義務教育を修了できなかった人や、十分に学べなかった人たちが「学び直す」場として、全国各地で整備が進む夜間中学。2025年、鹿児島市に県内初の夜間中学「県立いろは中学校」が開校した。10代から80代まで、様々な国籍・背景を持つ生徒たちが夜の教室に集い、「学びたい」という思いをともに燃やしている。片道2時間以上かけて通い続ける72歳の女性、白バイ隊員を夢見る新入生――それぞれが抱える事情と希望の物語を追った。

県内初の夜間中学が鹿児島市に誕生

2025年、鹿児島市に開校した県立いろは中学校は、様々な理由で義務教育を修了できなかった人や、十分に学べなかった人を対象とした夜間中学だ。授業は月曜日から金曜日の週5日、午後5時半ごろから午後9時まで行われ、科目は通常の中学校と同じである。

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夜間中学は学び直しのニーズに対応するため各地で整備が進んでおり、2026年度も栃木や大分など7校が新たに開校。全国に69校が存在する。2年目を迎えたいろは中学校では現在、国籍も様々な10代から80代の生徒29人が学んでいる。

2025年3月の修了式では、生徒代表の東千冬さんが最初の1年間をこう振り返った。

「いろは中学校に入学しようと勇気を出した1年半前の自分を褒めてあげたいです。なぜなら、ここにいる全ての皆さんと出会えて、一緒の時間を過ごせたことが何よりの宝になったからです」

「やっと、やっとそういうことに出会えた」――72歳、西村美出子さんの決意

鹿児島市在住の西村美出子さん(72歳)は、2025年にいろは中学校に入学した2年生だ。14歳の頃、友人関係の悩みや引っ越しによる環境変化が重なり、学校に通えなくなった。

「勉強に取りかかる精神状況じゃない。黙々と自分の苦しみの中にいる。やっぱり学校に行きたい、行きたいけど行けない」

その後、様々な仕事を経験したが、学びが不十分であることで傷つく場面もあったという。職場では「あなたは覚えが悪い」「できないんだったら人の10倍も20倍も努力しなさい」といった言葉を浴びせられることもあった。

そんな西村さんが夜間中学の開校を知り、「学び直す」決意を固めた。

授業が始まる夕方より前の時間も、西村さんは忙しく動いている。地域の清掃活動、配達の仕事、町内会の活動。自宅近くで育てる花の手入れも日課の一つだ。育てた花はほぼ毎日、学校に持参するという。

「私が一番心を病んだ時、一輪の花に助けてもらった。自分の人生の中で花がいつも支えてくれた。だからみんなもそう感じてもらえたらいいなと思って(学校に持っていっている)」

朝から大忙しの西村さんは、それからバスと電車を乗り継ぎ、片道2時間以上かけて通学する。それでも足取りは軽やかで、今のところ皆勤賞を続けている。

「どんなことがあるんだろう、(学校の)みんなやクラスメイトに会えたり、やっぱり英語があるといいな」

この日、廊下の片隅に飾ったのはアヤメの花。英語の授業では「seafood」「reservation」といった単語を学び、真剣な表情で授業に向き合った。

「勉強できることがすごくありがたいし、世界が開けるし、『こういうことがあるんだ』と驚きもあるし、やっと、やっとそういうことに出会えた」

試行錯誤を続ける学校――AIドリルと「ほっとステーション」

開校から1年、いろは中学校は生徒たちの多様な事情に合わせて、様々な工夫を重ねてきた。

数学担当の秋元千賀子さんは授業の準備についてこう語る。「難易度や問題の数を変えて、『きょうはできた、わかった』と思ってもらえたらなと準備をしている」。経験豊富な中堅・ベテランの教職員が多く配置され、学び直しの場ならではの教育を模索している。

2025年10月には「AIドリル」を導入した。生徒が間違えた箇所をAIが学習し、オリジナルの復習問題を生成する仕組みだ。それぞれの理解度に合わせて無理なく勉強を続けられる環境を整えている。

「生徒の居場所づくり」という観点でも工夫が続く。2025年11月には、教室を改装した「ほっとステーション」を開設した。休憩や交流など、生徒たちが自由に利用できるスペースだ。

加藤淳一校長はその意図をこう説明する。「大勢の前にいると疲れたり、ストレスを感じる生徒もいるので、ここに来てホッとしてもらう。開校前はここまで想定していなかったが、生徒と一緒に生活していく中で、新たに気づかされたことも多い」

「将来、白バイ隊員になりたい」――夢を持って集まった新入生たち

2026年、いろは中学校には12人の新入生が仲間入りした。新入生代表の西心美さんはこう語った。

「様々な背景を抱えながら、それぞれに志を持ってここに集まっています。みんなで助け合いながら、一歩ずつ進んでいきましょう」

新入生の坂野菫さんには明確な目標がある。「将来、白バイ(隊員)になりたくて。中学を卒業する頃には高卒認定の資格を取れるくらいまで勉強を頑張りたい」。奥屋義隆さんも前を向く。「どうにかこうにか勉強して、大学は無理かもしれないが、高校には行きたいと思っている」

年齢も国籍も生い立ちも異なる生徒たちだが、「学びたい」という思いは共通している。いろは中学校には、そうした思いが日々集まってくる。

学校行事として生徒の親睦を深めるレクリエーションも設けられ、あの頃は叶わなかった青春の時間を取り戻す場にもなっている。生徒も先生も、お互いを理解し合いながら模索を続けるいろは中学校。それぞれの目標と「学びたい」という思いが、今夜も鹿児島の夜の校舎に灯りをともしている。

【動画で見る▶夜間中学「県立いろは中学校」開校 鹿児島で始まった学び直しの現場と多世代の挑戦 】

鹿児島テレビ
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