「OTA」という言葉をご存知でしょうか。オンライン・トラベル・エージェンシー=ネットの旅行代理店、予約サイトです。東京の調査会社によりますと、旅行を予約する際に最も多く利用されているのは「オンライン」で、その割合は8割を占めています。
 
そうした中、若狭町にある若狭三方五湖観光協会らが、11月に地域独自の旅行予約サイト「地域OTA」を立ち上げました。その背景や目的を取材しました。

午後4時、若狭町世久見の「漁師民宿」では、夕食の準備が進められていました。
  
「これは今朝、私が定置網でとってきた魚です」
  
そう話すのは、社長の藤原雅司さん(46)。漁師歴26年です。
  
「この舟盛の9割は自分で釣ってきたものですね」
  
創業60年近く、親子2代で営む素潜り漁師宿。家族で経営していて、客の7割以上が常連です。
  
30年近く毎年、関西から訪れる常連客は「おいしい!食材が新鮮なのが一番のウリ」と太鼓判を押します。

若狭湾と三方五湖に囲まれた若狭町には、豊かな水資源に囲まれた地域性を生かして漁師民宿を中心に約60軒の宿が点在しています。
   
1980年代頃には150軒近くの民宿がありましたが、高齢化や担い手不足などで、この40年ほどで半数以下にまで減りました。
   
それでも、農林水産省の2023年の調査では、若狭町の漁師民宿の数は全国最多です。

この地域の産業を守ろうと若狭三方五湖観光協会や福井銀行などでつくるコンソーシアムが、国の支援を受けて新たな取り組みをスタートしました。「地域OTA」の立ち上げです。
   
町内の漁師民宿を中心とした予約サイトを始め、観光協会がその運営を担っています。
  
若狭コンソーシアムの田辺一彦実行責任者は「今まではバラバラだった予約の仕組みを1つにまとめ、そこに観光協会も入りダイレクトに予約ができる仕組みを作った」とします。
   
旅行業界ではオンライン予約が主流となっていて、その対応が急がれます。
  
しかし、町内の民宿の多くは家族経営で、漁業との兼業ということもありデジタルへの対応が十分に進んでいません。
 
観光協会がサポートに入り、家族経営での事業者も無理なくオンライン予約に対応できるよう、電話受け付けや予約管理などの業務負担を軽減することが狙いです。

今回、実際にシステムの導入を決めた藤原さん。これまでは電話などで受けた予約を一度、紙のカレンダーに書き込み、その後で空室状況を自社のホームページに一つ一つ反映していました。
    
「その時間を少しでも漁に出たり客に使えたりする方が、これからの民宿経営や漁師業にもいい方向に向かうのではないか」(藤原さん)
  
藤原さんは、システムの導入することにより予約や空室管理といった事務作業の軽減を期待しています。


また、この取り組みによる地域全体へのメリットもあります。
   
観光客が地域OTAで予約すると、これまで県外OTAに流れていた手数料が観光協会に入り、地域内で経済が循環する仕組みができます。
  
若狭コンソーシアムの田辺実行責任者は「外貨を獲得して内需を拡大し、雇用を増やすことにもつながるし、そのお金を活用しながら今後の持続可能な形の観光地づくりに生かしていける」と期待を込めます。
  
伝統的な暮らしや産業を守りつつ、地域経済の活性化を目指す「地域OTA」。賛同してくれる宿を集めながら、本格運用に向けて順次改善を重ねていくとしています。

福井テレビ
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