寒さの厳しい季節に入り、家庭でニーズが高まるのが鍋だ。
各メーカーがパウチタイプの鍋つゆで様々な商品を展開ししのぎを削る中、島根の漁師町ならではの食文化を表す「鍋つゆ」の新商品が登場した。
そして鳥取で人気を呼ぶラーメンの名店の味が、ついにカップ麺に…。
このように、山陰の地域の味を全国に広げようとする動きが広がっている。
地方で愛される味を大手企業が商品化する背景に迫った。
島根半島の港町「美保関」の漁師鍋の味 全国区へ
島根・松江市のスーパーマーケットを訪れてみると、店内の目立つ場所に「美保関漁師鍋つゆ」が並んでいた。
大手食品メーカーの日本食研が、2025年秋から販売を始めた新商品だ。
パッケージには、松江市美保関町にある美保神社の祭神・恵比寿様と、地域の伝統神事である諸手船(もろたぶね)神事が描かれている。
透き通ったつゆは、ノドグロのエキスを使った醤油がベース。
ネギやシイタケなど定番の鍋野菜と、エビやタラなどの魚介類がオススメの具材だ。
実際に食べた記者は「コク深い醤油の味わいです。あらゆる鍋つゆを食べてきましたが、魚に合うというのは珍しい気がします。さすが漁師鍋を謳っているだけあります」と感想を述べた。
実在しない!?「美保関の漁師鍋」 地域の声を拾い商品化
実は「美保関の漁師鍋」という定番メニューは、地元にも明確に存在していなかった。
日本食研・小売商品開発グループの徳原将弘グループリーダーは「美保関の鍋といえばこれだっていうものがなかなか無かったので、少し言ってしまうと創作の鍋にはなってしまう」と率直に語る。
地元の人々に話を聞きながら作り上げていったという。
この商品は、日本食研が展開する「郷土鍋シリーズ」の一つ。
「両国ちゃんこ鍋」、「博多もつ鍋」、「鹿児島豚しゃぶ」など知名度の高い鍋料理が並ぶ中、「美保関の漁師鍋」はややマイナーだと言える。
「まだ多く知られていない郷土であったり、その鍋を広めていくというのも、弊社がやっていくべきことの1つ」と徳原グループリーダーは開発理由を語る。
ビジネス戦略としての“地域発掘”
ただ地域発掘の思いだけではなく、ビジネス戦略の側面もある。
焼肉のたれで有名な日本食研だが、拡大する鍋つゆ市場では後発組だ。
「同じキムチ鍋をやっていったのでは、より強いメーカーさんに勝てない」と徳原グループリーダーは説明する。
差別化戦略として「郷土鍋と言えば日本食研」という地位確立を目指しているという。
鳥取の名店の味が「カップ麺」に
地元の味を掘り起こす例は鳥取にも…。
鳥取市気高町のラーメン店「ホット・エアー」は、『ミシュランガイド』で「ビブグルマン」の称号を獲得した実力店だ。
鶏のうま味を引き出した特製スープの塩ラーメンが看板商品となっている。
この名店の味が、11月からコンビニチェーン・ローソンで「サンヨー食品」によるカップ麺として全国発売された。
店主の吉田克己さんは「カップ麺までいくとなると、認知されてないと出てこない話だと思っていたので、それが来たというのはすごく嬉しい」と喜びを語る。
サンヨー食品に素材やレシピを伝授し、こだわりの味の再現に協力した吉田さん、カップ麺を出すことが夢だったという。
完成度は高く、「鶏だしを中心とした奥深いスープの味わいが再現されています」と取材し試食した記者も評価する。
なぜ鳥取のラーメン店に着目?地方の人気店発掘の“先駆者”
なぜサンヨー食品が鳥取の店に着目したのか…。
サンヨー食品マーケティング本部の寺田俊哉さんは「地方で人気になってるお店を掘り起こしを始めたのは、恐らくいわゆる大手ラーメンメーカーの中では、弊社が結構先駆けの方だった」と自負する。
発売から3週間で想定の倍以上の売れ行きだということで、ホット・エアーの吉田さんは「うちの店だけでなく山陰や鳥取のPRになったらいい」と期待を寄せる。
地域の味を発掘する大手企業の取り組みは、地方にとって知名度が全国区になるチャンスといえる。
地域色豊かな食文化が、企業のビジネス戦略と結びついて広がろうとしている。
(TSKさんいん中央テレビ)
