家・土田翔
画家・土田翔

実感を描く画家・土田翔の流儀だ。
(福島テレビ)

福島テレビ
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