今年の熱中症死亡事例の発生数が、前の年に比べて半減していた事がわかった。

東京都の監察医務院によると、2025年の東京23区の熱中症死亡事例の発生数は141人で、2024年の306人に比べて半分以下に減少した。

気象庁によると、今年の夏(6〜8月)の国内の平均気温は平年より2.36度高く、過去最高だった2023年、2024年夏を上回ったと発表していた。群馬県伊勢崎市では、2025年8月5日日本歴代最高気温である41.8度を記録した。東京都に限ってみても、8月30日には、観測史上5位となる38.5度を記録するなど、猛暑に見舞われた。

それにも関わらず、なぜ熱中症による死亡事例が半減したのか?

熱中症対策が奏功か

熱中症は、異状死の扱いとなるため、23区内の医療機関の医師から所轄警察署に届け出がなされ、監察医務院の監察医による検案や解剖が行われる場合もある。

監察医務院が行った公開講座では、熱中症死亡者数が減少した要因について、熱中症に対する注意喚起が浸透したことで、様々な対策が講じられたのではないかとの見解が示された。

一方、熱中症には引き続き注意が必要だとしている。

熱中症が重症化すると、体熱拡散が追い付かず体温上昇が始まり、体温が41度を超えると臓器の機能障害、体温調節機構の破綻、体温のさらなる上昇により、多臓器不全で死亡することになる。

若年層は、屋外での労働や運動している日中に発症することが大半で、発症の発見と治療が早いため、比較的予後が良好なケースが多い。

一方で高齢者の発症時刻は夜間も稀ではない。

発症は数日かけて進行するため発症の発見が遅れることが多いという。

高齢者の死亡事例

監察医務院から発症の発見が遅れたケースとして2つ症例が紹介された。

1つ目は2世帯住宅に息子夫婦と同居していた90代の女性の例だ。

8月上旬のある日の朝、壁にもたれかかり歩けなくなり、ソファに寝かせることにしたが、翌朝午前6時頃様子を見に行くと、女性は呼吸が荒く意識がなかったという。女性は救急搬送中に心肺停止となり、死亡した。

2つ目の症例では、1人暮らしだった80代の女性のケースだ。

8月中旬に娘が女性と会った際には、やや夏バテ気味だったが重症には見えなかったということだったが、その翌日午後9時頃に次女が女性宅を訪問したところ応答がなく、屋内に入ると寝室のベッド上でうちわを片手に握ったまま死亡していたという。窓は締め切られ、エアコンは故障していた。死亡推定時刻は当日午前2時頃だった。

エアコンONで死亡も

熱中症の屋内死亡事例とエアコンとの関係性についてのデータも公表された。

2013年から2023年の10年間に屋内で発生した死亡事例で、サウナ中、勤務中、状恐不詳を除く1295件を調べたところ、382件、29%がエアコンなしの部屋で発生していた。

他方死亡事例の62%がエアコンの設置された室内で発生している。このうち89%は電源がオフの状態だった。

不思議なことに、全体の6.5%にあたる84件の死亡事例は、エアコンがオンであったのに、熱中症を発症して死亡していた。

高齢者には使い方の説明を

原因は3つあり、1つ目は、冷房ではなく暖房の設定だったり、送風モード、掃除モードになっていたなど、エアコンの設定の問題。

2つ目は、機器側の問題で、設定は冷房になっていたが、なぜか温風がでていた、送風口にホコリがたまっていて送風ができていなかった事もあるという。

3つ目は、冷房はオンだったが窓が全開だったケースもあるという。

こうした事例の多くは一人暮らしまたは高齢の夫婦世帯となっており、東京都監察医務院では、エアコンが正常に機能するか、暑くなる前に訪問して確認したり使い方の説明や、必要に応じてメモなどでも伝えることを推奨している。

大塚隆広
大塚隆広

フジテレビ報道局社会部
1995年フジテレビ入社。カメラマン、社会部記者として都庁を2年、国土交通省を計8年間担当。ベルリン支局長、国際取材部デスクなどを歴任。
ドキュメントシリーズ『環境クライシス』を企画・プロデュースも継続。第1弾の2017年「環境クライシス〜沈みゆく大陸の環境難民〜」は同年のCOP23(ドイツ・ボン)で上映。2022年には「第64次 南極地域観測隊」に同行し南極大陸に132日間滞在し取材を行う。